83話 贈り物のブローチ
「いやはや、申し訳ございません……つい、熱く喋ってしまいました」
「あはは……ソウデスネ」
今なら、シュシュ検定一級取れそう。
シリウスさんの長話もようやく終わりを迎えた。僕は律儀に話を聞いてしまったので、結局食事に手を付けていない。お腹がペコペコだよ。
「国王陛下のご来場です!」
そんな声が聴こえた後に、場が静寂に包まれる。
(来たか! ラスボス!)
『頑張れば、神子の権力で握り潰せそうなラスボスね』
(怖いこと言わないでよ!!)
一国の主を権力でどうこう出来るはずないのに、何故か出来そうな可能性があるだけで、ガクプル何ですが!
国王陛下が上の階から幾人かを引き連れて降りてきた。
容姿は五十代のナイスガイ。背筋を真っ直ぐに伸ばし、自信を身にまとった姿は、まさに一国の主の貫禄だ。
その後ろに、年齢不詳の所謂美魔女が寄り添っている為、妃様だと推定。更にその後ろに若い男子も女子が何人か引っ付いている事から、王子と王女様方と推測。
(くっ……いきなり開幕から数の暴力かっ! これだから権力者はやる事が汚い……っ!)
『君は誰と戦ってるの〜?』
『お兄ちゃん……ここはヒナに任せて、先に行ってっ! ヒナも後から必ず追い付くから……』
(ヒナ……ダメだよ! 女の子を置いていくと寝取られが発生するから、置いていけない!!)
『理由がバカ』
緊張を精霊のみんなに解してもらう。
何気に人生初の王という立場の人とのご対面だ。無関係な壁際の花瓶にでもなれるのなら良いけど、明らかに僕の方に向かって歩いてきてるし、みんな道を譲るから、僕の所まで一直線の道が、レインロードが出来ていた。
さあ、王様よぉ〜かかってこい! どんなことを聞かれても無難に返してやるぜ! 伊達にユリアさんに鍛えてもらってねぇーっ!
闘志滾る僕に国王はその高い身長で僕より上の位置から見下ろす。
うっ……圧が圧がヤバいですぅ!
「貴公が救済の神子であるな?」
「はい。私はエディシラ神聖国の七代目の神子レイン・ステラノーツです。陛下」
王様相手にも軽くお辞儀で済ませる。許されるなら、土下座すらやりたいぐらいの威厳だ。
「うむ。貴公の噂はかねがね聞いている。ありとあらゆる病を治し、どんな傷でも癒す……まさに人を救う事に長けた稀有な神子である、と」
「滅相もございません。私は自分の成せる事を成したまででございます」
「うむ。どうやら今代の神子は謙虚なようだ」
「私は元は庶民の身。地位を得たからといえ、無闇矢鱈と振りかざしていいものでもありません」
「左様か」
「はい……」
きっと物凄いぐらい僕の事を考察してるんだろうけど、残念ながら僕に裏などないよ。本当にそう思ってるんだから。
「して、確か貴公の産まれは、我が国の国境の境にある小さな村であったな」
「はい。村の名はハジになります」
「うむ。貴公は己の親に会いにゆくのか?」
「ええ。パーティの後に向かう予定です」
「急ぎやしないか? 幾つものこの者達から誘いはあったろう?」
「申し訳ないと思っておりますが、何分、各国を回るものですので……ああ、そうだ、実は同盟国にそれぞれ贈ろうとしている品があるのですが……よいですか?」
「ああ。構わんよ」
「はい。では……スーニャ」
「はっ!」
スーニャが実はずっと持っていた小さな箱を抱えて僕の傍に寄る。
その仕草は優美で男女問わず、視線を釘付けにする。
「ありがとう」
「はっ」
彼女から箱を受け取ると、すすっとライオットの横に戻る。本当にこういう時、無駄がないなぁ。
「それが?」
「はい。同盟国にそれぞれ一つ贈る物でございます。私が加護したブローチになります。教皇猊下や聖女様に及ばないかも知れませんがどうぞお納めください」
