84話 踊れるライア
音楽に合わせて踊り出す。
最初は優雅に。段々速度が早くなる。
周りの人達も踊るけど、やはり僕が仮にも踊れることに驚く人達が居る。
というより、法衣は裾が地面スレスレだから、踏まないようにするのも大変なのにダンスなんでするもんじゃない!
「お上手ですわ……」
「お褒め頂きありがとうございます」
この王女様。僕の限界を測りたいのか、さっきから段々テンポアップしている。
くっ……これ以上はキツイぞ! この王女様、ドSだ! 間違いない!!
タンタンからタンタンタンタンぐらい早くなっているぅ!
(くっ……仕方ない、か。ライアヘルプ! さあ、その薄い影をここで濃くしてみろ!)
『人が気にしてることをっ! でも、分かりました……本気で……いいんですね?』
(ふっ……大人気ない範囲内なら、ね)
僕は最近身に付けた新たな能力を使う。
そう、それは交代だぁ!!
『くっっそダサい』
『本当のことを言ったら泣くわよ』
ひどい言われようだ。
僕は身体の主導権をライアに渡す。
マナは天才発明家で、ヒナは人体に関する権威。澪が直感型の天才アスリートなら、ライアはなんでも直ぐにものにする適応能力を備えている。
ライアは一度見聞きしたことを忘れないし、直ぐに再現出来る。光の精霊としての能力なのかは分からないけど、僕が一週間以上かけて覚えた舞踏の基礎を一度見ただけで覚えたぐらいだ。
僕の身体の主導権がライアに変わると、僕は彼女が居た精霊の箱庭に移った。
「はろはろー!」
「いらっしゃい。今、紅茶を淹れるわね」
「クッキーもあるよ〜」
「楽しそうだね君たち……」
思い思いに寛ぐみんなに苦笑しながら、席に着く。
「そりゃあ、ライアのお披露目だからねー」
「ライアちゃん、ずっと役に立ってないんじゃないかって悩んでたから良かったよー」
「あの子気を使って、前に出ないから。メイドとしての矜恃があるとかなんとかで」
「別にメイドとかやんなくてもいいのにね」
目の前に大きなスクリーンとして僕に乗り移ったライアが笑みを浮かべる。
『もう、限界ですか? 神子様』
『ふふふ……面白いことを聞きますね? 限界? ありませんよ? 私には』
遂に本性を顕にした王女様に、ライアが不敵な笑みで応戦する。
「の、ノリノリだ!」
「はっちゃけたね」
「私の時はこうならないように肝に銘じとこうかしら……」
「ライアちゃんキラキラ輝いてる〜!」
『っ!』
『うふふ。どうしましたか? まさかこの程度でへばったなどと言いませんよね?』
『同然ですっ!』
ライアが王女様のテンポを超える速度かつ、ギリギリ追い付ける範囲でステップを踏む。
「これ……優雅な舞踏会じゃなかったっけ?」
「周りの人達が口開けて固まってるよ〜」
「もはや舞踏より舞闘だよね」
「うまい! 澪に10点!」
「いえ〜い!」
「ライアを弄るネタが出来たわね……うふふ」
マナさんはサドっけな笑みを浮かべている。やだ怖いわ。
『っ……ふぅ……ふぅ……』
『お疲れ様でした。見事な身体捌きでしたよ』
『うふふ……こちらこそお付き合いありがとうございますわ……レイン様……ポッ』
『光栄です……では、名残惜しいですが、他の方の相手もしなくてはならないので』
『ええ。頑張ってくださいまし……じー』
ライアは颯爽と他の王女様の所に向かい、彼女に手を差し伸べ、自分で言うのもあれだけどイケメンスマイルをサービスして、今度こそ普通の舞踏に洒落込む。
「なんかさ……あの王女様……いや、なんでもない」
「そ、そうね。こう思った以上に……いえ何もないわ」
「ライアちゃんかっこよかったね!」
「そうだね〜生まれる性別間違えたね〜」
こうなんだ? 男だけど、僕の身体だけども、ぐぅ〜負けた気分だお。




