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75話 努力家なシュシュ

とある日。僕は特定の知位を持つ者以外立ち入られない庭園にて、赤いツインテールを揺らしながら目を瞑り、何かを辛えているシュシュを見つけた。

因みに僕は今一人だ。神殿の内部なら安全だという理由と、みんなにはもっと強くなってもらう為に、修行に専念してもらっている。

無人でも無いし、等間隔に神聖騎士が待機してたり、巡回しているから、安全に関しては虫一匹通さない。

時折、他国の知識や地理の勉強の息抜きに散歩している。


「一人で何やってるんだろう? ……僕、気になります……ささっ」


身を屈め、彼女の背後にと回る。

ふんわりとフローラルな香りが鼻腔をくすぐる。


「むむむぅ……もう少し……もう少し……ですわ」


小さく声を零しながらかなりの集中している御様子。邪魔をするのが幅かれる。


(ん? ……これは、浄化か? なるほど〜才能(ギフト)の練習中かぁ〜)


才能(ギフト)は個人の努力次第で成長するもので、彼女の持つ才能(ギフト)は、本人を中心に一定範囲を問答無用で浄化してしまうのだ。

初対面の時は、昔の聖女が持っていたって、自慢してたっけ。かつての貴族のご令嬢でプライドも高い雰囲気はあったのにこうやって、努力をしている姿を目にしてしまうと、推しになりそう。ギャップ萌えってやつかな?


「ダメ……こんなんじゃ……あの二人にも……レイン様にも、置いてかれてしまいますわ……」

「っ!」


自分の名前が出た事に一瞬声を出しかけた! 危ない! セーフ。

あの二人って、マミリアとシリカのことだよね? 同じ聖女候補だし、ライバル視しているのかも知れない。

でも、置いてかれるというのは、なんか焦りを感じされるニュアンスだなぁ。

僕からしたら、みんな凄い才能(ギフト)を持っていると思うんだけど。

マミリアは、触れたものを癒す力。

シリカは、体液が聖水の効果を持つ力。

シュシュは、一定範囲を浄化する力。

僕は、意味不明の力。神能(ディア)の可能性あり?

焦る必要など無いと思うけど。彼女はまだ11歳児だよ? まだ、学び遊び、スクスク育つ年頃だろうに。

マミリア同様、彼女も何処か大人になり急いでいるのかな?

う〜ん。マミリアと同じなのは、なんか違う気がする。


『私は……分かるなぁ〜』

(なんですと……教えてください澪先生!)


澪先生が分かるらしい! 教えてもらおう!


『調子良いなぁ〜もぅ。彼女はね……多分劣等感を感じているんじゃないかな?』

(れっ……とうかん?)

『なんで初めて聞いた言葉です。みたいな反応してるの? 前世の君が常に感じてた感情じゃんか』


グサッとくること言いますねぇ〜!


(だって、それは僕が本当に他のみんなより劣っていたからだし、シュシュは自分を卑下するような部分は無いと思うよ?)

『神子様は凄い回復魔法持ちで、凄くお優しくて、天使のような笑顔を浮かべる方です! と言われたらどう?』

(誰です? 僕はそんなに大したことないですよ?)

『そういう事じゃないかな? 他人からどう言われようが、本人がそう思ってないんなら、意味が無いよ……彼女は自分に自信が持てないんだね』

(……僕に似ているね)

