衝突
クリスタルタワーを制覇するという条件を以てしても、魔将軍ヘイトに対抗し得る力は代えがたいものだった。
セバスはアンクランの提案を受け入れたが、エメネは納得していない様子だった。
そして、その理由は、アンクランの書斎を出た後、すぐに分かることになる。
三人が酒場に戻ったのとほぼ同じタイミングで、ギルドに訪問者があった。
入口から入ってきたのは、男女の四人組。
先頭に丈の長い黒のコートを着て腰に刀を携えた男。次いで弓を背中に背負った、飾り羽の帽子が印象的な女。その後ろから、片手に長い杖を持った、白いローブの女。最後に、黒い包帯を全身に巻き付けたかのような格好をした細身の男だ。
四人は無言で入口から入ってきたが、先頭の男はセバスを見るなり立ち止まって言った。
「どういうことだ」
ただならぬ雰囲気を感じ、剣の柄を握りしめるセバス。
部屋の端同士で、三人と四人は対峙する形になった。
「これはこれは、クーパーさん。今日は皆さんお揃いで」
アンクランが変わらぬ調子で言う。場の空気は一触即発といってもおかしくない状況なのに、物怖じ一つしていないようだ。
「アンクラン…。貴様、どういうつもりだ」
クーパーと呼ばれた刀の男は言った。
「どうもこうも、見た通りですよ」
アンクランが一歩前に出て両手を広げる。
「…その剣を持った男。そいつは――」
クーパーが言い終わらないうちに、アンクランが引き抜いたのは拳銃だった。
異国では弓に代わる遠距離武器として、すでに実用化されているらしいが、セバスも実物を見るのは初めてだった。わずかに湾曲した木に回転する金具がついているだけの、とてもこれで人を殺め得るとは思えない代物だ。
「その先は、言わせませんよ」
アンクランの持った銃の照準は、真っ直ぐクーパーを捉えている。
しかし、形成が不利なのはアンクランの方だと、セバスでもすぐに分かった。
クーパーの背後で控えている三人が、すでに臨戦態勢をとっていたのだ。
かなりの手練れであることは確かだ。アンクランの動きに合わせて、いつでも攻撃できる用意を咄嗟に行っていたのだから。
「フン――」
クーパーが鼻で笑った瞬間だった。
ドン!
心臓にまで響く炸裂音とともに、アンクランの銃が火を噴いた。
目を見張るセバス。
銃弾は、入り口のドアに命中していた。
「当たると思ったのか?」
クーパーの声は、先ほどより近くで聞こえた。――というより、声の主はアンクランの目の前にいた。
「まさか」
アンクランが答える。
クーパーが刀を引き抜くと同時に、アンクランは立て続けに発砲した。
閃光とともに、炸裂音が部屋の空気を揺らす。
クーパーの動きが、閃光ごとに紙芝居のように見える。
銃声が鳴りやんだのち、埃の舞う室内に金属と金属がぶつかり合う音が数回響き、やがて鳴りやんだ。
目で追うことすらままならなかったセバスは、室内にいるはずの二人の姿を探した。
アンクランは、先ほどの位置から一歩退いたくらいのところに立っていた。
一方で、クーパーの姿は見当たらなかった。
が、すぐに分かった。
アンクランの背中から、銀色に光る刃が突き出ている。
それはすぅっと消えていくと、崩れたアンクランの影からクーパーが姿を現した。
「アンクラン殿!」
セバスが駆け寄ろうとすると、それをエメネが制止した。
「よせ!」
「しかし…!」
アンクランから目が離せないセバスに、クーパーが言った。
「自業自得だ」
クーパーは血の滴る刀を鞘に収めて続ける。
「それにしても…、だ。アンクランがその剣を持っていたとはな。まあ、そこまでは不思議ではないが――。問題はその男だ。どう思う、シェイディ」
クーパーの背後で、弓を背負った女が答える。
「本人に直接聞いてみたら?」
「そうしよう」
クーパーの鋭い視線がセバスに向けられる。
「貴様、名は?」
「よくもアンクラン殿を…」
沸々と湧き上がる怒りが収まらないセバスは、エメネを振り払って剣を引き抜き、クーパー目掛けて突進した。
「そうなるのか…」
クーパーはそう呟くと、今しがた収めた刀に手を伸ばした。
彼が鞘から引き抜かないので、好機だと感じたセバスは勢いに任せて剣を振りぬいた。
が、目の前にいたはずのクーパーはいつの間にか背後に移動し、セバスの剣は空を裂いた。
「ぐっ…」
セバスは脇腹に違和感を覚えてその場に倒れ込んだ。
「おいっ!」
エメネが声を上げる。
「身の程知らずだな」
クーパーがセバスを蔑む。
「なぜ、アンクラン殿を殺した…?」
うずくまったまま、セバスは声を振り絞った。
「ギルドマスターとして、あの男は相応しくない行動をした。それだけだ」
「私がもらった、剣のことか…?」
「それだけではない。もともとその剣の持ち主は、名うての冒険者だった。まあ、剣が持つ効果が為せる技ともいえるが…。かの男が聖剣グラントを手放すとは思えん。つまり――」
クーパーが言おうとした先を言ったのはエメネだった。
「アンクランが殺した、と?」
「その通りだ」
「はっ。そんな憶測で簡単に人を殺すなんて、相変わらず野蛮なヤツだね…」
「何が正しいかは、すぐに分かる」
クーパーが言い終わった、その時だった。
「彼女の言う通りです。本当に、あなたは危険な男だ、クーパーさん」
アンクランの声だった。
うずくまっていたセバスは、アンクランが倒れていた場所を見る。
目を疑った。彼が生きている。
「アンクラン殿…?」
「ご心配をおかけしました、ケンウィックさん」
アンクランが何事もなかったかのように言う。
「なぜ…」
言葉が出ないセバスに、アンクランは笑みを返した。
「お気になさらず。これくらいはよくあることですよ」
「厄介な男だ…」
顔をしかめて言ったのはクーパーだ。
「フフッ。あなたにそう言ってもらえると、私も少し嬉しい気もします。ここで見たことを誰にも言わないというのであれば、このまま立ち去っていただけると助かるのですが…」
クーパーは答えない。そればかりか、武器を構えてアンクランと対峙した。
「俺が引くとでも? 貴様はここで、俺が倒す」
「やれやれ、仕方ありませんね。私も少し本気を出すとしましょう」
――武器?
アンクランの何もなかった右手に、先端に髑髏のついた杖が現れるのを見て、セバスは目を見張った。
「エンクウ、援護しろ」
クーパーの言葉に、全身を包帯で覆われた風の男が答える。
「御意…」
エンクウは腰から短刀を抜くと、前に出て構えた。
「これでは少し分が悪いですね…」
アンクランはそう言って、エメネを見やる。
「ベウィさん、ご助力願えますか?」
指名を受けたエメネは手をヒラヒラと振った。
「冗談じゃない――と言いたいところだけど、この状況じゃあたしまで殺されかねないし、仕方ないね…」
「ありがとうございます」
「言っとくけど、あたしの技術なんて、あくまで護身術の域を出ない範囲だからね」
エメネの手からも、突然武器が現れる。彼女が扱うのは細身の槍だった。
「十分ですよ」
アンクランとエメネ。そして、クーパーとエンクウ。
双方は互いに武器を構えて部屋の中央で向かい合った。




