8話 『魔力操作』の可能性
おじ様のアドバイスを元に修行しよう。
場所は家の寝室。
今、僕が出来ることは、魔力量を上げる。カーソン氏を治した際に使用した技術、2人曰く『過大深化』を使いこなす。そして、『魔力操作』の習得。
魔力量上昇は、今まで通りに体に魔力を循環させて底上げをはかる。
『過大深化』に関しては、さすがにおいそれと使えないだろう。何せ、眩しい光が付いてくるのだから。
今現在、必要以上に過保護な両親により、僕の活動範囲は人目がつく場所と自宅だけになってしまった。
これに関してはマナちゃん達に相談しよう。
そして本題。
『魔力操作』をする為には、魔力が見えなくてはならない。
それためには目に魔力を集中させる必要がある。
『過大深化』と似てるけど、多分一点に集めるというより、目の周りに少しだけ巡る魔力を増やす感じだと思う。
さすがに一点に集中させたら、両目から眩い光が出てなんも見えないだろう。
夢の目からビームである。
いざ実践!
目に閉じて体に巡る魔力を意識して、目に多めに送る。
呼吸するように魔力を循環出来る僕には朝飯前の所業だ。
程なくして目に魔力が集中して、少し暖かくなる。
目が疲れたらいいマッサージになるかも。
そして目を開ける。
「…………っ!」
世界が変わった。
普段見えている世界とは大きく違う。
窓から見える外は至るところに半透明な風が流れ、小さな光のオーブがその風に揺られ浮いている。
部屋の中にもオーブがいくつも漂っている。
何と幻想的な光景だろう。
「ファンタスティック!」
思わず叫ばずにはいられない。
無数の蛍が飛び回っているようだ。
僕が手をかざせばいくつかのオーブがまとわりついてくる。
生きているのかな?それとも意識とかないプランクトンみたいな存在か?
おじ様はなんも言ってなかったけど、これってなんだろうか。
仮称『精霊』とても呼ぼう。
本物が居たら別の名前を考えればいい。
このままボケーッとこの光景を眺めてたいけど、それじゃ強くなれないし、本題の『魔力操作』の習得に戻ろう。
手を下ろすと、精霊達も離れていく。
…………なんか寂しい。
この状態で体に視線を向ける。
わお。
体全体が魔力を纏っているように見える。
僕の魔力の色は月白のように薄い青みを含んだ白色だ。
ふむ。見えるようになっただけで、何だか強くなった気分だ。
更によく目を凝らして見ると魔力は不変ではなく、常に揺らめいていた。
試しに手のひらの魔力を動かしてみると、目に見えて魔力が揺らめいた。
他にも1部分だけ魔力を巡らさなかったら、その部分だけ魔力が見えなくなった。
この状態で『過大深化』を使ったらきっと失明するのではなかろうか。
次に魔力を放出してみる。
再び手のひらに魔力を集中させる。
そして、指先から出るよう操作する。
…………むむ。
まるでホースの水をせき止めている何かにより、押さえつけられているような。
必死に放出しようとするけど、一向に望む結果にはならない。
「時間がかかるタイプと見た」
これは年単位かかる部類に違いない。
ならば今は、とにかく練習あるのみ。
*
場所は変わって仮想世界。
マナちゃん達と『過大深化』についての修行方法を検討する為だ。
世界が変わっていた。
僕が精霊達を見えるようになったからか、こちらの世界にも精霊達が出現した。
テラスに向かって進むと、そこにはお行儀よく椅子に座り、膝の上に両手を置いてソワソワしている雛ちゃんと、それをじっと見つめるマナちゃん。
もしや、僕を待っていたのだろうか。
「お待たせ。待った?」
「お兄ちゃん!」
「待ってないわよ。さあ、座って。紅茶を淹れるわ」
ご好意に甘えて、2人が左右斜め前になる位置に座る。
「お菓子!お菓子!美味しいお菓子は〜クッキー♪」
謎の歌を歌い出す雛ちゃん。
どうやらクッキーが気に入ったようだ。
2人とティータイムを楽しむ。
*
一息着いたあとは、本題に移る。
「マナちゃん。雛ちゃん。『過大深化』とはなに?」
佇まいを整えて僕に顔を向けるマナちゃん。
雛ちゃんは相変わらずクッキーをボリボリ食べながら顔を向ける。頬っぺたにクッキーのカスが付いてるのが微笑ましい。
「『過大深化』は魔法そのものが与える影響を大幅に上昇させる技よ」
「もぐもぐ。本来なら『小回復』に人の欠損を治す力なんて無いもん」
「食べながら喋るのをやめなさい。はしたないわよ」
ハンカチを取り出し、雛ちゃんの口元を拭うマナちゃん。
何だかんだで2人も仲良くなったもんだ。
「えへへ。ありがとうマナちゃん」
「ふふ。どういたしまして」
和むわー。
「魔力を一点に集中させたのは、魔法を暴走させる為よ」
「暴走する魔法に指向性を与えたのが、お兄ちゃんの望むイメージだよ!」
「それにより、魔法そのものが異質なものに変わったわ」
「それにより、擬似的な奇跡を起こせたんだよ!」
ちょっと待って。
「暴走してたの?あれ」
「当然じゃない。正攻法じゃどうしようもないなら反則を使うしかないじゃない」
「お兄ちゃんもちーと?好きでしょ!」
ええ好きですね。
チートで俺TUEEEEしたいのは、オタクなら誰とで1度は妄想した事だ。
知能を爆上げして、天才ムーブしてみたかった。
ずば抜けた身体能力で、オリンピックを無双してみたかった。
「つまり、僕は本来ありえない事をやったって事だよね?」
「そうよ。貴方にしか出来ないと思うわ」
「体がほぼ魔力と一体化しているお兄ちゃんにしか出来ないことだよ!」
そうか。
魔力を循環させることは魔力と一体化していると言っても過言じゃないと。
どうやら僕の『身体強化』は他の人のように、身体能力が上昇させるものじゃなくて、魔力との親和性を上昇させるものみたいだね。
自己完結完了。
「『過大深化』については分かったよ。次にもっとお手軽に修行出来ないかな?毎回発光騒ぎになったら面倒だし」
反則と言われても、こっちにしてはまたカーソン氏みたいなことがないとは言いきれない以上、いざというときの切り札にしておきたい。
「そうね。魔力を目に見える手のひらではなく、体の中心に集めれば目立ちにくいのではないかしら」
「お洋服で誤魔化せやすいと思うよ!」
確かに。
「それか、1つではなくいくつかに分散して使えば、光量も分散するんじゃないかしら」
「効果を抑えれば色々便利になりそうだね!」
確かに。
毎回欠損回復級にしないで、大きめの傷を治すのに便利そうだ。
「魔力を一点に集中させることを『魔力圧縮』と呼ぼう」
こういうのは名前を付けるとカッコよくなるものだ。
「ええ。分かったわ」
「らじゃー!」
僕の魔導を極める修行は始まったばかりだ!
