薔薇の魔将軍2
「ナイゼル! ウェストルのカバーだ!」
「はい!」
「ローガン! 私に続け!」
「了解!」
「行くぞ! うおぉぉぉぉっ!!」
――なんだこの強さは。
特に隊長のアウーレとか言ったか。戦闘能力はそれほどでもないが、状況を把握する能力と、それを考慮して仲間に正確に指示を飛ばして統率し、連携を取る力は、過去に類を見ない強さだ。他の連中も、隊長の期待に応えるべく全力で行動している。真のチームワークとはこういうことを言うのだろう。
一撃一撃が常に隙を突いてくる。これこそまさに、連携のなせる業だと言える。それでも、俺には到底及ばないが。
ヘイトの放った攻撃で陣形を崩された四人は後方へと下がった。
「くそ、なんて力まかせの攻撃だ。人の域を超えている」
ウェストルと呼ばれていた男は言った。
「もしかして人間じゃないんじゃ…」
そう言ったのはナイゼルだろう。
長引いた戦いのせいで、ヘイトは四人の名前を覚えるにまで至っていた。
「今さら気が付いたのか? あの大男はモンスターだ」
汗をにじませて笑みを浮かべる最年長らしき大柄な男はローガンだ。
「無駄口を叩くな。今は目の前の敵にだけ集中しろ。あいつはこれまで戦ってきたどんな敵よりも強い。一瞬の油断が命取りになるぞ」
アウーレの一言で、他の三人は口をつぐんだ。
「さあ、行くぞ!」
アウーレは他の隊員に檄を飛ばし、先陣を切って突っ込んできた。
久々に骨のある敵を前にしてヘイトの胸は少し踊っていたが、彼らが次の攻撃で戦いを終わらせるつもりであることを悟った。
剣の柄を握りなおし、深呼吸をする。
これで終わりにするつもりなら、必ず捨て身の攻撃を仕掛けてくるはずだ。その一瞬の隙を突く。
「くらえ!」
アウーレが振り下ろした剣を軽々と避ける。
ここで彼に気を取られてはいけない。後続が俺の隙を窺っているからだ。
案の定、ウェストルが剣を構えて突進してくる。
「隙は無い」
ヘイトはそう呟いて、逆にウェストルの懐に潜り込んだ。
3メートルはあろうかという巨体に思いがけず接近されたウェストルは、反撃の間もなく突き飛ばされた。
「怯むな! 行け!」
アウーレが叫ぶのが聞こえたが、ヘイトには関係ない。
「はあああっ!!」
今度はナイゼルが向かってくる。
最年少と思しきこの少年は、チームの足手まといになるまいと必死に動いていた。が、やはり足手まといだ。
ヘイトは走ってくるナイゼルの首をいとも簡単にはねた。
今まで散々連携を取って仲間をかばい合いながら戦ってきながら、この期に及んでこのザマか。期待外れだな。
「そこだぁ!」
最後の砦だったローガンが飛びかかってくる。
「それだけか?」
ローガンの全身全霊の一撃を片手で受け止める。
「ぐ、ぐぬ…」
斬りつけたはずの剣の自由を奪われて苦い顔をしたローガンだったが、そのあとすぐに笑みをもらした。
「隊長、やっちまってくだせえ!!」
振り向いたヘイトの目に映ったのは、もはや回避できぬほどに接近したアウーレの姿だった。
◇
今日の敵は手強かった。一つ目のパーティはそうでもなかった。ただ、ここまで辿り着いただけあって、力もあったし勘もよかった。二つ目のパーティは、戦闘に特化していた。あのレベルまで到達するには、それなりの時間と労力を要するに違いない。
アウーレの死体を引きずりながら、ヘイトは考えていた。
あとどれほどの人間がここにきて、俺に戦いを挑んでくるのだろうか。そして、俺を倒せるほどの力を持った人間は現れるのだろうか。だとしたら、それはいつなのだろうか。