叫びにこたえて
ことの顛末をただただ見ていることしかできなかったレオ率いる討伐隊は、未曾有の力を持った人間さえ、『紫眼の巨人』に敵わないことを目の当たりにして勢いを失っていた。
静かに地面に着地した巨人と、辺りに霧散する謎の男の血。
もはや、戦意を持っている者はいなかった。ただ一人を除いて。
「すまない、皆…」
レオは声を振り絞った。
「こんな役目を任せることになってしまって…」
紫眼の巨人がゆっくりとこちらに向き直る。
「俺は…、俺は…」
次はお前たちの番だとでも言うかのように、巨人は剣をもたげた。
「俺は、なんとしても、あの怪物を止めたかった」
巨人が歩くたびに、甲冑の音が重たく響く。
「自分の任務を、全うしたかった…」
レオは涙を流した。
「だが、あれはなんだ…?」
目の前に立ちはだかる巨大な影。
「俺たちに太刀打ちできる相手じゃない…」
影は手に持った巨大な剣を振りかざした。
「お前たちはもういい。十分務めを果たした」
立ちすくむレオ目掛けて、その大剣が振り下ろされる。
「あとは、俺に任せろ――」
その一撃を、彼は己の剣で受け止めた。
両手で柄を握りしめ、全身全霊で押し返す。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
レオは雄叫びを上げた。
しかし、容赦なく巨人は力を加える。
「う、ぐっ、ぅああああぁぁぁぁ!!!」
全身の骨が、砕けッ――。
重圧と激痛で息もできない。
それでも屈することなく抗うレオ。
あまりに壮絶な光景に、周りにいる者は動けずにいた。
そのまま、数秒とも、数分とも思える時が過ぎた。
――セバス、すまない。負けるつもりはなかったが、俺はここまでのようだ。初めてお前が俺のところに訪ねてきたときの、あの目、覚えているぞ。まだ世の中を知らず、経験も浅い。でも、あの時俺が見たお前の目には、光が宿っていた。警ら隊隊長なんて肩書に甘んじて、なんとなく生きてきたような俺が、こいつは何かを変えてくれるかもしれないと淡い期待を持ったもんだった。
その目の輝き、今のお前には滅多に見ることができないが、俺は知っている。まだ失われてはいないことを。だから、賭けさせてくれ。
「俺の命を――」
「――レオ、といったか」
その聞き覚えのある声は、かろうじてレオの耳にも聞こえてきた。
「お前の叫びが、どうやら俺を地獄から連れ戻したらしい」
不意に巨人の込める力が弱まった。
と同時に、その場に倒れるレオ。
消えゆく意識の中、視界の端に黒いオーラの男が矢を番える姿が見えた。




