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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第一章 最凶の魔物
35/103

語るアンクラン1

 そうして一行は、人気のない空き地へとやってきた。


 ヘイトたちからすれば、誘われたのだが、食われるつもりは毛頭なかった。それどころか、完膚なきまでに潰してやろうと思っていた。クアリにいた弓の男もついてきているが、関係ない。ヤツが戦意をなくすまで、何度でも殺してやる。


 ヘイトがそこまで思うのには理由があった。


 ――ヒト風情が、俺を倒すためにあれこれと考えている。そして、わざわざ人の少ない場所にまで連れてきて、自ら戦う意思を示している。


 挑発には乗ってやる。だが、手加減は一切しない。


「ここまで来ていただけた、ということは、もうお分かりですよね?」


 話しかけてきた男――たしか、アンクランだったか。


「俺を倒そうというんだな」


 ヘイトたちと四人組の間には、少しばかり距離があった。敵として認識している者同士が対峙したとき、自然とできる最適な距離。少し声を大きくしなければ、聞こえないような距離だ。


「まあ、それは言い過ぎかもしれません」


 アンクランは肩をすくめた。


「私たちは、あなたを倒せるとは思っていません」


「だったら、どうして俺をここに連れてきた」


「ここならば、誰にも邪魔されないからです」


 いい心意気だ。戦意の現れだろう。


 そう思って身構えたが、予想に反してアンクランは穏やかに言った。


「私は、あなたとお話がしたいのです」


 ――?


 頭に疑問符が浮かぶ。


 俺と話…? 何を考えている? こいつらは俺が憎いのではないのか。仕返しをしに来たのではないのか。そのために、ここに連れ出したのではないのか。


「どういう意味だ?」


「私があなたと会ったのはこれが初めてです。最初はモンスターと聞いて、――他の魔物がそうであるように――ただ敵意をぶつけ合うだけの対面になると思っていました。ですが、あなたは違う。理性がある。私たちと意思を伝えあう言葉がある。故に、知りたいと思ったのです。あなたがかの森の村を襲撃したように、人々を殺す理由を」


「くく…」


 ヘイトはこみ上げる笑いを押さえることができなかった。


「はははははは!!」


 面白い! この男は、自分が何を聞いているのか理解しているのか?


 突然大声で笑い出した美青年に、シルバも含め、その場にいた一同が目を丸くした。ただ一人、アンクランを除いて。


「よければ、何がそんなに面白いのか教えていただきたい」


 微笑を湛えたアンクランは静かに言う。


「俺がヒトを殺す理由が知りたいだと? 今さらお前たちに、そんな口を利けるものがいたとはな。 己の罪も知らずによくも抜け抜けと言えたものだ」


「私たちに非がある…と?」


「なに…?」


 アンクランを見る限り、彼は本当に何もわかっていないようだった。


 罪の意識もない。人間が魔物を殺していることなど、まるで知りもしないかのような言い方。


 そして、あることに気が付いたヘイトは愕然とした。


 彼らにとって、魔物を殺すことなど日常。命を奪うことに一切の疑念も抱いてはいないのだ。そこには後ろめたさや、悔恨もない。罪の意識がどうこう以前の問題なのだ。


「愚かだな…」


 ――話だと? 笑わせるな。興ざめだ…。


 今すぐにでも、この身の程知らずな男を切り伏せてしまいたい。そんな欲求を抑えて、ヘイトは深呼吸した。


 この人数差だ。人の姿のままでは、戦えても互角かそれ以下…。シルバのことも考えれば、剣を交えるべきではない。ただし、()は、だ。


「お前たち人間は、魔物を大勢殺してきただろう」


 アンクランは答えない。


 あくまで、否定はしないということか。


「俺たちが人間を殺す理由が必要か?」


「我々と理由は同じだと…?」


「お前たちに許されて、俺たちに許されない道理はなんだ? その差はないはずだ」


「かつて、人と魔物とが手を取り合って生活を営んでいた歴史は知っています。だが、その平和は長くは続かなかった。人間が、力を欲したからです。あなた方が人を殺し続ける理由は、それと同じなのですか?」


