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6話 狼

「なあ、森にいこうぜ」


いつものように、村の年齢1桁のロリショタと遊ぼうとした時のことである。


カーソン氏は興奮するように言い放ちます。


「さ、さすがに怒られるんじゃないかな」


ショタの中でも物静かなショタが言う。


小心者は言わないのかって?


おいおい。小心者は多数決があったなら、絶対に少数派には行かない生き物なんだぜ?


反対が多いなら加勢するけど、残念ながら周りのロリショタは乗り気だ。


「安心しろよマック。俺様がいるんだから大丈夫だ!それに…………」


カーソン氏が布に包まれた細長いものを解く。


布が解かれ、姿を表すは。


何と剣である!


「へへ。父ちゃんから借りてきたぜ」


悪そうな表情から察するに、無断で借りてきたのだろう。


でも剣である。


初めて見た。かっけえ。


ファンタジーなら魔法にも並び立つ有名アイテム。


大体のオタクは魔法使いか剣士で無双する妄想に夢中になる。


最近は魔法剣士とかいうハイブリッドな存在が大人気だ。


もちろん僕とて、剣を使ってみたい。


魔法と剣を組み合わせた攻撃とか最高にかっこいいじゃん。


カップ焼きそばにラー油を垂らして、食べる組み合わせぐらい最高の組み合わせだと思う。


ペヤ〇グがマッチする。


剣を見せびらかすカーソン氏にロリショタ達は歓声をあげる。


僕も参加した。


多数決は可決した。


森にレッツゴーだ。







森といっても定期的に村の猟師さんが動物を狩ってるからそこまで危険性はない筈だ。


広間から移動して人気のない方へ移動して、大人達の目を盗んで村を抜け出す。


カーソン氏曰く、よくこうして抜け出してたから任せとけとの事。


その言葉通りに手馴れた様子でみんなを先導する。


「森には初めて行くけど、俺様には剣がある!どんな化け物が来ても倒してやるぜ」


イケイケである。


黒歴史にならなければいいのだけれど。


今更ながら小心者は気が付きました。


ママ様とパパ様の約束を破ったことを。


村の中ならオッケーを貰ったけど、村の外はノーオッケーである。


焦る。今世紀最大の焦りである。


会社に着いて、家の洗面台の蛇口を止めてなかったことに気がついた時に似ている。


薄月給には大ダメージを食らった。


泥水を飲食に使う海外の貧しい子供たちに申し訳なさでお腹を痛めた。


両親を心配させるわけにはいかない!


小心者は今からでも村に戻ることを提案する決意する。


「あの、みんな」


「おーい。何やってだよ。早く行くぞー!」


「あ、はい」


時すでに遅し、カーソン氏とロリショタが森に足を踏ま入れておりました。


小心者は両親にバレずにすむことにワンチャン賭ける。







みんな、まるでピクニックみたいに初めての森にはしゃいでいた。


それに対して、カーソン氏は不満そうだ。


さっきから背中に背負ってる剣を触っている。


使いたいのだろう。


僕的には使う場面になったら、非力なロリショタ達と僕は全滅すると思うんだ。


前世だって、小型犬が本気出せば、成人男性すら殺されるんだから、この世界の自然界を生き抜いている動物とか、きっと化け物ぞろいだと思う。


お腹が痛い。


プレゼンを言い渡された新人時代を思い出す。


大勢に見つめられてのプレゼンは、今まで日陰者であった僕には地獄のようなひと時でした。


同期のイケメンやら女性やらは、凛々しくプレゼンしてたのに、僕は噛み噛みのおどおどとしてた。上司にすら笑われたっけ。


思えばあの時から、僕は空気になる運命だったのだろう。


思い出すだけで気落ちする。


でも今はこうやって、同世代のロリショタ達と遊んでいる。


リア充に片足突っ込んでるといっても過言じゃないだろうか。


蘇生術。ポジティブシンキング!


エンジョイエンジョイ。


いえーい!パリピー!チョベリバ!まじ卍!


「も、もう帰ろうよ。これ以上行ったらヤバいよ」


物静かなショタが具申する。


僕もそれに乗ろう。


「僕も賛成だよ。さすがに怖くなってきたよ」


「なんだよお前達、そんなに行きたくないなら勝手に帰ればいいだろ!どっか行けよ!」


逆ギレ!?自分から連れて来ておいて、勝手に帰れと申すかお主は!


流石の小心者もブチッと切れましたぞ。


「分かったよ。ほら行こう」


物静かなショタを連れて元の道に戻る。


「え?あ、ぼ、僕も帰るね」


物静かなショタは律儀に言ってから僕を追いかける。


「どこにでも行けばいいだろ!!」


カーソン氏が大声を発する。


そんな事よりも、村に帰ってからの言い訳を考えねばと考えてたら、正面の草むらがカサカサと揺れる。


それは兎ですか?


「オン」


いいえ。それは狼でした。


「あ、あぁぁ」


物静かなショタはうめき声をあげる。


僕も汗が止まらないし、身体中がカタカタと震える。


でも体が動かない。まるで金縛りにあったようだ。


逃げれない。死んだ?


