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77話 剣術

「私の剣術ですか?」

「うん。ライオットの剣術を一通り見せて、教えて欲しい」

「神子様の頼みなら吝かではありませんが……」


ライオットは言いずらそうに彼の横に、笑顔が凍り付いたスーを見やる。犬猿の仲だけど、一応思いやりはあるみたいだ。


「あ、スーの剣術は合わないから保留で」

「主様ぁっ!?」


スルーするように言うと、がばっと僕の足に縋りついた。この子にプライドというものはないのかしら?


「何故! 何故私の剣術ではなく、こんな堅物から学ぼうとするのです!?」

「堅物とは言いがかりだな、隊長殿」


敬語じゃないライオットは新鮮だ。


「堅物じゃなければ何と例えればいいのでしょう。毎日駆け込み素振り腹筋腕立て匍匐エトセトラ……私達は入隊早々の新兵では無いのですよ? 皆、誰しも修羅場の一つや二つを乗り越えてこの地位に居るのです。その程度の事なら、それぞれ個人で勝手にやるのでしょうに……主様も何かこの堅物に言ってやってください!!」

「ライオット。いいぞ、もっとやれ!」

「はっ!」

「主様ぁっ!?」

「基礎は大事だよ」

「でも、それは個人でも出来ます」

「みんなが一緒にやるからいいんだよね?」

「はい。仰る通りです。我々は護衛を主にしてます。迎撃する必要も派手な技を繰り出す必要もありません。必要なのは、謙虚に慢心せず神子様をお護りすることになります。ですので、あそこのエルフのように、ド派手な魔法を撃てばいいという考えは些か幼稚が過ぎるかと……」

「誰が幼稚ですって!? 私のは実戦を元にしているのですけど? いざって時の切り札は一枚でも二枚でも多いに越したことはないでしょう! 基礎の地道な努力も理解してますけど! それだけでは、新しい発見を得て、より強くなれませんよ! 分かりましたか? 堅物の副隊長殿!」

「ああ言えばこう言う……はぁ、本当に貴女は幼稚ですね? 子供の喧嘩をしたい為にこの場に居るのですか? 神子様の御前ですよ? 実は種族を偽ってたりしてませんか? エルフはもっと知性ある種族だと思っていたのですが……残念ながらそうではないようですね、隊長殿」

「ぐぬぬぬぬ」


ライオットのウィナー。最初の頃こそは、スーが言いたい放題だったけど、最近は逆に叩きのめされることが増えたなぁ。

元々、ライオットは悪口と縁のない生き方をしてた要因だろう。今の彼は、そういうやり取りを学習してしまった。口で勝てる人など、ユリアさんや教皇様、メアぐらい? そして勝てる人達に限って、バカなことをやらないから、勝負することもないというね。


「話は戻すけど、これ……魔導騎士(ランスロット)にちゃんとした剣術を使わせてあげたいんだ」


出現した魔力の騎士はその場で跪く器用さを見せる。魔導騎士王(アーサー)は凄まじいぐらいに魔力を使わないと生み出せないからね。そんなことをしたら大騒ぎになるかもしれないから自重しました。

と、思ったら二人から反応がない。

……しまった! 不可視だったわ!


「あ、ええっと……見えない?」

「いえ、見えておりますとも……ですが、これは」

「凄いですね……初めて見ますが、魔力に形を持たせられるとは……主様は凄いです」


どうやら二人は惚けていたようだ。

小さい頃から練習してたからか、そこまで凄いものだとは思わなかった。

大抵の場合、魔法に使う以外は目に込めたり、身体に満たして、身体能力を高めたりするぐらいしか使い道はない。

でも、前世ならありふれた考え方だからなぁ。


「まあ、要するにこの魔力の人形に剣士の真似事をして欲しい訳だよ。俊敏性に関しては高くないから、レイピアを主体に戦うスーだと相性が悪いでしょ?」

「むむ。確かに……甘んじて我慢します」

「素直になろうよ……」

「質問があります!」

「はい、スーニャ君」

「魔力の塊ならば、形を変えられますよね?」

「もちろん。好きなように変えられるよ」

「ならば、レイピアを主体に戦う魔導騎士が居てもいいではないでしょうか!!」

「あ……そっか。別タイプを作ってもいいのか……うぅーん、頭が固くなってたみたいだね。ありがとうスー、参考にするよ」

「ふふーん」


ライオットにドヤ顔をかますスーは本当に幼稚に見えました。


「と、言っても、直ぐに作れないけどね。ある程度、イメージがかたまらないといけないから」

「あ、そうですよね……」


しょんぼりしてしまった。


「ごめんね。取り敢えずは、ライオットに剣術のいろはを学ぶことにするから、よろしくね」

「お任せ下さい」

「待った!!」

「まだ何? 今日はいつもよりしつこいね……」


スーが待ったをかける。


「魔導騎士を一から作る……つまりは参考資料が必要ですよね? ならば、私の剣術と動きを学べば、最適化された魔導騎士が作れるのではないかと!! 私の剣術も是非、学んでください!!」

「おお……理にかなってる」


そんなにライオットに張り合いたいのか。

まあ、そんなに必死になっているスーも結構嫌いじゃない。

それに、前より元気になったようで良かった。

過去を忘れろとは言わないけど、何時までも引きずるのは、辛いからね。


「分かったよ。スーからも学ぶ。それでいいかな? 二人とも」

「やった!」

「構いません……はぁ〜」


嬉しそうに飛び跳ねるスーの横で、溜め息をつくライオット。対象的な二人だ。


いつか僕がもっと強くなれたら、必ずスーの仲間を殺したレッドドラゴンを退治しに行ってやる。

そうすれば、彼女は呪縛から解き放たれると信じてる。

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