「うむ。……開けても?」
「はい」
てっきり側近の人に渡せばいいと思ってたのに、王様が直接受け取っちゃったよ。あれか、これで何か問題でも起こせば、あーだこーだ言われるのか? ドキドキしながら王様が箱を開けるのを見届ける。
パカッと、箱が開け放たれ、その中に収められていたブローチが姿を現す。
……凄い魔力をその身に宿して。
「これは……」
「凄い……!」
「綺麗……」
三者三様に反応を返すが、大半が言葉を失う。
ユリアさんが何か不都合があれば、取り敢えずこれを贈っとけば、問題ないといってた通りだ。
「神子よ。これは貴公の加護がかかっておるのだな?」
「はい。お恥ずかしながら……自分なりに改良したものになりますので、従来の加護よりは幾分、魔力ぐらいでもあります」
ユリアさんにポイントとアピールしろと言われてるから仕方なく言う。本当は自慢してるようで気が引ける。
「うむ……して、どのような改良を?」
やはり食いつくか。というより、王様の横に居る妃様の目がヤバい。ブローチに釘付けだ。
「私には基本四属性がありませんので、それ以外の属性を掛け合わせて、擬似的に結界を構築するようにしました」
「なんと……っ!」
「全属性持ちの賢者か、無表情の断罪者しか使えないとされている結界を……っ!」
「神聖国や魔導国に貼られている結界を、個人で再現したのか……っ!」
予想以上の反響に驚きを隠せない。改良と言っても、僕ではなくマナがやったんですけどね!!
『まあ、こうなるでしょうね』
『大変だったもんね〜』
『ヒナの属性も使われてるもんね!』
『氷、光、そして回復という三属性で構成されていますからねっ』
回復が属性に入るから疑問があるけどね。
氷で物理防御、光で魔法防御、そして回復で結界の強度を回復。そんな変則的なゴリ押しを可能にしたのがマナたんです。マナたんマジチートです。
マナ達がドヤ顔をしているのが目に浮かぶようだ。
「とは言っても、六属性必要な従来の結界には及びませんし、魔力も先程言った通りに、大食らいですので、持って十分ぐらいです」
「さ、左様か……それでも過分な程な品だ。本当に貰って良いのか?」
「? はい。これは同盟国全てに贈るつもりですので」
「そうか……うむ」
王様が動揺してる。この人も人の子なんだなぁって、勝手に同感した。
「して、神子よ。これから舞踏が始まる。どうだ? 我が娘達と踊ってはくれまいか?」
「お父様! それは、私達が直接お誘いしようも思っていました!」
「そうです! お父様!」
「そうであったな。うむ。どうだ? 神子。こやつらも乗り気だ」
「ええ。経験は乏しいですが、一生懸命務めさせていただきます」
なんかロックオンされてない?
『これは……狙われてるわね』
『お兄ちゃん……結婚するの?』
(気が早いよ! こんな初対面の人も結婚する訳ないだろ!!)
容姿は確かに前世で、十分アイドルとタメを張れるぐらい美人だけど、こちどら毎日、絶世の美少女のスーニャやメアを見てるし、マナ達も見ているからか、彼女達に微笑みを向けられても、裏があるなぁーしな思わないよ。
前世なら気付かなかったけど、今なら分かる。笑顔にも種類がある事を。王女様達が僕に向けているのは、一切の愛情のない、ただの愛想笑いだ。
申し訳ないけど、靡く可能性は皆無だ。
王様の手が上がると、音楽が流れ始める。
「では、エスコートしたいのですが……どなたから?」
「では、私から……第一王女のミティーですわ。神子様」
「はい。ミティー様。では……」
「はい。楽しみですわ」
「楽しめるように努力します」
ああ、緊張するぅ。手を差し出すと王女様が手を乗せてきたので、そのまま軽く握り踊る為の場所に向かう。