「俺様に任せろおぉぉ!」


背中からカーソン氏の声が。


「ば、やめ」


「うりゃあ!!くらえぇぇ!」


抜刀した剣を狼に振り下ろす。


やったか!


だが、狼はいとも簡単に躱す。


あかん。悪寒が体に走る。


「カーソン避けて!」


「あ?」


狼は剣を振り下ろし硬直するカーソン氏の腹に突進した。


「がぁ!」


「カーソン!」


ロリショタ達の悲鳴が森にこだまする。


吹き飛ぶカーソン氏。その場には勝者の狼だけが残る。


距離的には次に僕か物静かなショタが狙われる。


カーソン氏の勇気ある行動に僕も勇気を与えられた。


物静かなショタの前に立つ。


「僕が狼の気を引くから、みんなと一緒に逃げて」


「で、でも!」


「大丈夫だよ。カーソンと一緒に後で帰るから」


覚悟を決めました。


この子達と違って、僕は前世の記憶もある。


なら大人と言える僕が体を張らないでいつ張るのさ。


怖いし、死にたくないけど。


少なくとも、目の前で子供が食い殺されるよりは怖くない。


小心者は自分より人が傷つくほうが、お腹に悪いのだ。


狼はガルルと唸り今にも飛び込んできそうだ。


「早く行って!」


その場で素早く石を拾い狼に投げつけてから、ロリショタ達のいる方向とは真逆に走る。


お願い僕に付いてきて。


ゲームならヘイト溜めたプレイヤーに行くだろう?


「こ、こいよ!わんころ!」


後ろを振り向かず、挑発する。


「オン!」


狼の声が聴こえてきたと思ったら、足音が近づいてくる。


きた!あとは上手く時間を


「うっ!」


背中に凄まじい衝撃と痛みが。


前に体が吹き飛ぶ。


木の根がいたる所に生えてる地面に擦るように叩きつけられる。


「うっ…………あっ…………はあはあ」


身体中が痛い。


時間すら稼げなかった!


顔を上げて狼に向けると、今にも踵を返してロリショタ達に向かおうとしている。


もう僕は逃げられないと考えたのだろう。


だめです。許しません。お前は僕が止める。


動かす度にいたるところが痛いけど、今回が初めての体験じゃない。


前世の最期に体験済みだ。


経験は偉大。


体にムチを打って、立ち上がる。


狼に駆け寄ろうとしたら。


「この野郎!!」


吹き飛ばされたカーソン氏が狼に突進するではないか。


「カーソン!」


だが次の瞬間、狼が、カーソン氏の、脇腹を、噛み、ちぎって、………………


「ああああああああぁぁぁ!!!」


思考を放棄して、今すぐにでもあのクソ狼をぐちゃぐちゃにしてやりたい衝動に襲われる。


気がつけば狼に向かって走ってた。


それに気がついた狼は、今度は僕に噛み付こうと口を開ける。


今だ!


利き手の左腕を狼の口の中に突っ込む。


「ッ!?」


狼が悲鳴をあげる。


「離さないぞこのクソ狼!」


狼の頭部をしっかりホールドする。


でも僕の出来ることはここまでだ。


もう、どうしようもない。


力が抜けていく。


それを気合いやら気力を振り絞って堪える。


少しでもいい。みんなが助かる可能性があるのならば、神様、僕は貴方様に与えられた命をお返ししますから!どうか、どうかみんなをお助けてください!!


意識が遠のいていく。


もう限界のようだ。


ごめんママ様。


ごめんパパ様。


ごめんみんな。


もう終わりだ…………


ズシッ!


そんな音に薄れた意識が持ち堪える。


視線を向ければ狼の腹に1本の矢が刺さっていた。


「大丈夫か!?」


あ、猟師のおじちゃんだ。


た、助かった?


続けざまに矢を射て、狼の腹を真っ赤に染め上げる。


狼が悲鳴を上げようとしたが、僕の腕を口に含んでるので、掠れたような悲鳴しかでない。


眼前の飛んでくる矢は何とスリリングなんでしょうか。


当たらないよね?怖くなってきたよ。


「今すぐ助けてやる!」


そう言って、腰のナイフを抜き、狼の首元を抉るように刺す。


ビクンと反応した狼はそのままバタバタと暴れるけど、僕と猟師さんの2人がかりで押さえつける。


実際は猟師さん1人で押さえ込んでるようなものだけど。


しばらくしてようやく反応しなくなった狼に猟師さんが念の為に、ナイフを再度突き刺して死亡を確認。


ホッと一安心。


そう思ったのも束の間。


「カーソン!」


「死んちゃだめぇー!」


「嫌だ嫌だよぉ〜」


そうだ。カーソン氏!


