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91話 剣聖の息子

城の訓練場にて、僕はまるで王子様のような美少年のユーリ様と激しい闘いを繰り広げていた。

僕が展開する無数の魔力剣(マジックソード)を訓練用の剣一本で弾き飛ばしていた。


「あははっ! すげぇーっ! 剣みたいなのが沢山浮いてる!」


魔力を圧縮して剣の形状に変えたシンプルなものだが、非常に厨二心をくすぐるので、今回のユーリ様との訓練と言うなの模擬戦に採用した。

案の定、ユーリ様はご満悦で、さっきから不可視の魔力剣の雨を満面の笑みで捌いていた。

ユーリ様の目には朧気ながら魔力が集中している為、恐らく見えているのだろう。そして、それは意図的ではなく、無意識に発動させたご様子だ。


「ユーリ様。もう十分ではないですか? そろそろ夕暮れときでございますよ」


そもそも着いたのはお昼過ぎで、謁見したのは日も傾き始めた頃で、その後用意された食事を頂いていたときに、ユーリ様に突撃されたのだ。

訓練場には、当然城の兵士たちが訓練を行っていたが、ユーリ様のお姿を見ると、慣れた雰囲気で、場所を譲ってくれた。

まあ、訓練相手が神子だと知って、慌ててやめるようにユーリ様を説得しようとした人もいたが、僕は大丈夫だと逆に説得したんだ。

なので、僕の護衛達も城の兵士たちも、僕達から少し離れた所で、こちらの様子を伺っている。


「えーっ! もう少し! もう少しだけやろっ! 俺、こっから本気出すから!」

「はぁ……分かりました。もう少しお付き合いします」

「よしきた!」


勢いある返事を返したあと、ユーリ様の様子が変わる。身体から魔力が漏れ出したのだ。


(身体強化っ! この歳で使えるのか!)


僕は魔力剣だけではなく、自分の周りに魔力盾を複数展開する。


「……いくぜ?」


確認ではない。忠告だ。気を抜くなと存外に言っているんだ。

僕は目を凝らし、ユーリ様の一挙手一投足の動くを見逃さないように集中する。


「ふっ!」

「っ!」

(速っ!?)


踏み込んだと思った瞬間には、眼前まで接近されていた。まるで縮地みたいな踏み込みだ。身体強化するだけでこれ程までに変わるのか。

ユーリ様の才能に嫉妬してしまいそうだ。

横に振り回した訓練剣を魔力盾で防ぐ。


「今度は盾かぁ!? 多彩だな! 神子!」

(お褒めに預かり光栄だよ! こんちくしょう! 人様の魔力盾を一撃で粉砕してくるなし!)


言葉を返す暇もなく、ひたすら一撃で粉砕される魔力盾を生み出し続ける。

いくら、効率重視で最低限の魔力しか圧縮してないとはいえ、マナの予測だと、時速六十キロの車の衝突すら防げる計算なんだ。

もし、一撃で破壊出来るのなら、おおよそ大型トラック並の衝突になる。

つまり今のユーリ様の一撃一撃には大型トラックが突っ込んでくる程の威力が込められているのだ。

身体強化出来ない僕が受ければ、間違いなく死亡するだろう。

魔気を纏えば欠損しない程度には抑え込めるけど、出来る限り自分の手札は見せたくはない。

その為、僕が使えるのは魔力を圧縮して色んな形状に変える程度の実力だと思われていた方が今は良い。


(いずれ、安心出来るほど強くなれるまでの辛抱だ。……ここは耐える!)


激しくなる連撃を無尽蔵に生み出した魔力盾で足止めし、魔力剣の雨を降らせる。


「うひょ! 休む暇もねぇ!」


魔力盾を粉砕しながら、剣群を捌くその姿はまさに剣聖の息子という肩書きに恥じない。


(畳み掛ける!)


魔力を薄く伸ばし、細かい足さばきをするユーリ様の足元に小さなキューブ状の魔力を構築する。


「うわっ!? ……っぶねぇ!!」


足を引っ掛け、思わず頭部から地面に突撃しそうになったユーリ様は、なんとヘッドスプリングという跳び箱の技を繰り出した。

頭部のおでこ部分が地面に触れた瞬間、空気中にあった足でなんと空気を蹴ったのだ。

蹴った反動を使い、前転しそのまま足で着地する。


(なんちゅーう戦闘センス……自信なくしそう)


圧倒的才能の前には只人の僕など、太刀打ちできっこない。


「僕一人だったらね……」


息付く暇も与えず、魔力剣を全方向からぶつける。

幸運な事に、僕にはマナ達という魔法や魔力のスペシャリスト達が色々レクチャーしてくれる。

才能がなくても経験なら僕の方が遥かに多い。


「流石に飽きてきたぞぉ〜! よし! 決着をつけよう!」

「さっき、ご自分で時間を伸ばしたのをお忘れですか?」


もう少し、もう少しと駄々をこねたのは、ユーリ様ではないか。

そりゃあ、こっちは飽きやすいように、ワンパターンな技だけで対応したけども。それに、なんでもかんでも新技を披露しては、強くなれない。

ちゃんと定石や基礎を身に付けないと、新技披露するまえにやられる可能性があるんだから。

基礎は地味だけど、ほぼ全ての動きに派生させれる万能な技術ともいえる。


試合などでは、派手な風魔法の使い方をしてたライオットなんか、訓練では基礎を徹底的にやり込み、新技などは全く練習しないぐらいだ。


「次の一撃が本当の最後だから! それをレインが受け止められたら、レインの勝ちだ!」

「……受け止められなかったら?」

「……んじゃ! いくぞぉ!」


おい。

受け止められなかったらどうするつもりだ? と、視線で訴えかけるが目を逸らされてしまった。


(はぁ〜念の為に、魔気を纏っておこう)