*
修行を初めて1年。
6歳児になりました!
小学校に通えるようになる歳だね!
残念ながら村には学校はありません。
むしろ家のお手伝いに精を出す年頃です。
僕も両親の畑のお手伝いをしながら、魔力を巧みに操作しております。
僕のよく通り、『魔力操作』は時間がかかるタイプでした。
毎日コツコツと魔力を放出するようにすることで、徐々に外に魔力が漏れ出すようになりました。
蛇口を捻って、徐々に水量が増した感じだ。
今では魔力を球体にして周りをグルグルさせられるようになった。
この魔力球は、一般の人には見えないらしい。
一応質量があるみたいで触れるし、物にぶつけることが出来る為、魔力が見えない人相手なら無双出来そうだ。
その代わりゴムボールぐらいの火力しかないけどね。
今はその魔力球を複数出して遠隔操作の修行中。
4つまでなら呼吸するように操れるようになったぜ。
今は5つを操作中。
しかも畑作業中。
意外とハードな事をやってる。
でも楽しい。
自分が目に見えて成長するのは、凄い嬉しい。
何よりも、魔力という不思議パワーを操れるのは、オタクには最高なことだろう。
何年経っても、僕は魔力や魔法にメロメロだ。
そして今、更なる魔力の使い道を閃いてワクワクです。
早く1人になれる時間にならないかな。
*
ようやく両親の理解を得られて、更にはおじ様の口添えもあって、村の隅っこなら魔法の練習をしてもいいことになった。
ロリショタ達と遊ぶことが減り、修行にのめり込む日々。
僕の回復魔法は役立つと判断され、村長からも頑張れと応援された。
その時にうちの娘と結婚しないかと、言われたけど曖昧に返答した。
娘と言っても産まれたばかりじゃないですかーやだー。
0歳児とイチャイチャしたら変態じゃん。
それに、自分の無力さを知ってしまったからには、強くなりたい。
建前は大事。
本当は楽しいのだ。
魔法を使うことが、魔力を操作出来ることが。
それ以外は、現在あんまり興味ない。
お手伝いを終えてお昼ご飯を食べたあとは、家から飛び出し修行場に向かう。
今日は朝に閃いた事をやるから気分が高揚している。
途中でロリショタ達とも遭遇して、軽く挨拶してそのまま走り抜く。
たどり着いたのは木々を切り倒し更地になった空間。
恩返しと言ってカーソン氏のお父さんが僕の為に作ってくれた場所だ。
感謝しかない。
森に面してるけど、そこら辺は本物の村の自警団が定期的に見回りをしてる為、ここで猛獣とエンカウントすることはない。
ないよね?
並の身体能力しかない僕にとって少し走るのもキツイ。
切り株に座り込み深呼吸して、息を整える。
今からやるのはかなり難易度の高いものになると予測される為だ。
「…………よし!」
切り株から勢いよく立ち上がり、手を前にかざす。
随分と慣れた『魔力操作』を使い、両手から魔力を放出する。
魔力を1箇所に留める。
本来ならこれで魔力球が出来るが。
今はその何倍も魔力を込めて魔力の塊を広げていく。
1メートル。2メートル。3メートル。
直径3メートルの魔力の塊が目の前で浮いている。
自分の魔力も増えたものだと感動してしまう。
「こっから、こうして…………こうだ!」
放出した魔力を操作するのは至難の技だ。
長い割り箸の先端にビー玉を落とさずに移動させるような感じだろうか。
魔力の塊をまるで粘土いじりのように形を整える。
「…………出来たあ!」
目の前には大きな手が。
そう魔力を手の形にしたのだ。
2メートルちょっとのハンドである。
「名ずけて『魔力の手』!」
まんまやんけ。
許して。ネーミングセンスが壊滅的なのは知ってるから。
左手を模して作った為、左手と連動するようにした。
慣れれば考えるだけで操れる寸法だ。
試しに左手を握りしめると、『魔力の手』が同じく握りこぶしを作る。
「おお!凄い!」
これで興奮するなというのは、到底無理な話だ。
「ようやく僕にも戦う力が!」
この力を使えば狼の1匹や2匹目じゃない!
「よしよし。慣れたら2本目の手も作ろう!」
魔力で出来た両手を使って戦うのは楽しそうだ。
ガードにも使えるし、将来魔力の剣とか握りしめたら、凄い強そうだ。