表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第一章 最凶の魔物
29/103

衝突

 クリスタルタワーを制覇するという条件を以てしても、魔将軍ヘイトに対抗し得る力は代えがたいものだった。


 セバスはアンクランの提案を受け入れたが、エメネは納得していない様子だった。


 そして、その理由は、アンクランの書斎を出た後、すぐに分かることになる。


 三人が酒場に戻ったのとほぼ同じタイミングで、ギルドに訪問者があった。


 入口から入ってきたのは、男女の四人組。


 先頭に丈の長い黒のコートを着て腰に刀を携えた男。次いで弓を背中に背負った、飾り羽の帽子が印象的な女。その後ろから、片手に長い杖を持った、白いローブの女。最後に、黒い包帯を全身に巻き付けたかのような格好をした細身の男だ。


 四人は無言で入口から入ってきたが、先頭の男はセバスを見るなり立ち止まって言った。


「どういうことだ」


 ただならぬ雰囲気を感じ、剣の柄を握りしめるセバス。


 部屋の端同士で、三人と四人は対峙する形になった。


「これはこれは、クーパーさん。今日は皆さんお揃いで」


 アンクランが変わらぬ調子で言う。場の空気は一触即発といってもおかしくない状況なのに、物怖じ一つしていないようだ。


「アンクラン…。貴様、どういうつもりだ」


 クーパーと呼ばれた刀の男は言った。


「どうもこうも、見た通りですよ」


 アンクランが一歩前に出て両手を広げる。


「…その剣を持った男。そいつは――」


 クーパーが言い終わらないうちに、アンクランが引き抜いたのは拳銃だった。


 異国では弓に代わる遠距離武器として、すでに実用化されているらしいが、セバスも実物を見るのは初めてだった。わずかに湾曲した木に回転する金具がついているだけの、とてもこれで人を殺め得るとは思えない代物だ。


「その先は、言わせませんよ」


 アンクランの持った銃の照準は、真っ直ぐクーパーを捉えている。


 しかし、形成が不利なのはアンクランの方だと、セバスでもすぐに分かった。


 クーパーの背後で控えている三人が、すでに臨戦態勢をとっていたのだ。


 かなりの手練れであることは確かだ。アンクランの動きに合わせて、いつでも攻撃できる用意を咄嗟に行っていたのだから。


「フン――」


 クーパーが鼻で笑った瞬間だった。


 ドン!


 心臓にまで響く炸裂音とともに、アンクランの銃が火を噴いた。


 目を見張るセバス。


 銃弾は、入り口のドアに命中していた。


「当たると思ったのか?」


 クーパーの声は、先ほどより近くで聞こえた。――というより、声の主はアンクランの目の前にいた。


「まさか」


 アンクランが答える。


 クーパーが刀を引き抜くと同時に、アンクランは立て続けに発砲した。


 閃光とともに、炸裂音が部屋の空気を揺らす。


 クーパーの動きが、閃光ごとに紙芝居のように見える。


 銃声が鳴りやんだのち、埃の舞う室内に金属と金属がぶつかり合う音が数回響き、やがて鳴りやんだ。


 目で追うことすらままならなかったセバスは、室内にいるはずの二人の姿を探した。


 アンクランは、先ほどの位置から一歩退いたくらいのところに立っていた。


 一方で、クーパーの姿は見当たらなかった。


 が、すぐに分かった。


 アンクランの背中から、銀色に光る刃が突き出ている。


 それはすぅっと消えていくと、崩れたアンクランの影からクーパーが姿を現した。


「アンクラン殿!」


 セバスが駆け寄ろうとすると、それをエメネが制止した。


「よせ!」


「しかし…!」


 アンクランから目が離せないセバスに、クーパーが言った。


「自業自得だ」


 クーパーは血の滴る刀を鞘に収めて続ける。


「それにしても…、だ。アンクランがその剣を持っていたとはな。まあ、そこまでは不思議ではないが――。問題はその男だ。どう思う、シェイディ」


 クーパーの背後で、弓を背負った女が答える。


「本人に直接聞いてみたら?」


「そうしよう」


 クーパーの鋭い視線がセバスに向けられる。


「貴様、名は?」


「よくもアンクラン殿を…」


 沸々と湧き上がる怒りが収まらないセバスは、エメネを振り払って剣を引き抜き、クーパー目掛けて突進した。


「そうなるのか…」


 クーパーはそう呟くと、今しがた収めた刀に手を伸ばした。


 彼が鞘から引き抜かないので、好機だと感じたセバスは勢いに任せて剣を振りぬいた。


 が、目の前にいたはずのクーパーはいつの間にか背後に移動し、セバスの剣は空を裂いた。


「ぐっ…」


 セバスは脇腹に違和感を覚えてその場に倒れ込んだ。


「おいっ!」


 エメネが声を上げる。


「身の程知らずだな」


 クーパーがセバスを蔑む。


「なぜ、アンクラン殿を殺した…?」


 うずくまったまま、セバスは声を振り絞った。


「ギルドマスターとして、あの男は相応しくない行動をした。それだけだ」


「私がもらった、剣のことか…?」


「それだけではない。もともとその剣の持ち主は、名うての冒険者だった。まあ、剣が持つ効果が為せる技ともいえるが…。かの男が聖剣グラントを手放すとは思えん。つまり――」


 クーパーが言おうとした先を言ったのはエメネだった。


「アンクランが殺した、と?」


「その通りだ」


「はっ。そんな憶測で簡単に人を殺すなんて、相変わらず野蛮なヤツだね…」


「何が正しいかは、すぐに分かる」


 クーパーが言い終わった、その時だった。


「彼女の言う通りです。本当に、あなたは危険な男だ、クーパーさん」


 アンクランの声だった。


 うずくまっていたセバスは、アンクランが倒れていた場所を見る。


 目を疑った。彼が生きている。


「アンクラン殿…?」


「ご心配をおかけしました、ケンウィックさん」


 アンクランが何事もなかったかのように言う。


「なぜ…」


 言葉が出ないセバスに、アンクランは笑みを返した。


「お気になさらず。これくらいはよくあることですよ」


「厄介な男だ…」


 顔をしかめて言ったのはクーパーだ。


「フフッ。あなたにそう言ってもらえると、私も少し嬉しい気もします。ここで見たことを誰にも言わないというのであれば、このまま立ち去っていただけると助かるのですが…」


 クーパーは答えない。そればかりか、武器を構えてアンクランと対峙した。


「俺が引くとでも? 貴様はここで、俺が倒す」


「やれやれ、仕方ありませんね。私も少し本気を出すとしましょう」


 ――武器?


 アンクランの何もなかった右手に、先端に髑髏のついた杖が現れるのを見て、セバスは目を見張った。


「エンクウ、援護しろ」


 クーパーの言葉に、全身を包帯で覆われた風の男が答える。


「御意…」


 エンクウは腰から短刀を抜くと、前に出て構えた。


「これでは少し分が悪いですね…」


 アンクランはそう言って、エメネを見やる。


「ベウィさん、ご助力願えますか?」


 指名を受けたエメネは手をヒラヒラと振った。


「冗談じゃない――と言いたいところだけど、この状況じゃあたしまで殺されかねないし、仕方ないね…」


「ありがとうございます」


「言っとくけど、あたしの技術なんて、あくまで護身術の域を出ない範囲だからね」


 エメネの手からも、突然武器が現れる。彼女が扱うのは細身の槍だった。


「十分ですよ」


 アンクランとエメネ。そして、クーパーとエンクウ。


 双方は互いに武器を構えて部屋の中央で向かい合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