80話 紹介
「じゃじゃーん! 卵から孵ったよっ! お名前はスピカ・ステラノーツです!」
「きゅぅ!」
「ドラゴン……っ!?」
「あらら、こりゃあ不思議なもんだねぇー」
「……すっ、すげぇぇぇ!!」
取り敢えず星騎士団にお披露目だ。みんなの反応は上々。驚くよね! どんな文献も小説にも、ドラゴンを卵から孵らせたものは無かった。契約してなんとやらとかはあったけど。
「…………」
「あ、スー大丈夫?」
みんながワイワイ言う中で、沈黙しているスーが気になった。やはり、レッドドラゴンと同じ竜種だから受け付けないとかかな……。
僕の言葉にニコッと笑みを浮かべるスー。
「もし宜しければ、少し抱っこしても?」
「え!? ……あ、うん……いいよ」
「ありがとうございます」
僕の腕の中に抱っこされていたスピカを受け渡す。
驚いた。てっきりダメです! とか、無理です! など、言うことも覚悟してただけに、自分からスキンシップを取りに行くとは……どうやら僕はスーの度量の広さを測り間違えたようだ。
「はい! どうぞ」
「うふふ。受け取りました……まあ、鱗で包まれていて、すべすべしているのですね」
「きゅぅ……」
スーに撫でられて気持ちよさそうにするスピカに場が穏やかになる。
と、思ったら何を思ったのか、スーが窓際に向かって歩き出す。
「うふふ……すべすべですね? ドラゴンさん……あ、手が滑った!!」
「ちょっとぉ!?」
「きゅぅー!?」
手が滑ったと思えない程に、腰を落として、振りかぶり窓の外にスピカを投げたではないか!
スピカは成されるがまま、遠くに飛んでいく。わざわざ身体強化すら使ったのかよ!
「スーさん!?」
「申し訳ありません。手が滑ってしまいました」
「わざとだよね!? 身体強化すら使ったよねれ!? やっぱりスピカがドラゴンだからなの!?」
やはり、過去のトラウマに刺激されたからか……!
迂闊だった! 彼女のドラゴンにどれほど憎しみがあるかを……っ!
スピカは大丈夫だろうか……いや、仮にもドラゴンだし、大丈夫な気がする。
空から降ってくるくらいだし、あの程度でどうこうなるようなやわな存在じゃないだろう。
「ドラゴンですか? ああ、別に思うことはありませんよ? あの赤蜥蜴と同じ種族だからって、憎しみの対象にはなりません。そこまで見境の無い程度の憎しみではありません」
彼女の瞳の奥に、闇が潜んでいた。それは見ているだけで、背筋が凍えてしまいそうな程の、憎悪。
だから、だからこそ、一つ疑問がある……。
「じゃあ、なんでスピカ投げたし!!?」
ドラゴン関係ないなら、投げる必要ないよね!?
僕の問いかけにスーは先程とは、違う闇を携えて答えた。
「一言で言えば……嫉妬です」
「ふぁい?」
何を言っているのかしら?
嫉妬? なんにだよ!? あの子は産まれて間もないんだよ!? 嫉妬するには早すぎるでしょ!
「だって……だって! あのドラゴンは! 現れた瞬間から、主様の腕の中に抱かれ、あまつさえ、私と名前が似ているのですよ!? あのドラゴンは、主様に抱かれることをまるで当たり前のような振る舞いをし、私に抱かれた時は、居心地が悪いと言わんばかりに、尻尾でベシベシと叩く始末……っ! あの蜥蜴には教育が必要です! ですので、事故を装い、亡き者にしようと……」
「あの子、スーに撫でられて気持ちよさそうにしてたけど!? 名前も星から取っただけだし! 産まれて間もないんだから、抱っこしてあげるのは普通だと思うよ! それに、事故を装えてないからね!!」
あと、教育が必要とか言いながら、亡き者にしようとしている矛盾!
「きゅぅー!!!」
「スピカ! おかえり! 飛べたんだね! 良かったよぉ〜!」
涙目のスピカが窓の外から飛んで帰ってきた。
僕の胸元に飛び込んで来たのでそのまま抱き留める。
大丈夫だと思ってもやはり、心配だった。
「ちっ……ご無事で何よりです。スピカさん」
「舌打ち!? スーさん! 殺意が高いよ!?」
「きゅぅ……! きゅぅ! きゅぅ!」
怖い……! このお姉ちゃん! 怖いよぉ! と言っている気がする。
「人様に向けて吠えるなど教育がなってませんね……主様。私にお任せすれば、一週間で立派などれ……ペットに仕上げてみせます」
「奴隷っていいそうになったよね!? 預けないから! この子は僕が育てるの!!」
「そうですか……残念です」
長い耳がシュンと下がる。この子、本気で教育するつもりだったんだ……!
「あ、他にも、ユリアさんやおじいちゃん、教皇様に見せてくるね! 」
これ以上は不味いと、感じ取り、この場から離れることにする。
「あ、護衛します!」
「いいよ! スーは疲れているでしょう? ドロシー一人でいいよ」
「そんなぁー!」
「ぶい」
ドロシーが何処で覚えたのか分からない、ダブルピースをスーにしてから僕の後をついて行く。
「じゃ、みんなも鍛錬頑張って!」
みんなを置き去りに、僕はドロシーと部屋を出た。