『そうだね。似てるから私が共感出来たんだと思うよ?』


僕の一部でもある澪だから、共感出来る、か。

他人にから見たら凄いかも知れないけど、僕は僕の限界と出来ないことが明確に分かるからそこまで誇れるものじゃないと考えてしまう。

でも、他人にどう言おうが、相手からしたら、僕は凄い奴で謙虚なだけに映るだけか。もしくは、鼻につく奴。

普段のシュシュは虚勢を張っているだけで、本当は影で必死に頑張っている……。

天才は努力の天才でもある……か。


「キャ! ……な、なななんですの!?」

「よく頑張ったね……偉い偉い」

「レ、レイン様ぁっ!?」


気が付いたらシュシュの頭を撫でてた。

涙ぐましい努力に、前世の僕が出来なかった努力を彼女はこんな幼い頃からしていたんだ。


「な、なんで!? 頭を撫でられてますの!?」

「それはね、シュシュがすっごくいい子で偉い子だからだよ……偉い偉い」

「理由になってませんわっ!!」

『もはやお父さんみたいな気持ちでしょ』

(まあ、ね……)


生まれ変わっても、やはり気持ちは何処か大人に寄っている。子供になり切れない。

これでも素直に感情を出すようになったんだけどなぁ。


「シュシュ! 僕に出来ることがあるなら何でも言ってよ! 出来る限るの手助けはするからさ!」

「も、もしかして……見てました? ……その、練習……してるの」


恥ずかしいのか上目遣いでチラチラ見てくる。こういう仕草を無意識にやれるとは、将来は魔性の女になるね……!


「あ、うん。邪魔するつもりは無かったんだよ……でも、頑張ってる姿を見たらさ、何かしてあげたくなったんだ」

『ツインテール引っ張ろうとしてた人の言うことは違うねー』

(やってないから未遂だよ! それでも僕はやってないんだ!)

「あ、ありがとう……ございますわっ! ……えへ、もしかしたら呆れられるんじゃないかって、思ってました」


照れるようにツインテールを弄って、俯きながら感謝を言う。

やること一つ一つがあざとい! しかも、間違いなく無意識なんだから、やっべぇぞ!


「呆れられる? なんでさ」

「だ、だって、レイン様も聖女様もみんな凄い方々ですもの。それこそ練習などしたことないんじゃないかって……思っておりましたわ」

「どんな超人だよ……僕だって、きっと、メア……聖女様だって、色々努力してきたんだと思うよ? 寧ろ僕は凡人サイドの人間だし」

「うふふ……レイン様って謙虚なんですのね……素敵ですわ」

「謙虚じゃないんだけどね……それより、おほほって、笑わないの?」

「偏見ですのよっ! (わたくし)が生まれ育ったお家でもそのような笑い方をする淑女はおりませんでしたわ」

「びっくりだよ! てっきりお嬢様の基本的な笑い方だと……」

「そういう笑い方のご令嬢って、大体物語で悪役が多いのが影響して段々数を減らしっていったと、お母様が仰ってましたわ」

「へぇ〜」

「誰しも、お姫様みたいに扱われたいですもの……悪役なんてやりたくありませんわ」

「そっかぁ……まあ、シュシュってお姫様みたいに可愛いから、悪役は似合わないよね」


見た目は悪役っぽいかもだけど、中身は凄いいい子だからね。


「プシュ〜」

「ちょっ!? なんで倒れるの!?」

『可愛いなんか軽々しく言っちゃダメだよ〜』


シュシュが再起動するまで小一時間ほど経ってからだった。





「こほん! それで、何か手助け出来ないかな?」

「はいぃ……その、(わたくし)才能(ギフト)はこれからどのような方向性で育てればよろしいのでしょうか」


方向性ね……難しいね。自分の能力ならある程度目星がつくけど、他人しか持っていない特殊能力だからね。

どのような感覚でどれぐらい応用が出来るか未知数だから。


「取り敢えず、範囲を拡大すること以外、何か出来る?」

「ありませんわ……」


おぅ……。


「そ、そっか。十分凄いと思うけど、それじゃ嫌なんだよね?」

「はい! (わたくし)はレイン様に相応しくなりたいのですわ!!」

「心意気はよし! うんうんその目標……? に従って? あれ? って、僕!?」


自分を指さしてしまう。

目指す先が僕に相応しくって!? どういうこと!?

