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90話 成したいこと

王城の廊下を文官の人に案内されれば、道中すれ違うメイドや執事、そして貴族っぽい人達まで立ち止まり頭を下げてきた。

そして、そんな対応に慣れてきた。慣れるべきことだけど、慣れ切ったらそれはそれで怖いとも思っている。


「……」


そんな中、気落ちしているライオットが気になった。


『マスターいいですか?』

(どうしたの? ライア)

『はい……私は辛うじてですが、剣聖さんの斬撃が見えておりました』

(本当!? 凄いね! 流石は光の精霊だよ)

『えへへ……はっ! 嬉しいのですが、違うのです。ライオットさんが落ち込んでいるのは……その、御本人の剣によりマスターを傷付けたことにあるかと』

(……なんだって? ライオットの剣で?)


それは初耳です。そう言えば、あの大剣振り回したにしては、ほとんど風圧は感じられないなぁと思ったけど、てっきりそれも実力によるものなのだと思っていた。


『はい。あの時、剣聖さんはライオットさんの剣を抜き取り、マスターの頬の横を軽く掠めるように刺突を繰り出した後に、鞘に剣を収められました』

(だから、あの時ライオットが一番に気付いていたのか……)


やっぱりチクろうかな、奥様に。

うぅ〜ん。ライオットは責任感が人一倍あるからなぁー。気にするなと言って気にしない性格じゃない。ならば……。


「ライオット」

「……っ、はっ!」

「気にしないで……って言っても無理だよね? なら、見てて」

「えっ」


僕は治った頬ではなく、少し切られた髪に手をかけて撫でる。同時にライトヒールを発動して、更に運命改変(モイラ・シフト)を使って、髪の状態を改変する。

撫でられた部分が再生されて、撫できった後には、元通りの長さに戻る。


「励んでね」

「……はっ!」


多くの言葉は必要ない。

この半年の修行期間で判明したことは少なくない。その一つが僕に対しての運命改変(モイラ・シフト)の使用時の消費の低さだ。マナ曰く、僕個人ならほとんど魔力消費すら必要ないらしい。故に、この程度の事なら消耗にもならない。

あと、発動速度を上げるために、一時的に爪を切っては伸ばしてを繰り返していたりした。


そんな行く道で、ふと前方から小柄な人物が歩いてきた。

よく見れば、見覚えがある気がした。

腰には練習用なのか、木刀を差しており、その顔には自信が滲み出ていた。

歳は若く、僕と同じぐらいだろう。

正確には一つ上だ。

そんな人物は、僕達一行を視認した瞬間、笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。


「あ……おーい! 久しぶりだな! 神子!」

「お久しぶりです……ユーリ様」


剣聖様のご子息であるユーリ・セーバー様だ。

一度しか会ってないのに、このフレンドリーさは父親譲りなのかも知れない。

二カッと屈託のない笑顔で挨拶されたので、こちらも自然と笑顔を浮かべてしまう。


「なぁ!なぁ! もう、父上には会ったのだろう!? なら、暇だよな! 一緒に訓練しよーぜ! 俺の直感がお前と訓練するともっと強くなれるって言ってるんだ!」

「え、えっーと」

「ユーリ様! 神子様はこれから陛下に謁見しに行くところなのです! それに、三大聖者の一人である神子様をお前呼ばわりはあまりにも失礼が過ぎます!!」


言葉に詰まっていたら、文官さんが怒った。

その顔は少し青ざめていた。

……僕って実は怖い? 別にこの程度で怒ったりしないんだけどね。


「ぼ、私は気にしてませんので、そこまでにしてあげてください」

「おおっ! 神子様のご寛大なお心に感謝します! ……ほら、ユーリ様も謝罪と感謝を!」

「う……えっと……ごめんなさい。あと、ありがとう!」


首根っこを掴まれて、なすがままに言われた通りにする。猫っぽい。


「はい。私は気にしないのですが、神子としての立場がありますので……訓練に関しては陛下に謁見が終わった後なら、少しお付き合いしますよ」

「本当か! っし! じゃあじゃあ! 先に訓練場に行ってるぞ! 必ず来いよ! じゃあな!」

「大変申し訳ございません……」

「いえ、元気があっていいと思いますよ」

「神子様より年上なのですがね……」

「あはは」


じゃあの! と言わんばかりに、ノシ! と手を上げて、颯爽と駆け去っていった。猫のように気ままで台風のような少年だった。


その後は、特に何事もなく王の間に案内された。

大きな扉が騎士の人達により開け放たれる。

眼前に幾数人の人達が僕に視線を向ける。

そのまま、ある程度進んでから、立ち止まる。

僕が立ち止まると同時に、スーニャ達護衛が跪く。僕は軽く頭を下げる程度に留める。


「この度は、本国に滞在させて頂き誠にありがとうございます。数日程度ですがよろしくお願い致します……それて、その良しなにと、贈り物があります……スーニャ」

「はっ!」


彼女は立ち上がり小箱を差し出す。因みにスピカはよく寝る子で日中はほとんど寝ている。その為、今はドロシーに抱き抱えられてスヤスヤ眠っている。

僕は受け取った小箱を持ち、箱を開ける。

すると、いつも通り強力な魔力を発するブローチが姿を現す。


「……おお。あれが噂の」

「思っていたよりも……凄いな」

「国宝級だぞ」

「このようなものをポンと贈るとは、やはり神聖国は凄い」


上位貴族の方々が驚きによりざわめき立つ。

その一方、玉座に腰掛けた見た目は三十代前半の穏やかで知性に包まれた雰囲気のある男性……アースガル騎士国国王フリード・アースガル様は、ニヤニヤと面白そうに、ブローチではなく僕を見つめていた。

