71話 氷の上で滑ってみる?
悪魔の猛攻を魔導騎士王二体がカバーしながら反撃に出る。
「隙あり! 『殲滅光』×3!」
「隙なんかねぇ!」
魔導騎士王も巻き込んちゃうから控えめな数をちまちま打ち込んでいく。
だがいとも容易く弾かれてしまう。
「本当にタフ! いい加減にくたばれ!」
必死に騎士王を操作するが、やはり素人故なのか全く剣が当たらない。
カッコつけて万物を切り裂くとか言ったけど、只の魔力を圧縮した剣にそんな機能はない。ただ丈夫なだけの剣だ。盾も癒し効果など無いし精霊のなんだらも無い。ただの頑丈な盾だ。
「カルスの気持ちが分かってきたよ……今度からもう少し優しくしよう」
『ええ。同じ気持ちよ』
日常的にスカをかますカルスを呆れて見てたのを反省。今度、お茶にでも誘おうかな? エルフの里で作られる最高級茶葉のエル茶葉で注がれたミルクティーは絶品なんだから。
『ううっーあんなに弾かれたら自信を無くしますぅ〜』
『ライアちゃんドンマイ! ヒナも同じ気持ちだよ!』
『殲滅光』バカスカ打っては弾かれているからね。二人には悪いことをした。
『いいじゃん。出番があるだけ……私無いんだけど?』
澪が拗ねたように言う。
しょうがないじゃないか。アイツ魔法弾くんだもん。『殲滅光』だって十本束ねて辛うじてその防御を越えられるかとうかなレベルなんだから。
『…………ねぇ。私、いい事思いついちゃった♪』
「良いこと?」
『うん。地面凍らせよ?』
「地面を?」
『そうそう。そしてあのロボット達に』
「魔導騎士王だよ!」
『魔導騎士王よ!』
『あ〜うん。はいはい。そのアーサー君達をアイススケートさせたら面白そうじゃん?』
む。確かに。今の現状、魔導騎士王は機動力で大きく劣っており、防戦一方だ。攻撃もかすりもしない。
その機動力を上げられるなら……うん。いいかも!
「おっけ! 採用!」
『やったー!』
『でも、問題があるわ』
「問題?」
『貴方、アイススケートやった事ないじゃない』
「あ……本当だ!」
インドアでボッチだった僕がわざわざアイススケートをやりに行くわけがない。
「うぅ……ここでボッチとしての足枷が」
『えっと……私滑れると思うよ?』
「なんで!? 」
僕から生まれたこの子達は基本的に僕の記憶や経験を一部引き継いで生まれる。つまり、僕の記憶になかったり、経験をしてなかったら出来ないのだ。頭の出来は違うみたいだけどね。
『仮にも氷の精霊だよ? この箱庭に私専用の空間あるし』
「そりゃあそうか。氷の精霊が氷の上で転んでたら可笑しいか」
僕は彼女たちのマイルームというより、領域に足を踏み入れた事はないけど、それぞれが住みやすい環境になっているらしい。
まったく、僕の頭の中の世界は何処まで広いんだか。
「でも澪が滑れても操作してる僕とマナは滑れないよ……」
『一時間でも教えてもらえれば滑れるようになる自信はあるのだけれど』
相変わらずうちのマナは僕より遥かに頭が良すぎる!
『じゃあさ、下半身だけ私が操るっていうのはどう?』
「……大丈夫? 二体分になるよ?」
『う〜ん。まあ、いけるっしょ!』
この子はこの子でポジティブだなぁおい!
「まあ、やれるだけやってみますかね」
僕は地面に両手をつける。
「アイスフィールド!」
まんまの名前の魔法が発動する。
眼前の一面の地面が一瞬にて、氷結の世界に変わる。
「なんだぁ? まだおもしれぇ事やるのかぁ?」
空中に退避した悪魔が面白がるように言う。本当に余裕だな。コイツはちっとも本気を出していないことが嫌でも分かっちゃう。
もし、本気を出されたら一瞬で殺られそうだ。
今はコイツがお遊びの間に仕留められればいいんだけど。多分無理だよね。
一応、持っている魔法の中で最高火力の『殲滅光』があれなんだもん。
一発逆転の魔法は無いんだよね。使う予定も無かったから。
「さあ、澪頑張れば!」
『うぃうぃ!』
可愛い返事をした澪に、僕とマナは魔導騎士王の下半身の制御を明け渡す。
『うお!? なんか動かしずらいよ!』
「そりゃあ、一朝一夕で操られたら僕の立つ瀬がないからね!」
『威張って言うことじゃないなあ!』
『ほら、澪。私が操作を教えてあげるわ』
『助かる〜流石長女だね』
『もう、調子いいんだから』
澪。甘え上手になったなぁ〜。流石は末っ子かな?
魔導騎士王の足裏に刃が生える。
アイススケートをやる騎士か……シュールだなぁ。
『うんじゃ行くっしょ!』
「うぃうぃ」
『うぃうぃ』
『真似んな!』
澪の真似をマナとしたら怒られたンゴ。
澪の操作で軽やか……とは行かないにしても、氷の上で滑りました。
「ギャハハハハ! おもし「『殲滅光』×3!」うぉ! 容赦ねぇ!」
「知らないの? 戦いというのは相手が嫌がることをネチネチするものなんだよ? おツムが足りないなぁ〜1回生まれ変わったらどうかな!」
レーザーを弾く瞬間に、機動力が跳ね上がった二体の騎士王が肉薄する。
「早くなったなぁ! うお!? 滑るぜぇぇ!」
足元を滑らした悪魔に容赦なく剣を振り下ろす。
「死ね!」
『死になさい!』
『ドナドナしろ!』
澪さん、それはちょっと違う。




