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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第一章 最凶の魔物
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緊張

 町を歩きはじめて、どれくらいが経っただろうか。未だに兵士らしき人間は見つからない。


 クェルの魔法に余裕はあるようだが、もう一つ、気がかりなことがある。


 さっきから後ろをつけてきている四人組だ。


 シルバは気がついていないようだが、はっきりとわかる。俺たちと同じ速度。歩幅。一定の間隔を保ったまま、つかず離れずの位置をピッタリと歩いてくる。


 その中の一人には見覚えがあった。


 さっき、すれ違ったとき、たしかに感じたあの気配。警戒していなかったので近づくまでわからなかったが、クアリの村で出会った黒いオーラの男そのものだ。


 いや、感知するまでに時間を要したのは、自分の気配と似通っているからでもあるだろう。


 ともあれ、このままでは動きにくい。あの男が矢を射かけでもしてきたら、人間の姿であるうちは応戦しにくい。能力が十分に発揮できないからだ。


 シルバとて、同様だろう。いつもは強靭な防御力を誇る彼女だが、ヒトの姿であれば剣の一振りで倒れる可能性もある。素早さの面では、道行く人間からものをかすめ取るくらい、造作もないらしいが。


「シルバ、少しいいか?」


「なんでしょう?」


「さっきから、俺たちをつけてきている連中がいる」


 短く「えっ」と声をあげたシルバは、ゆっくりと後ろを振り返ろうとした。


「振り向くな」


 咄嗟に釘を刺す。


「あいつらはまだこちらが気が付いていないと思っている。このまま歩き続けろ」


「はい…」


 不安げな表情のシルバ。


 その時、なぜかは分からないが、ヘイトは彼女の不安を取り除きたいと思った。せっかくの楽しいひとときから一変、途端に状況が悪くなったことで、彼女の顔には悲しそうな色も見て取れた。それを、どうにかしたいと思ったのだ。


「シルバ…」


 ヘイトは自分でも意外な行動に出ていた。


 隣を歩く彼女の手を取ったのだ。


「へ、ヘイト様…?」


 あまりに急な出来事に困惑するシルバ。


「大丈夫だ。俺がついてる」


 ヘイトがそう言うと、シルバの顔はパッと明るくなった。


「はいっ!」


 手を繋ぐという行為は、予想以上に効果があったらしい。シルバを見て、そう確信した。


 問題は後ろの人間たちだ。


「あの、少しよろしいですか?」


 意識を向けようとした矢先、背後から声をかけられて、足の止まったヘイトは身を強張らせた。


 よもや、この俺が後ろを取られるとは。意識が完全にシルバの方へと向いてしまっていた。


 驚いたことを勘繰られないように、平静を装う。手を繋いだシルバには、ヘイトの動揺が伝わってしまっているようだった。


「なんだ」


 振り向いた先にいたのは、背後をつけて来ていた四人組のうちの二人。背の高い聡明そうな男と、やけに露出の多い服を着た女だ。


 声の主は、どうやら男の方らしい。


「お聞きしたいのですが、ペラックの宿へはどちらへ行けばいいでしょう?」


「知らんな。他を当たれ」


 冷たく言い放つ。しかし、男は引き下がらなかった。


「ああ、このあたりの方ではありませんでしたか、それは失礼。実は、私たちもさっきここに来たばかりで、宿を探していたのです。ペラックという宿屋は評判がいいと、風の噂で耳にしたのですが、どうにも見つからず…。お二人は、今夜の宿はお決まりで?」


「いや、泊まる予定もない」


「ふむ…。とすると、このあとはどちらへ?」


「あんたに何の関係がある?」


「すみません、どうも私、お節介なもので…。ああ、申し遅れました。私、ソールシュルツ・アンクランと言います。こちらは妻のエメネ」


 ちらりと女の方を見やる。女は何も言わずに会釈をした。


「彼女、人見知りが激しくて、無口なんですよ」


 聞かれてもいないのに、ベラベラとよく喋る男だ。


「もしよければ、お名前をお伺いしても?」


 ヘイトは一瞬迷ったが、どうせ正体がバレているのなら隠す必要もないかと思った。


 そもそも、このくだらない猿芝居の本当の目的は何なのか。そこが重要だ。


「ヘイトだ」


 シルバが目を見開いてこちらを見ているのが、視界の端でも分かった。


 繋いだ手が強く握られる。


 ヘイトは大丈夫だと言わんばかりに、その手を握り返した。


「ほう、ヘイト、と…」


「不思議か…?」


「いえ、そうではありませんが…」


 それはそうだろう。お前たちははなから俺をヘイトだと思って話しかけてきているのだから。


「その名前に、少し心当たりがありましてね」


「言ってみろ」


 両者のどちらかが尻尾を出せば、すぐにでもここは戦場になる。そんな雰囲気だった。一触即発――ではないが、ピリピリとした緊張感が辺りを二人の間にはある。


 そんな空気を、ヘイトは楽しんでいた。誰かとの会話などほとんどなかった生活から打って変わって、ここ最近のヘイトの日常には会話が溢れていた。クリスタルタワーの99階に立てこもっていたときとは大違いだ。


 会話、とは、こんな形もあるのか。なるほど、面白い。


「立ち話もなんですし、ここで会ったのも何かの縁です。場所を変えて話しませんか? お時間が許すのなら、ですけど」


 誘われている。罠かもしれない。


 ヘイトの手を、シルバがクイクイと引っ張っている。誘いに乗るな、という意味だろう。


 だが、ヘイトは了承した。


「いいだろう」


 それと同時に、こう思っていた。このスカした男を葬り去ってやろう、と。

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