撤退の中で
再生能力。それを有している魔物は多少なりといるが、ヘイトのそれは常軌を逸している。理由はもちろん、多大な魔力を有しているからに他ならない。しかし、仮にそれを人間が手にしたとしたら、どうか。
並の人間がヘイトと同等の魔力を得た場合、本来以上の力を発揮することくらい、容易に想像がつく。
あの黒いオーラの男がそうだ。体を真っ二つに切断したにも関わらず、ものの数分で再生し、戦闘に復帰するまでに至った。
それでヘイトが後手に回るようなことはないが、いくら倒しても甦る生物と戦っても、キリがない。
やむを得ず撤退を余儀なくされたヘイトだったが、あちらも深追いしてくる様子はなかった。
「あれは…、なんだったんでしょう…?」
森の中を移動しながら、シルバは不安げに呟いた。
「おそらくは、俺の力を得た人間――。ただの弓矢で俺の鎧を貫くくらいだ。あの男の再生する力も、俺由来のものだろう」
「ヘイト様の力を奪ったってことですか…?」
「奪われたような感覚はなかった。あそこまで強力な一撃を放とうものなら、相当な魔力を必要とするはずだ。だが、魔力が抜けた気配は感じなかった」
「では、彼自身の力、と…?」
「あるいは、俺の力を何らかの形で増幅させているか、だ」
いずれにせよ、下手をすれば殺されかねない相手が現れたことに違いはない。留意しておくべきだろう。対抗策も考えなければならない。
「迂闊に町の方にも、今は行くべきではないのでしょうか…?」
シルバの一言を、ヘイトは吟味した。
調査に派遣されたヒトの部隊の襲撃に失敗したことで、こちらの正体は間違いなく向こう側には知られているはずだ。前回、村を襲ったときも生存者はいたが、今回はわけが違う。何らかの対策を講じていてもおかしくはない。
加えて、新たな脅威が現れたことで、町への侵攻に際し、考えなければならない要素が増えた。
だからといって、断念の二文字はあり得ない。
刺し違えてでも――というほど覚悟しなければならないわけではないだろうが、行動は慎重にするべきだろう。
迂回するという手もある。その場合、フェガリの直近に例の男を野放しにしておくことになる。まあ、魔神がいとも簡単に倒されるなんてことはないだろうが。
思案した結果、ヘイトが導き出した結論はこうだった。
「町を潰す」
「へ?」
ヘイトの言葉が思いがけないものだったのか、シルバは素っ頓狂な声を出した。
「災厄の芽は、摘んでおかなければならない」
「ヘイト様…」
「協力してくれるか、シルバ」
ヘイトは立ち止まって言った。
「もちろんです、ヘイト様」
シルバはヘイトの瞳を見つめて、強い口調で答えた。




