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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第一章 最凶の魔物
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思わぬ味方

 ケプラン冒険者ギルドで戦いを繰り広げていたアンクランたちだったが、その幕引きは思わぬ形となった。


「妙に騒々しいとは思ったが、なんだこれは」


 そう言いながらやってきた訪問者がいたからだ。


 一同は手を止めて、声の主を見た。


「どなたですか?」


 互いに武器を向け合う中、アンクランが問いかける。


「俺が誰かはどうでもいい。そこの元軍人サマに用がある」


 脇腹を押さえて上体を起こしたセバスの目に飛び込んできたのは、こちらを指差すランダバードの姿だった。


「あなたは…!」


 言いかけて、脇腹の痛みに顔をしかめる。


「おいおい、酷い有様だな。ここで何があった…? というか、真っ最中か?」


 室内を見渡して呆れ顔をするランダバード。


「貴様は誰だ?」


 クーパーは苛立ちを隠せない様子だ。


「こっちこそ聞きたいね。あんたらは誰だ?」


「言葉が理解できないようだな」


「あー、別にあんたらに用があるわけじゃない。どうでもいいことで時間を潰すつもりもないし、黙って見ててくれないか」


「貴様――」


 クーパーが言うより早く、エンクウが行動に出た。


 目にも止まらぬ速さでランダバードの背後につくと、短刀を喉元に突き付ける。


「邪魔だ…」


 エンクウがランダバードの耳元で囁く。


 その後のエンクウがするであろう行動については、その場にいた誰もが想像できただろう。――喉を掻き切るのだ。


 が、彼はそうはしなかった。


 エンクウの動きが止まる。そして、彼は短刀を鞘に納めた。


「どうした、エンクウ。なぜ殺さない」


 クーパーが聞くと、エンクウはランダバードから距離を置きながら返答した。


「一旦、退きましょう」


 クーパーは腑に落ちなかった様子だが、エンクウのただならぬ様子に思いとどまり、刀を納めた。


「…分かった」


 そうして、四人の訪問者は退散していった。


 セバスはともかく、アンクランとエメネは狐につままれたような表情をしていた。


「いやはや、助かりました。あなたがどなたかは存じませんが、危ない所を助けていただき、ありがとうございます」


 アンクランが頭を下げる。


「俺は助けに来たわけじゃない。そいつに用があるだけだ」


 エメネに助けを借りながら、セバスは転がった椅子を起こして座った。


「私に用とは、どのような?」


「レオの件だ」


 セバスはその名を聞いて体に電撃が走ったかのようだった。


「隊長は、無事なのですか!?」


「まあ、生きてはいる。長くはないだろうがな」


 レオが生きている。それだけで、セバスは救われたような気持ちになった。


「今はどこに?」


「軍の療養所、とでも言えばいいのか? そこにいる」


「そうですか…」


 この一報が少し前に知らされたなら、会いにも行けただろう。


 しかし、今は追われる身だ。さすがに火中に飛び込むような真似はできない。


「行かないのか?」


「はい…。とある事情で、今は行けないのです。あなたが助けて下さったのですか?」


 言いながらエメネをちらりと見たが、彼女は素知らぬふりをした。


「結果的に、そうなっただけだがな」


 ランダバードはそう言って、その時のことを話し始めた。


「調査隊が派遣されたと聞いて、俺は単身、故郷に戻った。もし巨人が人間の気配を感じ取ったならば、襲撃してきてもおかしくないと思ったからだ。予想は的中した。俺が向かった時にはすでに戦闘の真っ只中だったがな」


 ランダバードは荒れ果てた室内をカウンターへと歩いていき、飲み口の一部が割れたグラスに酒を入れた。


「俺は巨人に挑んだが、及ばなかった。そして、殺された。両断されてな。後をお前の隊長が引き継いで戦ったようだが、あの男も巨人の攻撃に耐えるので精一杯だったらしい。だが、そのあと、俺は甦った。理屈は分からんが、俺は再び弓を持って地に足をつけていた。不思議な感覚だよ…」


 そう言って酒を飲み干して大きく息を吐いた後、二杯目を注ぐ。彼は心底美味しそうに酒を味わっているようだった。


「そのあとは?」


 エメネが促した。


「ああ…。俺はもう一度巨人に戦いを挑んだ。だが、お互いに決定打を欠いていた。自分の技量では仕留めきれない相手と、殺しても甦る人間。平行線だ。それは巨人も察しているようだった。ヤツが撤退するのを見て、俺も深追いはしなかった」


「そんなことが…」


 魔将軍が現れてからというもの、常識では考えられないようなことが次々と起こっている。異様な力を持つ冒険者、魔将軍と渡り合って殺されるも甦る者。自分の置かれている状況もさながらだが、これから何が起こるのか考えると不安になってくる。