こんなこと言ってはあれだけど、そこまで彼女と仲良くした記憶がないよ? むしろ、こうやって、二人きりで話するなど、初めての事だし。


「はい……お恥ずかしながら。あの、嫌です?」

「うぅ……嫌じゃない、よ」

「良かったですわ!」


上目遣いで言われたら断れないよぉ。


「だって、レイン様とお友達でいる為には対等でなくてはならないですわ」

「あ、友達ね……うん友達」

『何を勘違いしてたのかなぁ〜? うぅん? お姉さんに言ってみなさい♪』

(うぜぇー)


勘違いしてないし。分かってたし。別に友達でも全然嬉しいけどね!


「は、話は戻るけど、同じ才能(ギフト)を持ってた聖女が過去に居たんだよね」

「ミッシェル様ですわ! 三代前の方ですの! かの呪われた土地の大半を生涯掛けて浄化した素晴らしき方ですわ!」


目を輝かせて語る姿は年相応。

呪われた土地というのは、過去にあった戦争により多くの血と怨念を吸い、アンデッドが湧くようになった昔の地名だ。今は普通の草原になっている。


「そう、そのミッシェル様。その方はどのような才能(ギフト)の使い方をしてたの?」

「範囲の拡大ですわ。兎に角、呪われた土地は広大でしたの。ですので、少しでも浄化出来るように範囲を拡大して、人の住める場所を広げた英傑ですわ!」

「だから、シュシュも拡大を?」

「はい! (わたくし)もミッシェル様のように大きな偉業を成し遂げたいですわ」

「大きな夢だね」

「笑わないですの? バカバカしいって……」

「ううん。笑わないよ。応援するよ!」

「あ、ありがとうございますわ……」

「方向性はミッシェル様と同じように範囲拡大でいいの?」

「それ以外思い付かないというのもありますの」


ああ。先人がその育てかたで偉業を成し遂げなら、右にならえしたくなるよね。


「逆に狭めるのも面白いかもよ?」

「狭める、ですの?」

「うん。例えば、僕は魔力とか魔法を圧縮してより強力にできるんだけど、それみたいにシュシュの才能(ギフト)も範囲を狭めたら効果が上がったりするんじゃないかな?」

「狭めて、効果を高める……高めて意味がありますの?」

「ああ、そうか。浄化って高める意味ってあるのかな?」


むむ。効果が上がればいいと思ってたけど、そうじゃないかも?


『お兄ちゃんお兄ちゃん』

(おや、ヒナじゃないか。お昼寝はもういいの?)

『うんっ! それより、『殲滅光(オーバーレイ)』にも浄化の効果があるよ!』

(うむ。それが?)

『シュシュちゃんもビームみたいにしたら『殲滅光(オーバーレイ)』みたいになるんじゃないかな!』

(それは……どうだろう?)


ありそうでなさそうな……。ううむ。

提案するだけするか。


「そうだね……狭めたら、効果以外にも何か新しい能力が目覚めるかも? えぇーっと、例えばビーム……槍みたいに飛ばしてまたり、ボールみたいに飛ばしてみたり……拳に込めて殴ってみたり……なーんてね」


最後のは無いか。


「拳に込める……ですの」


自分の拳をまじまじ見詰めてむむっと難しい顔。


「そうだね。悪を滅ぼす正義の執行者! その最大の武器は、正義を宿した拳……正義の鉄拳(ジャスティスナックル)! ……みたいな、ね」


あはは……ねぇーわ。無いわー。言ってて引いたよ、自分が。


「か、カッコイイですわ!」

「うおっ!?」

(わたくし)、この拳に正義を宿す執行者になりますわ!」

「なんですと!?」

「よし! まずは拳に浄化の力を宿す為の修行をしなくては! では、失礼しますわ、レイン様! ごきげんよう〜」


たたたた! と走り去っていった。


「ど、どうしよう……」

『身から出た錆〜』

『ビームの方がカッコイイのになぁ〜』

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