僕が魔気を纏った次の瞬間には、膝を極限まで曲げて、ユーリ様が飛び上がる。その衝撃で地面が少しへこむ。

その跳躍でユーリ様は空高くまで上がり、そこで自然落下すると思いきや、思いっきり体を百八十度……つまり、真っ逆さまになる。


「これがぁーおれのぉー全力だぁー!!」


ユーリ様は先程と同じように足を曲げた。


「ちょ……うそ、まさか! ……そ、それはまずいです! ユーリ様! まずいですよ!!」


僕の制止など聞かずに、空気を……正確には魔力を足裏に圧縮してそれを蹴った。


(この短期間で僕の魔力圧縮を模倣した? 天才め!)


まるでカタパルトから打ち出された矢のように僕に一直線に落下してくる。

避けられる時間はない。防ぐしかない……しかも、現在のほぼ全力じゃないと、大怪我するだろう。

覚悟を決めて、魔気の強度をはね上げるべく魔力を込めようとしたその時。


「この……馬鹿息子がぁ!!!」

「ふぐぅお!?!!」


残像すら視認できない速さで僕の頭上に出現した剣聖ライト様が落下してくるユーリ様にライアットを食らわせていた。

そのまま、ユーリ様は吹き飛ばされて、訓練用の藁人形達に衝突して、土煙に紛れてしまった。

剣聖様はそのまま僕の横に着地すると、こちらに申し訳なさそうな顔を受けべた。


「あ〜その、なんだ。……悪ぃ! 馬鹿息子が調子に乗り過ぎた!」


ガバッ! と九十度頭を下げてきた。

僕は一瞬、いえいえそんなことありませんよ

〜。と言おうとしたけど、よくよく考えたら登場タイミングが良すぎることから、恐らく離れたところで観戦していたのだろうと気づき、少しだけ怒りが湧いてきた。

もし、少しでも遅れており、僕がもしも、あの一撃を防ぐ手立てがなければ大事故に繋がっていたのだ。

なので、嫌味のひとつでも言ってやろうと思い付く。


「そうですね〜確かに模擬戦を承諾したのは、僕ですけど、本気で殺されるかと思いましたよ……先程の剣聖様にされたように。親子ですね〜」

「ぐっ……」


剣聖様に傷つけられた頬をこれみよがしに撫でると、剣聖様が苦渋の表情を浮かべる。

どうやら本当に懲りた様子だ。

僕もそこまで怒ってるわけではないので、これでチャラにしてやりましょう。


「ところで……ユーリ様は大丈夫ですか?」

「ん? ああ……アイツは俺に似て、頑丈だからなぁ」

「父上ぇ〜酷いよー」

「な?」

「む、無傷ですか……」


身体強化をしていたとはいえ、あんなに吹き飛ばされて、傷一つ付かないとは……。

魔気を纏っている僕より硬いかも。


「お前なぁ〜神子は国賓だぞ? そんな相手にガチでやり合おうとするなよ」

「えーっ! だって、俺と同じぐらいの歳でこんなにやりあえるやつ居なかったし……楽しくて」


ユーリ様の言っていることは僕にはよく理解できた。

実際に戦った僕だから分かることだけど、本当に強い。ライアット達にはまだかなわないけど、そんなことは時間の問題だと確信出来るほどのポテンシャルを秘めている。

そんなユーリ様は、常日頃大人相手にしてきたのだろう。

そんなユーリ様からしたら、同年代でぶつかり会える僕という存在は、非常に興味深い。

だから、ついやりすぎたという訳だ。


「ユーリ様。お強いですね。僕も終始圧倒されました」

「おお! そうだぜ! 俺は剣聖の父上を持つからな! こんぐらいあったりまえよ! まあ、でも……レインも結構強かったぜ?」

「はい! お褒めいただきありがとうございます」

「特別にレインを俺の部下にしてやるぞ?」

「あはは……流石に部下は無理ですが……そうですね。お友達になりましょう?」

「と、ともだち!?」


照れ隠しの部下にしてやる発言にカウンター気味にお友達になりましょうで返したら、案の定、素っ頓狂な声を上げた。


「良かったじゃねぇか! ユーリ!」


剣聖様が嬉しそうにユーリ様の背中を叩いた。


「お、おう……まあ、なってやらんこともないかな」


そっぽを向いて返事をしてくれたけど、顔は真っ赤だったのは、胸の内に仕舞っておこう。

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