決着の時
「なにしやがんだよ、ボケェッ!」
下劣な言葉を吐き捨てながら苦しむキャルル。
さすがに今の攻撃では仕留めきれなかったか。
先のグランにはなった魔力の弾丸は、実はキャルルに向けられたものだったのだ。
グランに掠りもしなかった弾の一つをヘイトが誘導し、塔の外を周ってキャルルを死角から攻撃したのだ。
ヘイトの読み通り、キャルルの意識を逸らしたことによってグランの暴走は止まった。
しかし、キャルルに再起されては元の木阿弥だ。
動きの止まったグランを尻目に、ヘイトは即座にキャルルの元へ向かった。
瓦礫の山に墜落して起き上がろうとしていたキャルルの眼前に、ケラプディスの剣先を向ける。
「ケッ、なんだよ、気が付いてたのかよ」
キャルルは嘲笑を浮かべて言った。
「彼女は最初から戦う意思がなかった。それなのに、急に様子が一変した。何かあると疑わない方がおかしい話だ」
「てっきりあんたはもう正気を失ってたと思ってたのになぁ。全然平気そうじゃねーか。相棒がやられて、タガが外れたんじゃなかったのかよ」
「一時はそうだった。でも、これまでの戦いの間に俺は学んだ。憎しみだけでは、何も変えられないと。それ以外の心が大切なんだってな」
「らしくねーなぁ。最後くらい、ぶっ壊れてくれてもよかったってのに」
キャルルこそ、調停者を裏から操っていた張本人だった。
彼女はクウィストが分離した当時から、調停者――つまりはこの世界の統治者であろうと躍起になっていたのだ。
それは、彼女自身が調停者というシステムを作りあげた生みの親であり、全ての調停者を意のままに操れる存在だったからだ。
今までに得た膨大な知識の中から考察し、戦闘の間にその結論を導き出すまで、大変な労力を要した。加えて、自身の仮説が真実であるかどうかは、最後の最後、この賭けに勝利するまで分からなかった。結果的に、ヘイトは賭けに勝ったのだが。
「で、どうするよ。あたしを殺す? ま、そしたら全部終わるけどね」
「調停者という仕組みは破壊されるのか?」
「さあね。そんなの、死んでみないとわかんないでしょ」
もしキャルルにとどめを刺すことで、グランの存在そのものが消え去ってしまうのならば、それは避けたい。
躊躇うヘイトに、キャルルは言った。
「甘いなぁ、ヘイトくんは」
「ぐっ・・・?」
背後からの衝撃で、ヘイトは自分の体を見下ろした。
自身の胴体から、輝く白い刃が突き出している。
「話し過ぎだよねー。キャハハハハ!!」
立ち上がるキャルルが悪意に満ちた笑みを浮かべる。
肩越しに振り返ると、そこには涙を流して剣を持つグランの姿があった。
「・・・すみません、ヘイトさん。でも、こうするしかなかったのです」
「グラン・・・」
グランの目は正常に見える。
つまりこれは、彼女自身の意思で行ったということなのか。
・・・だとすれば、後悔はないかもしれない。
「グラン・・・、最後に伝言だ。クシフォスからの・・・」
「クシフォスが・・・?」
「クウィストが、裏切ったのは、・・・を、愛していた・・・から・・・」
「ヘイト・・・!」
ヘイトは事切れた。
聖剣の光に包まれて、彼の体が灰になっていく。
その光の中にひときわ輝くものがあった。
「これは・・・特異点・・・?」
手を伸ばし、光を手に取るグラン。
「そう・・・。これが、あなたの心・・・」
グランは手に取った輝きを抱きしめ、いつの間にか晴れ渡った空を仰いだ。