85話 帰郷?
「もう少しだよねっ!」
「ふふ。そんなにご両親にお会いするのが楽しみなのですか?」
何を分かりきっていることを。
「当たり前だよ……だって、僕の大切な家族なんだよ? 会いたいに決まってる」
あれから二年近く経ったんだ。
お母様もお父様も元気にやっているだろうか。
「副隊長は会ったことあるんだろう? どんな人達なんだ?」
外で馬に乗っていたドワーフのロイドが同じく馬に乗っていたライオットに尋ねる。
「そうですね……短い間ですが、神子様を何よりも大切に思い、愛しておりました」
「えへへ」
照れくさいや。
誰かに愛されてるって、すごく幸せでかけがえのないことなんだと改めて思うよ。
「愛して、ですか……私よりも?」
「スーさん……君は誰と張り合ってるの?」
愛してくれるのは嬉しいし、夢みたいだけど、多分僕の両親に愛ではかなわないよ。
「私……愛されたことないから、よく分からない」
「はぁ? ドロシーを僕は愛してるけど? なに? ちゅーでもすれば、信じてくれるのぉ?」
「主様!? なんか変ですよ!?」
「ちゅー……するの?」
「ドロシー! 抜けが……主様は今、変な状態なので真に受けないでください!!」
何を言ってるの? 僕は正常だお?
「僕はみんなを愛してるんだ。この気持ちに偽りはないよ……スーも信じてくれないんだね。なら、ちゅーする?」
「しますぅー!!」
「ダメ」
バシッ!
「な、何故止めるのです!? ドロシー!!」
「レインは多分浮かれ過ぎて、あんまり頭が回ってない」
「んふふ〜♪ 早くお父様とお母様に会いたいなぁ〜♪ あ、おまけで村の人達にも会わなきゃ♪」
「ね?」
「そう、ですね……残念ですが、今回は我慢します」
頭がふわふわして、なんか心地よいや。
こう、故郷に帰ってきたぞ! って、感じ? ずっとアウェイからホームに帰ってきた心境かもね。
「ライオット〜抱っこしてぇ〜」
「はっ! 直ちに!」
「ライオット! 止めなさい! 主様は少しボケっとしてるだけですよ!! 真に受けて、そんな羨まし……恥ずかしいことをしないでください!!」
「うふー! みんな見て見て! あそこ! 僕が生まれ育った村! ちっさいし、なんもなんよね! あははっ! おもしろーい!」
「ダメですよ! 窓から身を乗り出しては!? まだ村は見えておりません! 帰ってきてください主様ぁーー!!」
「きゅぅ……」
「おっ、おはよう! スピカ〜これからね、僕のお父様とお母様に会いに行くんだぁ……スピカにはおじい様とおばあ様にあたるんだよ〜」
*
「た、大変見苦しい姿を晒しました……」
暫くして僕は我に返って身悶えていた。
「い、いつも通りの主様ですか? 確認の為に、ち、ちゅーをしましょう!」
「は? なんでだよ。嫌だよ」
「あう! このあしらいかた! いつも通りですね!」
まだそういう関係じゃないのに、そういうことはするべきではない。
「レイン。どうしてああなったの?」
「うっ……その、意外とストレスが溜まってたみたい。こう、ここはさ、僕の故郷だからかな? 神子になる前の気分になったって言うか……はい」
「そんなにストレスを……うぅずっと傍に居た私が気付いてあげるべきでした……申し訳ございません」
「私も……レインがそんなに追い込まれていたなんて……ごめんなさい」
「ちょっ! そんなに重い話じゃないよ!? 少しハメを外しただけだから!」
「ぐっ……今思えば、私が神子様を……レイン様を親元から離したばかりに……っ!」
「ライオット!? それは仕方なかったじゃない! 君が報告しなくても、他の人が報告しただろうし!僕はライオットに感謝してるんだよ? だって、こうして大切な仲間達……それだけじゃないね。新しい家族がこんなにも増えた! お父様とお母様に自慢出来るよ!」
僕はスーとドロシーを抱き寄せて、自分の思いを告げる。
「主様……」
「私もレインに出会えたのは、ライオットのお陰? になると思うから、ありがとう」
「っ……私は……ずっと、いつか神子様に責められる日が来るのではと。覚悟をしておりました……本当に貴方で良かった……貴方が神子で本当に良かった……!」
馬の歩を進めて僕達に顔を見せないようにしてるけど、きっと、素敵な表情を浮かべているに違いない。
「そうですね……ライオットが主様を見つけ出さなければ、私は死んでましたね……まあ、一応感謝しておきます、副隊長殿」
「……さて、もうすぐ目的地です。最後まで気を引き締めて行きましょう」
「あれぇ? 泣かないのですか!? おかしいですよ? 今のは……隊長! 私が間違っておりました! これからは是非こき使ってください!! ……って、号泣するべきでは?」
「は? 貴女の頭の中は、お花畑ですか? 今のやり取りのどこに貴女に対してそのような感想が出るのですか? 一度、子供からやり直してください」
前半は素直に照れたけど、後半はガチで何言ってんだこいつって感じになった!
スーって、空気読めるのか、読めないのか分からないよね。
でも 、そういうどころは、きっと彼女の魅力なのだろう。
「きゅぅ?」
「ああ。そうだね……スピカも大切な家族だよ」
「きゅぅ〜♪」
スピカの頭を撫でれば、サラサラとした癖になる質感が返ってくる。
窓から吹く風が頬を撫で、まるで僕の帰還を祝福してくれた気がした。
「ただいま」
何故かそう言いたくなった。




