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74話 みんなの思い

ベッドに座る僕の前で彼らは跪いて下を俯いていた。

静寂が場を支配する。


(小さい時からこういう説教とかさ、誰が犯人なんだっていう雰囲気って苦手なんだよね……)


学校なら一度や二度ぐらいは体験する空気だと思う。

その度に思うんだ。個別に対処してよ……とね。

何故かこういう雰囲気になると悪くない子まで俯いてしまんだから不思議。

今回と言えば、誰も悪くないのだから、尚更だ。あれは、一つの災害。嵐や津波みたいな存在なんだから、さ。

場の空気に耐えられず、僕はおちゃらけることにした。


「スーは今日どんな下着履いてるの?」


もう! そんなこと恥ずかしくて言えませんよ! ……後で二人きりの時に、お教えします♪


「はい……今日は白にフリルが施されたブリッツ氏作の金貨12枚ほどの勝負下着になります」


うおい! 僕の予想としていた答えじゃなぁい!! なに、サラッと答えてんだ!! みんなノー反応だしっ! 勝負下着ってなに!?


「そ、そうなんだぁー。ら、ライオットはどんなし、下着履いてるの?」


神子様。私の下着を聞いても意味が無いように思えるのですが……ですが、神子様が望むならお教えします……。


「私は実利重視の身動きを阻害しないフィット感に定評のあるハスキー殿作の金貨2枚と銀貨7枚になります」


なるほど〜そういう下着もあるんだーへ〜。

って、そうじゃねぇー! なんでスーと同じ返ししてくるの!? 個性は!?


「そうなんだ……ドロシーは?」

「履いてない」

「嘘!?」

「嘘……スーにオススメされたやつ、水色、フリル……勝負下着?」


何故嘘付いたし! 更に断片的な方がこう妄想力が掻き立てられて、興奮するよね!?

ダメだ。みんなボケない。いや、ドロシーはボケたけど。それでも誰もクスッと笑わないし、こんな質問をかます僕にツッコミも入れない。


「ふぅ〜……みんな。一つ聞きたいんだ……アイツは、悪魔みたいな奴はみんなと戦ったとき……本気になった?」

「「「「「っ!」」」」」


僕は本題に入ることにした。はぐらかせないのなら、彼らが望むお話をしよう。


「最初は……遊んでたように思います。ですが、途中から強さが跳ね上がったので、恐らくは……本気かと」

「そっか」


スーが代表して答える。強さが跳ね上がったか。僕と戦ってた時と同じだ。

僕はお世辞にも強いと言えない。何言ってんだ? と思われるかと思うけど、僕はただ魔法を放って魔力を上手く工夫しただけで、全く戦いとは言えない。強いていえば固定砲台かな? そんな僕が倒せて、みんなが負けた理由は、アイツは魔法を弾く性質を持っていたからだ。

魔法を抜きにしたみんなの決定打が無かった。だから、本気になったアイツに押し切られたんだと思う。僕はアイツが本気になったのを知った時に、即座に出し惜しみ無しの全力の一撃をぶち込んだから、勝てただけだ。

