81話 出発
あれから半年と余り。
スピカが産まれてから数ヶ月も経ち、子竜の姿は神殿で馴染み、多くの人に可愛がられていた。
星騎士団も前から強かったけど、日々の鍛錬で、その強さを確かなものにした。
僕も聖騎士や戦乙女との模擬戦を見たが神聖国最大勢力にも引けを取らなかった……というより、善戦していた。
流石に、何年も鍛えてきた聖騎士と戦乙女達は強かった。恐らく、彼ら彼女らなら、あの悪魔にも対抗出来るだろう。
そして、今のみんなも間違えなく、勝てると確信出来るほどに強くなった。
そして、僕も自分で言うのも何だけど、かなり余裕を持てる程の強さは手に入れたと思う。
まず、魔導騎士の別バージョンを作成し、剣術と盾の使い方も覚えたし、マナの尽力で色んな新たな魔法も手に入れた。手に入れたってより、マナの魔改造だけど。
スピカは相変わらず姿が変わらない。ドラゴンの成長はよく知らないから、気長に見守っていこう。抱っこ出来るうちに抱っこしておかないとね! 感情は恐らく、母親や父親に近いだろう。
過去を振り返るという事は、これから何かが起きるということだ。
そう……今日は、僕が神聖国から旅立つ日。
同盟を結ぶ国々に赴き、それぞれの国のトップ、つまり王様に御挨拶をしに行くのが、目標だ。
最後には賢者が理事を勤めるハワード魔導国にて、一年ほど学園に通うことになる。学園かぁ……ワクワクするような、怖いようなそんな複雑な気持ちだ。
荷馬車には大量の荷物が積まれる。馬車の数は五つ。
僕と星騎士団だけではなく、神聖騎士団からも複数人と、身の回りのお世話にシスター人達も複数人。人の数が多すぎ。
ユリアさんは、これでも絞ったと言ってたから、絞らなかったら一体何人規模になってたのやら。
総勢、五十人は超える大所帯だ。
その場で、僕はスピカを腕に抱きながら、ユリアさん達とお別れの挨拶をしていた。
「それじゃあ、行ってきます……」
緊張気味に言う僕に、ユリアさんが柔らかい笑みを浮かべる。
「今から緊張していたら、大変ですよ? 他国には予想もつかない脅威があるでしょうから……」
「こらこら、ユリア。そんなにレイン君を脅かしてどうするんだい?」
「猊下。脅すなど……私は、神子様に万が一が無いように、念の為の助言です」
教皇様とユリアさんの親子は相変わらずだ。
「孫よ! 無事に帰ってこい! 何かされたらおじいちゃんに手紙に書くのじゃぞ? 他国の伯爵ぐらいなら、どうにでも出来るからのう……がはははっ!」
「う、うん……出来る限り頼るようなことにならないように頑張るよ」
怖いよおじいちゃん。伯爵って、上位貴族じゃない。そんな人が僕に喧嘩を売るとは思えないよ。
「レイン。貴方の事だから、心配は要らないでしょうけど。それでも、ご無事で。私も教会の代表として、他国に対しては大きな影響力がありますから……本当は着いて行きたいのですけど、三大聖者の二人が行けば、どのように解釈されるか分かりませんから……」
「その気持ちだけで、僕は嬉しいですよ……聖女様」
「まあ、なんと他人行儀な……くすん」
人前だぞ。馴れ馴れしく出来るか。
そういうのは、親しい人が居るときだけにしてください。
「あの、レイン様。お気を付けて……」
「はい。マミ」
控えめの別れ言葉に僕は、手を差し出す。
「……はい。無事に帰って来てくださいね」
「うん。マミも元気に、ね」
僕の手を両手で包み彼女は慈愛に溢れた笑みを浮かべた。メアに似て、だが全く違う笑みだ。彼女はメアを目指すのをやめたわけじゃない。目指しながら自分という存在を知っていくのだ。
「レイン様! その、い、いつでも帰ってきて下さいまし……べ、別に私が寂しいとかではありませんわよ!?」
「うん。分かったよシュシュ」
「な、なんで頭を撫でますの!?」
「嫌かな?」
「嫌ではありませんわ! で、でも人が見てましてよ……」
髪の毛をクルクル弄りながら可愛いことを言ってきたので、頭を撫でてしまった。みんなが見ているから少し照れるけどね。
シュシュの頭から手を離して、今度はずっと無言だったシリカに向き直る。
「僕、行くね」
「あ……」
僕の言葉に俯いてたシリカは顔を上げるが、芳しくない。何かを堪えてるようだ。
これでも仲良くなった筈何だけどね……。
僕は困ったと頭を掻きながら、しょうがないかと開き直る。
彼女にも彼女なりの別れ方があるのだろう。
「じゃ、僕行きますね」
「行ってらっしゃいませ」
「怪我しないようにね」
「何かあったらワシに頼るのだぞ!」
「浮気はダメですよ〜」
「今度会う時はもっと立派になってみせます!」
「風邪引かないようにしまし!」
「…………」
みんなに手を振りながら、星騎士団のみんなの元へ歩み寄ろうと振り返り、歩き出す。
バフ……背中に何かがぶつかってきた。
「か、帰って来てくださいっ!」
「……うん! 必ず」
返事をすれば、背中の温もりが離れていった。僕は振り向かえらずに、前に進む。
「スピカ。まだみんなの元に帰ってこようね」
「きゅぅ〜♪」