あらやだ、お化粧してないのに……というボケをする程、僕はお馬鹿ではない。

その目には品定めに近いものがあったからだ。


「良い品をありがとう七代目神子。いや……『救済』の神子と呼んだほうがいいかな?」

「……どちらでも構いません。お好きになしてください」


何か含むような言い方だ。こう、お偉いさんに品定めされるって、会社の面接とかを思い出すからやめて欲しい。だって、意地悪ばっか言うんだもの。会社に入りたい動機は? って聞かれて素直にお金の為だからと答えられないもんね。実際、みんな金の為に働いてるのに、建前では会社の発展や社会に対する貢献の為とか嘘で塗り固めないといけないと……はっ! 思考が逸れた。


「そうかい? なら、レイン殿と呼ばせてもらおうか」

「はい……」


僕の反応が面白いのかくつくつと噛み殺した声を出す。


「私はこれでもライトの観察眼には一定の評価をしていてね……初めてなんだよ。彼が他人の評価の中で君だけなんだ……よく分からないと答えたのは」

「はぁ……私には意味がよく分かりかねます」


剣聖様には、よく強さが分からないと言われたけど、それって別の意味も含まれているということだろうか。



「歴代の神子は皆、なにかしろのテーマを持って生きていた……それして、どの神子も最後には歴史に名を残すような偉業を成し遂げた」


一度、言葉を止め僕に目をやる。


「君は歴代の神子の二つ名を知っているのかな?」


試すように、あるいはSっ気がある人なのか。そりぁ、僕も神子ですもの。知ってるよ。


「はい。存じ上げております。……全ての始まり、その生涯を人々の願いを叶えることに捧げた初代神子『全願』。建国に伴う多くの問題を若くして解決し、今の神聖国の礎を築いた偉大なる二代目神子『国雄』。戦乱ひしめく時代に英雄の如く力を用いて他国の侵略を蹂躙した三代目神子『戦神』。戦乱による爪痕を癒し、国土を豊かにした優しき四代目神子『豊穣』。豊かな大地を欲し、人間を喰らう魔物を国土から根絶やしにした五代目神子『魔敵』。他国との和平をなし、平和をこよなく愛した六代目神子『共愛』になります」

「お見事……流石は『救済』だ」


パチパチと拍手を送られる。その視線は今までとは少し違う憂いを感じた。


「今、君が上げた神子達の共通点が二つある……分かるかい?」

「一つは陛下も仰っていた偉業を成し遂げた事ですね……あともう一つは……凄い力を持っていたことでしょうか?」

「一つ目は正解。二つ目は少し違うな。それは神子に選ばれる条件だよ。もう一つはね……初代から六代目の神子の二つ名は、その生涯を通したあとに付けられたものだ。早くても晩年、そして死後に付けられたものだ」

「……確かにそうですね」


何となくだけど、陛下の言いたい事が分かった。


「だけど、君は? 君だけは神子になった後に行った一つの奇跡により、『救済』の二つ名を得た……私も話には聞いてるよ。一度の魔法の行使で千に及ぶ患者を欠損含めて治したと、ね……これに関しては文句の言いようがないよ……まさに偉業だ」


言い終えて、溜め息をついてしまう。何だか色々溜め込んでいる性質の人のようだ。


「それで、陛下は私なにを仰りたいのですか?」


遠回しになにか? お前はイレギュラーだとか、規格外だとか言いたいの?

僕の憶測とは全く違う、優しさを込められた瞳で見つめられた。


「私はね、君がこの先、なにをテーマに生きていくのかが不安なんだよ……生きる目的あるかい?」

「っ……!」

「神子は別に何かを成す為に存在する訳ではない。結果的に過去の神子達が偉業を成し遂げたからそのような存在だと誤解されているんだ。神聖国は元々初代神子を愛した人々が集まり作られた国だ。二代目神子はその強大な力から多くの苦労と経験を得て、その末にそんな彼を受け入れてくれた神聖国を愛し、そしてその生涯を国に捧げた……それ以降の神子達も然り。皆、動機がある。テーマがあった……それで、君は?」

「わ、私は……」


僕は言葉が詰まった。確かに僕には明確な目的がない。強いていえばみんなを助けたい、役に立ちたいというアバウトな気持ちでやってきた。

そんな僕に陛下は諭すように言う。


「君は初めに成してしまった偉業にそして、『救済』という二つ名に引っ張られてまともに自分のしたいことを見失ってしまうのではないかと、私は心配なんだ……余計なお節介だとして、是非言わせて欲しい。……君には神子という立場はあれど、自分なりに生きる権利はあるよ。立場に、二つ名に惑わされない行き方をして欲しい」

「はい……」

「直ぐには無理だろうね。何せ大人ですら死ぬその時まで生きる理由を見つけられない者も居るのだから……ゆっくりと見つけていけばいいさ。君はまだ若い……これにて終わりにするよ……我が国に楽しんでいってくれたまえ」


陛下の言葉が体に染みた。


……成したいこと。やりたいこと。前世の僕が持ってなかったテーマだ。それを、今世の僕は見つけられるだろうか。

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