僕の実力なんか、スーニャやライオットがダッグを組めば不利になり、三人以上組めば勝率はほぼゼロまで下がる。

それが五人組で挑んで勝てなかったんだ。僕が勝てたのは相性が良かったからだろう。


「それってつまりさ……アイツが遊んでいる間に逃げれた。あるいは僕の元まで戻って一緒に戦うという……手段を取れたって事だよね?」

「っ、それは! ……それは」


みんなが息を飲み、ライオットが言葉を飲み込む。


「みんなの考えていることは分かっているつもりだよ? みんな、僕のこと、凄く大切にしてるのは伝わっているんだ……」

「神子様……」


そんなの分かっていることだ。彼らが誰のために戦っていた事ぐらい。でも、それでも……。


「僕は怒ってんだよ? いざって時、僕を一切頼らないみんなにも、そして……みんなに頼られない僕自身にも、ね」

「そんなことはありません!! 神子様は、主様はとても立派で頼りになる方ですっ!! そのようなことは……仰らないでください」

「あはは……スー、面白いことを言うね? だって、現に頼ってくれなかったじゃないか」

「っ……」


僕は今、どんな表情をしているのだろう? 笑っているのかな? それとも、泣きそうな顔をしているのかな。


「僕はみんなのこと大好きだよ。こんな子供を大切にして、仲良くして、色々気を使ってくれて……ああ、愛されてるなって、いつも思ってる」


僕は窓の外に顔を向けた。今は誰とも顔を合わせたくなかったから。


「でも、それってさ、僕の言っていることや本気になったことを子供の言っていることって、流してたんじゃないかって……」

「そのようなことはありませんっ!!」

「神子様っ! 私はそんなことは……1度たりとも……っ!!」

「そんなことない! 私はレインがすごいって知ってる!!」

「オイラは……悪ぃ……思ってたよ」

「アタイも……」

「ロイド! ミーゼ! 何を言っているんですか!?」

「嘘をついても意味無いだろ? アタイら双子からしたら、神子様の凄いところなんか回復魔法が凄い、としか知らなかったんだからさ。いくらあんたらが凄い! とか強い! って言っても直接見てるわけじゃないからね」


ミーゼのある意味当たり前の考えだった。実力も分からない子供に背中を預けられるわけが無いか……。これは、僕が悪いな。反省。


「それに関しては僕が悪いよスー。僕はみんなに戦えることをちゃんと見せてなかった」

「そんな! 主様は戦う必要などないのですよ!? 戦うのは私達騎士の務めですっ!!」

「神子様が怒っているのはそこなんじゃないの?」

「え……?」

「隊長


の考えは騎士として当たり前だとオイラは思う……護衛対象に戦ってもらうなど、言語道断さ。でも、神子様からしたら、自分も戦えるって思っていただけに頼られなかったのが……堪えたんだと思うぜ」


ロイドはボリボリと頭を掻きながら言いずらそうに話す。付き合いの長いとは言えない彼からここまで的確に僕の心情を言い当てられるとは……。

彼らが僕を見ていないんじゃなくて、僕自身が彼らをちゃんと見てなかったんだ。本当に反省の多い日だよ。


「ロイドの言う通りだよ……僕はね、みんなの為ならこの命を捧げてもいいんだよ」


過ぎた命だ。恵まれた人生だ。二度目なんだ。他の人の何倍も幸運なんだ。いつ命を失ってもきっと、幸せでしたって僕は言える。


「だからさ……どうか、どうか……僕にもみんなを守らせてよ……戦わせてよ……みんなが血溜まりにボロボロになって横たわっているのを見て、僕がどんな気持ちになったと思う? ……死んだって思った……僕のせいでって……」

「返す言葉もありません……」

「主様……私は……信じられなかったのでしょうか?」

「ごめん……なさい」

「オイラも考え無しだったよ」

「アタイも……言い訳はしない」

「自分ももっと……考えるべきだったっす」

「俺は不甲斐ない……っ!」

「僕ね、自分が強くないことは分かっているんだ。まだまだ子供だ。大人に守られて当たり前の立場だって知っている。みんなは間違ってはい。僕の考えこそが異端なんだって……それでも、僕は……」


目を閉じればライオットが、スーニャが、ドロシーが、ロイドが、ミーゼが虚ろな目で息絶えてる姿が浮かぶ。

ふと、頬に暖かいものが零れた。


「みんなとずっと笑顔で過ごせるのなら、無茶も無謀もやるよ……そうでしょう? だって、僕はみんなが大好きなんだから」

「はい……はいっ!」

「今一度誓を立てます! 我が身に変えても神子様を……いえ、共に未来を生きることを!!」

「うん……私もレインとみんなとずっと一緒に居たい」

「ずっと笑顔でか……オイラには合わないと思ってたのに……悪くねぇな」

「アタイもようやく居場所ってやつが分かった気がするよ……」

「うおおおおぉ…………っ! 自分はっ! もっと強くなるっすよぉ!!!」

「俺も護る。この場所を……仲間を……今度こそ……っ!!」


みんな同じ気持ちだ。


「ならば、今回の君たちの罰の償い方を言い渡します。……強くなれ! 僕が安心して任せられるように! そしてもし、ダメな時は遠慮なく僕に頼りなさい! みんなが入れば、僕はいくらでも強くなれるんだから!!」

「「「「「「「はっ!」」」」」」」


強くなろう。どんな難敵が現れても、鼻で笑えるように……みんなとこの先も一緒に笑顔でいられるように!

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