体を再度ムチを打って立ち上がりカーソン氏と、それを囲むロリショタ達に駆け寄る。


カーソン氏の様態は最悪その一言だった。


脇腹が半分ほど噛みちぎられ、血が溢れている。


助からない。


そんな一言が浮かぶ。


「り、猟師さん!カーソンは助かるの!?」


僕は藁にもすがる思いで猟師さんに尋ねる。


「…………こいつは、ダメだ。今から村まで連れてっても間に合わねぇ。たとえ間に合ってもアレックの爺さんの回復魔法じゃ、治しきれねぇ」


沈痛な面持ちで拳を震わせる。


「ばかやろう!なぜ村から出た!あれほど出るなと言ったろが!!このバカ息子!」


カーソン氏のお父さんだったのか。


もしかしたら、カーソン氏が剣を取ったことに気づいて探しに来てたのかもしれない。


「…………ご、ごめん父ちゃん」


掠れた声でカーソン氏が謝る。


「くそっ!」


猟師さんはとめどない怒りに体を震わせる。


目からは涙が滲み出ていた。


みんなが諦めた。


カーソン氏の生を。


それはあまりにも非現実的で、それを他人事のように見つめる僕がいた。


え、嫌だ。


素直な感情が湧きてた。


感情がとぐろを巻き、今にも溢れそうだ。


真っ赤に染まった自分の左手を見つめれば、震えている。


助けなきゃ。


カーソン氏にあのような最期を味わせる訳にはいかない。


あれには無しかない。


孤独しかない。


感情が薄れ、死神の鎌が首筋を撫でる。


酷く不気味で心地よい。


魂の灯火が消える感覚。


あれに勝る恐怖を僕は知らない。


死というのは、言葉にすることすら出来ないほどの恐怖だ。


体験した僕だから分かる。


あれをカーソン氏に体験させるのは、絶対にダメだ。


震える手を握りしめる。


目を閉じて呼吸を整える。


呼びかけるのは、僕の最高のパートナー達。


(お願い!マナちゃん!雛ちゃん!力を貸して!)


『了解よ!』『任せてお兄ちゃん!』


力強い返事を貰い受けて、心が落ち着いていく。


「みんな少しどいて貰えるかな?」


泣きじゃくるロリショタ達に呼びかける。


「な、なにか助かる方法があるの?」


視線を向けた、物静かなショタが尋ねる。


「分からない。でも試したいことがあるんだ」


力強く視線を返す。


信じて欲しい。


「わ、分かった。カーソンをお願い!」


あいわかった。


頷き、彼と位置を交換する。


目の前で苦しむカーソン氏を前に僕は冷静だった。


絶対に救う。


その意思が僕の弱い心を覆う。


目を再び閉じる。


『旦那様。魔力は身体中に循環してるわよね?』


マナちゃんの声が聞こえる。


ああ。今も身体中に魔力を感じるよ。


『なら、今から試す方法はその逆。魔力を一点に集中させるの』


産まれてから1番長い付き合いだ。


その言葉を疑わないし、尋ねない。


彼女が言うのなら、僕は既に理解してる筈だから。


その可能性を。


赤ん坊の頃にしたように、意識を体の内側に向ける。


『ゆっくりと手のひらに集めるのよ』


深い海の中を潜っていく感じ。


重量に従いとこまでも沈んでいく。


深い深い暗闇の中、どこまでも沈んでいく。


意識が薄れていく。


でも、大丈夫。


彼女が手を引いてくれている。


導いてくれる。


僕の魔力(マナ)の深奥に。


身体中の魔力が手のひらに集中し始める。


暖かな光に手のひらが包まれている。


『よくやったわ。あとは任せたわね』


『あいさー!今度は雛の番だよ!』


ありがとうマナちゃん。


頼りにしてるぜ雛ちゃん。


『お兄ちゃん!よく見て!この人の体を!』


言われた通りにカーソン氏の体を見つめる。


『思い出して!イメージして!この人の本来の姿を!』


脳裏にカーソン氏の元気な姿が思い浮かぶ。


『お兄ちゃんが望めばその通りに治る筈だよ!』


もっと色んな理由があるのだろうけど、それをコンパクトかつ分かりやすくしてくれてる雛ちゃんには感謝しかない。


『回復魔法は、"再生"と"創造"』


再生だけでは、完全に失ったものを形作れない。


だからこその"創造"。


失ったものを創造し、再生で形を取り戻す。


イメージする。


カーソン氏の傷一つない体を。


光を帯びた手をカーソン氏の脇腹へとかざす。


「すぅーふぅー」


深呼吸して、イメージを明確にする。


『今だよ!』


雛ちゃんの合図で、回復魔法を、生まれて初めて行使した魔法を使う。


「『小回復(ライトヒール)』!!」


『『過大深化(オーバーアップグレード)!!』』


凄まじい光の放流が周囲に溢れる。


時が巻き戻るように、逆再生のように、カーソン氏の脇腹が再生していく。


同時に魔力が秒で消えていく。


「間に合えぇぇ!!」


魔力がゼロになり、意識が遠のいていく中で、カーソン氏の脇腹は完全に治っていた。


ああ。良かった。


僕は意識を手放した。


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