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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第一章 最凶の魔物
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ちょっとした観光

 これが人間の町か。砂埃にまみれてはいるが、活気がある。


街灯の明かりの下で酒を片手に語り合う大柄な男たち。露店で大声を張り上げて客寄せする商人。ヘイトに挑む者たちもかなり勢いがあったが、ここの人間たちは別の意味でパワフルだった。


というのも、ヘイトとシルバは夜のケプランのど真ん中を堂々と歩いていたのだ。目的はもちろん、ヒトを殺すため。ドルイドがエルフに変身していたことに目を付けたヘイトは、彼らに頼んで自分たちを人間の姿に化けさせたのだ。


「今のところ、バレてないみたいですね」


 隣を歩く可憐な少女はシルバだ。


「そのようだな。あとは兵士の集まる場所を探すだけだが…」


 蛇の道は蛇とは、よく言ったものだ。いくらヘイトが殺人鬼といえど、人間に化けてしまえば商人にさえ声をかけられる。


 とはいえ、クェルが言うには、化けられる時間には限りがあるらしい。術者自身が傍についていれば、絶えず魔力を送ることで姿を維持できるようだが、そうでなければじきに正体が明らかになってしまう。


 クェルを同行させることも考えたヘイトだったが、彼らをなるべく巻き込みたくなかったので、連れてはこなかった。町が戦場になれば、戦闘の得意なヘイトや防御力の高いシルバはともかく、ドルイドには危険すぎる。


「ヘイト様ぁっ」


 いかにして目的地に到達するかを考ていたヘイトは、突然シルバが甘えた声で話しかけてきたのに対して面食らった。


「ど、どうした?」


「せっかくヒトの町に来たのです。わたしたちの正体もバレていないようですし、少しだけ町を見て回りませんか?」


 こちらを見上げるシルバの目がらんらんと輝いている。


これから大勢の人間を殺そうというのに、馴れ馴れしくするのもいかがなものかと思うが…。


「そうだな。歩いているうちに目的地が見つかるかもしれない」


 ヘイトは了承した。


「やったぁ!」


 シルバが嬉しそうに跳ねる。


「とはいえ、人間の世界にはお金というものがあるのだろう? それがなければ、ものを取引したりすることはできないと聞いたが…」


「実は、ちょっとだけなら持ってるんですよね」


 シルバは服のポケットから丸くて薄い金属を数枚取り出した。


 いつの間に…。


 そんな疑問が一瞬よぎる。


「あ、出どころは秘密です」


 いたずらっぽく彼女は笑った。


 さしずめ、得意の高速移動で道行く人間から盗んだのだろう。


「わかった」


 深く聞くのは野暮だと思ったヘイトはうなずくと、周囲を見渡した。


人間に化けるということで、人間の並みの伸長程度にまで低くなった体では、かなり見える景色が違う。


「あ、わたし、あれが食べたいです!」


 そう言ってシルバが指差したのは、果物が売られている屋台だった。


 近づいていくと、やる気のなさそうな男性店員が「いらっしゃい」と声をかけてきた。


 店先に並んでいるのは、ヘイトもよく知る色とりどりの果実だ。


「りんご!」


 シルバが選んだのは真っ赤に艶めくリンゴだった。


「それがいいのか?」


「はい!」


 手に取った赤い果実を食い入るように見つめるシルバ。


「これ、いくらだ?」


 ヘイトが尋ねると、店員は「3ルト」と素っ気なく言った。


 どうやらルト(・・)というのがお金の単位らしいが、金銭の取引などしたことのないヘイトは戸惑った。


 シルバの手持ちで事足りるのだろうか。


「これで足りるか?」


 ヘイトはシルバの持っていた貨幣を全て受け取り、店員に見せた。


「…ああ、足りるが、あんた、物を買ったことないのか?」


 店員は訝しげな表情でヘイトの手の中にある貨幣と、ヘイトの顔を交互に見た。


「最近まで余所で暮らしていた。ここらの知識に疎いだけだ」


「へぇ、そうかい」


 店員は興味なさそうに言うと、ヘイトの手から三枚の貨幣をつまんで「毎度あり」と言い、目の前から離れていった。


「なんか、人間ごっこをしているみたいですね」


 リンゴをかじりながら、隣を歩くシルバが満足げに言う。


 シルバが盗んできた――かどうかはわからないが、手持ちのお金はこれで二枚になった。


「人間ごっこか…。笑えないな」


「え、あ、すみません」


 彼女に聞こえないくらいのボリュームで言ったつもりが、しっかり聞こえていたようだ。シルバはばつの悪そうな顔をした。


 クリスタルタワーを出てからというもの、ひたすらにヒトを殺し続けてきただけで、ゆっくりとした時間を過ごすことなどなかった。


 ここに来て、久々に落ち着いた時間を――それも、独りではなく誰かと過ごしている。それを無駄にはしたくなかった。


「すまない。悪気はなかった」


 ヘイトは謝ったが、シルバの表情は晴れない。


「魔法が解けるときは、予兆があると言っていた。今のところ、それは感じられないし、もう少しまわってみるか」


「いいのですか?」


「ああ。せっかくの機会だからな」


 シルバの機嫌を取るためにそうは言ったものの、気乗りしているわけではなかった。


 ないとは思うが、変に人間と親しくはなりたくなかったし、そもそも殺す前提の相手を深く知ろうとも思わなかったからだ。


 本心をシルバに打ち明けるわけにもいかず、ヘイトは少し前を楽しそうに歩く彼女の後姿を眺めていた。

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