 敵が魔将軍だけではないのも、不安な理由の一つだ。アンクランから渡された剣は――確証はないが――彼が持ち主を殺して奪ったもので、それを良しとしない人間がいる。もちろん、人殺しに正義などありはしない。本来ならアンクランを問いただして真実か否かはっきりさせるべきなのだろうが、魔将軍を倒せる望みが剣にかかっている以上、手放す選択肢がないことも事実だ。となると、剣を受け取った時点で付随してくる責任に関しては、自分が負わなければならなくなる。


「その後のことは分かるだろう。その場にいた生き残りと瀕死のレオを町まで運んで、その足でお前を探した」


 ランダバードが調査隊の面々を助けたことは意外だった。しかし、助けてもらったことに関しては疑いようがない。さらに言うと、わざわざ自分を探して隊長の無事を伝えにまで来てくれた。


「ありがとう、ございます…」


 セバスは消え入るような声で言った。


「礼はいらん。どうせ俺ではヤツを仕留めきれん。何度でも甦ったところで、倒せないのでは意味がない。王国軍は対策を講じるなどと言って手をこまねいているし、そうなると信用できそうなのはお前だけだ」


「では、協力して下さると…?」


「仕方なく、な」


 暗く悲しげな表情が印象に残っていたランダバードの顔に、わずかに笑みが見て取れた気がした。


「ありがとうございます。魔将軍と戦ったというあなたがいれば、百人力です」


 ランダバードが返事をすることはなかったが、まんざらでもないというような感じだった。


「ところで、だ。さっきの連中はなんだ? どうやら、ひと悶着あったみたいだが」


「それは私も気になっていました。彼らはいったい…?」


 セバスとランダバード両名の視線がアンクランとエメネに送られる。


 先に口を開いたのはアンクランだった。


「軽く説明しますと、冒険者の中でも、いわゆる攻略勢と呼ばれる方々です。それも、かなりの実力を有する有名なパーティーですよ」


「あの通り、いけ好かないけどね」


 エメネが補足する。


「彼らが怒っていたのは、私がこの剣を持っていたからでしょう? 本来の持ち主でない上に、元の持ち主が殺されている可能性まであるのなら、怒りを表して当然かと」


「そうですね。付け加えるなら、ケンウィックさんが冒険者ではないこともあるかと」


「私が冒険者でないことと、この剣を所有することに何の関係があるのでしょうか?」


「その質問をされるということは、すでにお察しのことと思いますが、ただ単に冒険者ではないから、というわけではありません。それなら冒険者であれば誰でもいいという風になりますからね。彼らが言っているのは、持つべき資格があるかどうか、です」


「まあ、私に資格があるのかと聞かれたら、はいとは言えませんね…」


「フフッ。別に、気持ちの問題ではありませんよ」


 アンクランは面白そうに笑った。それにつられてセバスも少し笑う。


 自分に剣を持つ資格がないのは、単に魔将軍を倒す自信がないからだと、わずかでも本気で思ったからだ。そして、それを察したアンクランは的が外れていることを指摘した。勘違いした自分が少し恥ずかしくて、セバスは笑ってしまったのだった。


 エメネとランダバードは声こそ出さなかったが、表情は柔和だった。


 埃っぽい荒れた部屋に少し和やかな空気が流れる。


 笑うと脇腹が痛むので、顔をしかめたセバスに、アンクランが大丈夫かと声をかける。


 剣のことを知らないランダバードが質問を投げかけてきたので、セバスは説明をした。


「なるほどな…。それじゃあ、そこの二人もお前の味方ってわけか」


「そうなりますね」


「剣が本当に効果があるのか知らんが、今は信じるしかなさそうだな」


 ランダバードとは初対面の印象が強かったが、話をすると案外まとも(・・・)な人だと、セバスは思った。…いや、その表現は失礼に値するか。


 その時、何かの気配を察したのか、ランダバードの動きが止まった。


「おい」


「どうかしましたか?」


 セバスが尋ねる。


「来たみたいだぞ」


 その声の調子で、セバスには何が来たのか理解できた。


「何が来たのですか?」


 アンクランはランダバードに尋ねるが、返答はない。


「あの…」


「ランダバードだ。ランダバード・テロッサ」


「え、ああ、ソールシュルツです。ソールシュルツ・アンクラン。アンクランと呼んで下さい。こちらの女性はエメネ・ベウィ」


 エメネは「どうも」というように手を広げた。


「よし、アンクラン。それにエメネ。聞いてくれ。わけあって俺は、お前たちが言うところの魔将軍とやらの気配を感じ取れる。詳しいことはあとで説明するが、今感じ取ったのはそいつの気配だ」


「魔将軍ヘイトが町に…!?」


 セバスは声を荒げた。


「分からんが、その可能性は高い」


「早速、行動に移りましょう。テロッサさん、我々の誘導をお願いできますか?」


 アンクランの表情が険しくなる。


「分かった」


 四人はギルドを後にした。

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