レヌシアの森の悲劇1
レヌシアの森の南東に位置するクアリと呼ばれる村では、村人たちが狩りに出て行ったきり戻らない青年たちの安否を心配していた。特に、青年たちの両親は、自分の息子の身に何かあったのではないかと気が気でなかった。
それもそのはず、つい最近、狩りに行った猟師たちが相次いで五人、何者かの手によって殺害され、身ぐるみを剥がされて森の中に放置されるという事件があったからである。明らかに魔物の類による犯行ではない所業に、村人たちは肝を冷やした。混乱は瞬く間に広まり、村人の中に異常者がいるのではないかと疑心暗鬼になる者も出たほどだ。
そんな中、子供たちだけで狩りに向かわせるのはいささか不安であったが、血気盛んな彼らは聞く耳を持たず、独断で森へ行ってしまったのだった。
意図せずして三人の子供をそれぞれ送り出してしまった三人の父親たちは、緊急で集会を開いた。
「まず、集まってくれたことに感謝する。ありがとう」
この集会を開いた張本人であり、三人の子供の一人、カザリの父親のランダバードは言った。
「なに、状況はこちらとて同じなのだ。ここは、協力し合うべきだろう」
三人の子供の中では最年少のフォーレンの父、ジャベットが答える。
「そうだ。行動を起こすなら早いほうがいい。村でやきもきしていても、何も始まらんしな。それに、村の連中は今、犯人探しに夢中だ。その点、俺たちはお互いに信用し合える関係だといえる。なにせ、自分の息子の命がかかっているのだからな」
そう言ったのはローリーの父、ヴェンデルスだ。
「とはいえ、何から話し合ったらいいものか…」
ランダバードは頭を抱えた。
「情報が少なすぎる。今朝早くに村を発ったところ見た者はいたが、それだけでは行き先も分からん」
ジャベットは言った。
「方向から察するに、ドルイドの棲み処を狙ったかもしれん」
ランダバードの推測に、ヴェンデルスは反論した。
「バカな。ドルイドを相手に子供が戦えるわけがない。ああ見えて、ドルイドは狡猾だ。抜け目がなく、ずる賢い。もし万が一にでも対峙した日には、生きて帰れないかもしれんぞ」
「ヴェンデルス、縁起でもないことを言うな」
「俺は可能性を言ったまでだ、ジャベット。そうなる前に、絶対に見つけなければならん」
「ヴェンデルスの言う通りだ。最悪の事態だけは避けたい」
ランダバードが同意する。
「なら、ドルイドの棲み処を当たってみるか?」
ジャベットの一言に、空気が張り詰めた。
ランダバードにはその意味が十分に理解できた。ここにいる者たちの誰もが、できればドルイドは相手にしたくないと思っているのだ。ただ単に狩りの目的で行くとしても、棲み処を襲うにはそれ相応の入念な準備が必要となる。おいそれと迎える場所ではないのだ。
が、静寂を嫌がるかのようにヴェンデルスが口を開いた。
「それしか方法はない。子供たちがいなければ、それはそれでよかったと安心できる。一番嫌な可能性を先に潰しておいても、損はないと思うが?」
「そうだな。もしかしたら、子供たちにはもうあまり時間がないかもしれん。善は急げだ。支度にかかろう」
ジャベットが同意したことによって、その場の意見は纏まりを見せた。
ランダバードは気が進まなかったが、こうなってしまった以上は仕方がない。一人で子供を見つけるのは不可能に近いし、もうすぐ森は夜の帳に包まれる。夜は狩りに格好の時間といえど、狩人のランダバードもさすがに深夜の人探しに自信があるわけではなかった。
三人は一旦それぞれの家に戻って支度を整え、村の入り口に再度集合した。