クェル・レヌシア
レヌシアの森から南に位置する鉱山の町、ケプラン。ヘイトは見晴らしのいい場所から、夕日に照らされる町並みを眺めていた。
「決行は今夜だ」
朝のうちにシルバにそう伝えたヘイトは、町への侵攻を容易にするための策を考えて、昼間の時間を準備に費やした。クアリを調査していた人間を襲ったとき、逃げ出した者をシルバに追わせておいたおかげで、町がある場所を知ることができたのだ。
そうして、全ての用意が整った今、あとは夜が更けるのを待つばかりとなった。
「果たして、上手くいくのじゃろうか…」
ヘイトの背後で、しわがれた声でぼそぼそ喋っているのは、レヌシアの森でヘイトたちが出会った老ドルイドだ。
「大丈夫です! ヘイト様は強いんですから」
シルバが老ドルイドを励ます。
「ドルイド、お前たちにも名はないのか?」
ヘイトが尋ねると、老ドルイドは答えた。
「わしらは互いの意思疎通に言葉を介しませんじゃ。故に、名は持たんのですじゃ」
「そうか」
その時、思い立ったようにシルバが声を上げた。
「そうだ! それなら、こちらのドルイドさんにもお名前を付けてあげましょう!」
「わ、わしに、ですじゃ…?」
老ドルイドはきょとんとしている。
たしかに、ドルイド同士では必要でなくても、こちらとの会話に際して、呼ぶ名がないというのは不便だ。実際、昼間に彼らの棲み処を訪れてケプラン侵攻の協力を仰ぎに行った時も、話がスムーズに進まなかったことがあった。
「そうだな…。俺が付けてもいいが、ドルイド、お前に名乗りたい名はないか?」
「ううむ…」
老ドルイドはしわくちゃの顔にしわを寄せて考え始めた。
「そ、それでは、クェル・レヌシアというのがいいですじゃ」
「クェル・レヌシア…?」
シルバが首をかしげる。
「はいですじゃ。ドルイドの祭儀用の言葉で、レヌシアの守り人という意味があるのですじゃ。わしらは長らく、森の守り神でもある白竜レヌシア様をお守りするという使命を担っておりますじゃ。それゆえに――」
「いいんじゃないでしょうか!」
なぜシルバが嬉しそうなのかは分からないが、老ドルイドが付けたいと言った名前は、意味も含めて、ヘイトもよさそうだと思った。
「これからお前はクェル・レヌシアだ。…クェルでいいか?」
「もちろんですじゃ」
クェルの顔がくしゃくしゃになる。たぶん、笑っているのだろう。
「よし、クェル。最後にもう一度、作戦について確認をしたいのだが…」
「分かりました」
ヘイトとシルバ、それにクェルは、円になった。




