87話 ワイバーン
ルノワール王国、ファスマ王国、ミリープ王国と、三国を訪問し、毎度ブローチにオーバーな反応をしてくれた。
ファスマ王国はうん……普通の国でした。色んな国の平均を合わせたような平均点のような国。
ミリープは、眠かった。いや、つまらないから眠いとかじゃなくて、住民の方々がのんびりする性格の方が多くてね、キビキビ動く人はおらず、老後の余生を送るかの如く、動作一つ一つがゆった〜りぃ〜しぃ〜てぇ〜いぃ〜たぁ〜んぅ〜だぁ〜なぁ〜。ミルクは極上の味わい。お牛さんは老衰までお肉などにしないで、大事に育てるという家畜に優しい国でもあった。
そして、国力というより、領地が同じぐらいのグルトン竜国は、山々に囲まれた天然の要塞で、平地はほとんどない。ワイバーンは山などの好んで住処にする習慣があるとかで、そういう理由から、この国には竜騎隊が存在するのだろう。
王都? それとも竜都? かは分からないけど、国王陛下が住まう城へと僕は辿り着いた。
「ぐぅえぇ〜」
「ぐぶぅるぅ〜」
「ワイバーンの鳴き声ですか?」
「きゅぅ〜」
「あはは。スピカはワイバーンじゃないでしょう?」
「ええ。今のはワイバーンなりの歓迎の鳴き声なのですよ」
「へ〜歓迎されてるようでよかったです」
「冗談ですよ。あの鳴き声は空を飛びたいっていう甘えたものなんです」
「ですよねー。むしろ彼らが僕のことを知ってたら驚きです」
「あの子たちは賢いですけど、流石にそこまでの知能はありませんから」
僕とさっきから対話しているのは、この国での竜騎隊を率いる隊長の男性だ。年齢は四十台前半で、引き締まった細マッチョさんだ。
わざわざ隊長さんが僕達を迎えに来てくれたのだ。
残念ながら彼は部下の人達と一緒に馬で来ていて、ワイバーン要素は無かった。
まあ、門まで向かいに来るのに、ワイバーンで来てたら、襲われると勘違いする可能性があるからね。特にドロシーとか、迎撃しそうだ。
住民の人達はみな、ガタイが良くて、身長も平均より高いイメージだ。肌は普通に白で褐色とかでは無かった。訛りも無いし、言葉使いも乱暴だったりしなかった。
武力に秀でる国って、とこか怖いイメージがあったから、意外と普通でホッと一安心。
「陛下! 神子様御一行をお連れして参りました」
「がはは! よく来たな! 神子! 早速乗るか! ワイバーン」
「乗りますっ!」
「ならば、ついてこい! 空の青さ! 世界の広さを教えてやろう! がはは!」
玉座がある王の間の滞在時間一分未満! 出会って即意気投合とはまさにこの事である。
僕の目的を見抜くとは……やはり王というのは常人には成れない尊き立場なのだと再確認したよ。
*
「あ、これつまらないものですが……」
「おお! これが噂のブローチか! うぅむ……よく分からんが凄いな! 後で息子共に競わせて勝った者にやるか!」
「自分に身に付けないのですか?」
「俺は頑丈だからな! 軟弱な息子共が身に付けた方がいいだろう!」
「なるほどー」
「それよりもそれは小竜か? 初めて見るが、中々賢そうじゃねぇか!」
「聖竜のスピカです」
「きゅぅ!」
「がはは! 元気の良い挨拶だ! なら俺も見習わないとな! 俺の名はオック・グルトン! この国の王をやってる者だ! 宜しくな!」
「あ、はい! 僕はエティシラ神聖国三大聖者の一人七代目神子レイン・ステラノーツと申します。宜しくお願い致します!」
「きゅぅきゅ!」
「スピカ・ステラノーツだと名乗ってますね」
「神子と同じ性か!」
「卵から育てたので、僕の子供と言っても過言じゃないです」
「そうか! 子供はいい! 元気がいいからな! 神子、お前も子供ならもっと元気に楽しまなきゃ損するぞ! がはは!」
「はい! ワイバーン楽しみです!」
「きゅぅ!」
「スピカも楽しみと言ってます!」
「安心しろ! 満足のゆく空の旅をさせてやる! この……俺の相棒のバグドラでな!!」
「ぐるぅおぉーー!!」
「きゅぅるぉーー!!」
「がおーー!! あはは! カッコイイ!」
「そうだろそうだろ! こいつは俺が生まれた時からの付き合いだからな! 幾つもの戦場を駆け回った最高の相棒だ! な! バグドラ!」
「ぐるぅおぉーー!!」
「きゅぅるぉーー!!」
「がおー!!」
バカみたいにテンションが上がる。ヤバイ。この王様と一緒にいると楽しい!
「さあ、バグドラ! 空に行くぞ! 神子乗れ! 護衛は他のワイバーンに乗ってついてこい!」
僕とスピカは黒いワイバーンであるバグドラさんに王様と一緒に乗り、他のみんなもそれぞれ騎手と一緒にワイバーンに乗り込む。
「ゆくぞ! しっかり手網を握ってろよ! 行け! 空の王者! バグドラ!!」
「グオォォーー!!!」
バサ! バサ! と翼を羽ばたかせて、助走をつけて一気に飛び上がる。
「あはは! すごーい!! 気持ちいーいぃ!!」
「きゅぅーー!!」
「まだこんなもんじゃないぞ! バグドラ! 加速だ!!」
「グオォォーー!!!」
バサ!!! …………バシューーーー!!!!
「ぅ……うおぉぉ!! 凄い速ーーぃ!!」
速すぎて目が開けられない!
こういう時は、魔気を発動! 身体全身を魔力の膜で覆う。
よし! 風が大幅に弱まったぞ! そう言えば、王様は……。
「がばがばがばがば」
「陛下!? 顔がすごいことになってますよ!?」
凄まじい突風をモロに食らってか、放送出来ない顔になっていた。
「がばぐご! がぐでぐごが!」
「え? 何言ってるのか分かりませーん!!」
「ぐががか!! ごげがぐがごがいごぎ!!」
「言葉を発して下さい! 陛下!」
思う存分、空の旅を楽しむことが出来た。
残念ながらタイミングが悪く、ドラゴンステーキを召し上がることはできなかった。
因みに、初対面の王子様に女の子だと思われて、求婚されたのはまだ、別のお話。
楽しい国だった。
次は、アースガル騎士国。世界一の剣士……剣聖様が居る国だ。