 いいや、全く違う。俺は復讐の為だけに戦う。殺されていった同胞のために。


「仲間を殺されて、黙っていられる馬鹿がいるか…?」


 表に出さなかった感情をヘイトはようやく露わにした。それも、至って静かに。だが、たしかに相手に伝わるように。


 アンクランは眉ひとつ動かさない。


「なるほど…。よく分かりました。あなたは(いか)っている。物凄い怒りだ。我々人間に戦争という過去があるように、心ある者なら、仲間を殺されて傍観はできない…。そう、復讐の連鎖です。あなたもまた、その螺旋に囚われたうちの一つということですね」


 彼の表情からは、感情が読めない。何を考えているのかも。目の前に村を一つ壊滅させた魔物がいると、理解しているような雰囲気ではない。


「しかし、復讐はさらなる復讐を生み出すだけ。ここで大勢を殺しても、いずれ誰かがあなたを打ち倒そうと剣を取ります。無関係な魔物にまで被害が及ぶ恐れもある。それでも、あなたは復讐を望みますか?」


 ――俺を説得しようとしているのか? 万が一にでも、俺が戦いの手を止めるとでも?


「いくら新たに復讐者が生まれようとも、俺がこの手で全て葬り去ってやる」


 アンクランは短くため息をついた。呆れたといったところか。


「もういい、俺が片を付ける」


 痺れを切らしたのは、黒いオーラの男だった。


 弓に番えた矢に、黒炎の如き()が纏わりつく。


 ヘイトは身構えた。


 ――ここであの攻撃を受けるのは、マズいかもしれないな。


 弓矢による攻撃にしては、至近距離といっても過言ではない距離だ。ダメージはタダでは済まないだろう。かといって回避できるか怪しい。


 まあ、仮に傷を負ったとしても、元の姿に戻れば治癒できるか…。


「待ってください、テロッサさん」


 弓を引き絞り、こちらに狙いを定めていた男を止めたのはアンクランだった。


「なんだ…?」


「もう少しだけ、話をさせてください」


「十分話しただろう。あいつの意思は変わらない。分かったはずだ」


「ええ…。だからこそ、です。そこらの魔物とは一線を画す存在。知性があり、意志もある。故に、確かめなければならないことがあります」


「…?」


 テロッサと呼ばれた男は構えていた弓をおろした。


「ベウィさん、あなたも違和感を覚えているはずです」


「ああ…。イヤな感じだ…」


 エメネ・ベウィが顔を歪める。


「ここでケンウィックさんとテロッサさんに真実を明かすのは不本意ですが…、目の前に()がいる以上は、致し方ありませんね…」


 どうやら、俺が原因で、身内にも打ち明けていない何かを話さなければならない状況になったらしい。


 アンクランとエメネ以外の二人も、自分と似たような心境なのだろう。会話の主導権を握っている二人が何について話をしているのか分からず、顔を曇らせている。


「まあ、あなたがおっしゃったことを考えれば、すでに結論は出ているのですが…」


 アンクランの視線がヘイトに注がれる。


「好奇心を抑えるのは体に毒というもの。ベウィさんも知りたいでしょう…?」


 その時のアンクランの声色は、ヘイトでさえ悪寒を感じるほどだった。


「ここでぜーんぶひけらかして、何もかも引っ掻き回そうってんだろ。もともとあんたはそういう人間だ。今さら止めはしないよ。だからこそ、手を切ったんだしね」


 ――分からない。彼らが何を言っているのか分からないが、勝手に会話が進んでいく。


「では、魔将軍ヘイト殿をはじめ、ケンウィックさん、テロッサさん!」


アンクランは、まるでこれからショーでも始めるかのように両手を広げて高らかに言った。


「世界の真理を解き明かしましょう!!」

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