88話 アースガル騎士国
豊か草原を抜け、目指すは最前に鎮座する都市。
アースガル騎士国の中心であり、王族が住まい、剣聖が守護する世界有数の要塞都市。
王都アース。人口は……知らない。いっぱいかな? そもそも、人口を調べる人などほとんど居ないし、居たとしても自国の人口を他国に教えるわけが無い。何せ、戦争でもしようものなら人口からある程度兵力を推測出来てしまうから。
因みに、エディシラ神聖国の人口は一千万人居るとか、居ないとか。聖都だけで百万人ぐらい住んでいるぐらいの大都市だから、いる可能性は高い。
僕は、そんな国のトップスリーの一人になっちゃったんだよね……。他国を渡り歩いて行くと、どれほど神聖国が広大なのか身に染みる。
しかも住んでいる住民のほとんどが神を信仰している信者だから、団結力も凄いし、大陸の中心が領土だから、大半の商人は神聖国を通って商売しないと不便だから、喧嘩を売るようなことは絶対にしないし、神の膝元の
聖都などは、犯罪は全くと言っていいほど、起きない。
ユリアさん曰く、今までは多少なりは軽犯罪が起きてたようだけど、神の子、神の化身などと呼ばれる神子……僕が現れたことで、神に大して半信半疑だった人達も信じるようになり、犯罪を犯せば、神子に断罪されると密かに囁かれているとか。
そして、実際に、セカの町で、僕は一人罪人を断罪したことにより、前よりも、犯罪率はゼロに近付いたとか。
閑話休題。
王都アースの正門に辿り着き、行商や旅人が並ぶ列の横、貴族や国の関係者専用の列に加わる。
馬に跨っていたライオットは神聖国を印を押された書面を取り出し、駆け寄ってきた兵士にそれを見せる。
「……っ! よ、ようこそいらっしゃいました! ささ、こちらへどうぞ!」
ガッチガチに緊張していらっしゃる。
因みに、僕も印を作ってもらった。他にも教皇様の印やメアの印を見せてもらったけど、教皇様は大剣が鎖を断ち切るような印で、メアのは両手が祈りを捧げるような印だ。
僕のは、星と月が寄り添うような印で、現在は贈り物のブローチと星騎士団の鎧と制服のみに使われており、個人的に使ったことはないけど、教皇様とメアと同クラスの効果があると言う。おいそれと使えない。
兵士さんが案内し、その間に他の兵士さん達が慌ただしく駆け回る。
恐らく、今から王城に報告しに行くのだろう。
一切揺れない、馬車の中から窓の外の町の様子を見やる。
住民達は忙しく歩き、中には子供たちが木の棒を用いて、チャンバラごっこなどをしている様子が伺える。
流石は騎士の国。子供たちもやはり、将来なりたい職業ランキング一位の騎士になる為に日夜、剣術を磨いているのだろう。関心関心。
因みに、神聖国の将来なりたい職業ランキング一位も、男性なら聖騎士、女性なら戦乙女、そして、その一つ前の国の主戦力の神聖騎士と、全部騎士関連。国の為に戦うことを誉れと考える異世界ならではの選択肢だろう。
……噂によると、そのランキングに最近新参者の星騎士国がランクインしたとか。
今は募集してないけど、いずれまた人員を募集するかもとユリアさんは言っていた。
聖騎士も戦乙女もどちらも、人員が百人を超えているから、星騎士国もそこまでではなくても、もう少し人数を増やしてもいいのでは? と、声が上がっているらしい。
というのは建前で、みんな神子とお近づきになりたいのが本音だとも、ユリアさんは言ってたっけ。
「神子様御一行のお通りでーーす!! 門を開けてくださーーい!!」
案内の兵士さんが声を張り上げて、城の門の上に居た兵士さんに門を開けろとお願いする。
だが、それは悪手のでは? と、思った。
何故なら……。
「神子様!? 今、ウチの国に神子様が来てるの!? キャー!」
「あの馬車に神子様が乗ってるのか!? 一目! 一目でも拝みたい!!」
「神子様も見たいけど、馬の上に乗っている男もス・テ・キだわ〜デュフフ」
最後の女装中年男性は出来る限り近寄らないで頂きたい!!
「あ、やべ……は、早くぅー!! 門開けてくれぇーー!!」
自分の失態に気付いたのか、門を開けようとする兵士達を急かす。
その間にも、住民の皆様が近寄って来ます。来てます来てます。押し寄せてきてます。
「皆様、申し訳ございませんが、神子様は長旅でお疲れですので、面会は御遠慮願います!」
「ちょ! ダメっすよ! 押さないで! 神子様に会いたい気持ちは分かるっすが、抑えて下さいっす!!」
「……くっ! 一般人をシールドバッシュしてはならない……!」
一般人ではなくても、シールドバッシュしないでください。
「アンタら! 神子様の事を思うなら引きな! 憧れる人に迷惑かけたら意味ないだろ!!」
「お! 姉貴たまにはいい事言うな!」
姉貴! かっこいいっすね!
「おかぁーちゃん! 子供が馬に乗ってるよぉー?」
「あらあら、本当ね。可愛いわね」
「人参あげたら食べてくれるかなー?」
「うふふ。あげてみる?」
「なぁ! それって、馬にやるって意味だよな!? アタイに人参をあげるって意味じゃないよな!?」
「もぐもぐ……この人参美味いなぁ」
「クソ愚弟! 何、人参頬張ってやがる!!」
「お嬢ちゃん……お腹空いたろ? ほら、婆やが作った饅頭……食べるかえ」
「あ、いただきます……もぐもぐ」
餌付けされてるぅー!
「門が開きました! 今のうちにぃー!?」
揉みくちゃにされて、動けませーん。
「僕、今出ていったらどうなるんだろ……」
「やめてください! 攫われます!」
「家に飾られて大切にされる」
「僕は縁起のいい置物か何かなの!?」
「きゅぅ!」
「そうだねースピカも置物になっちゃうね〜」
さて、どうやって事態を収拾しようかと、考えていたその時……。
ズン!!
馬車が揺れた。
「……っ! 馬車の屋根に誰かが乗りました!!」
「敵……!」
二人が警戒態勢に入り、僕も魔気を体に纏う。
「すぅ〜〜〜離れろ馬鹿野郎どもおおぉぉーーー!!!!」
キーンと耳が! いきなりの大音量に鼓膜がぁ!!
でも、この声……聞いたことがあるような……。
「よう……久しぶりだなぁ……神子様よぉ」
窓から逆さまに覗き込むその人を僕は知っている。
「……剣聖……様」
今代の剣聖……ライト・セイバー様である。




