66話 探しに行く!
「探しに行く」
僕は立ち上がり護衛の二人とシリカに言う。
「神子様……なりません」
ロイドが僕の目の前に立ち塞がる。
全身星空を彷彿させる鎧を身にまとい、左手に持ったタワーシールドが遺憾無く存在感を発する。
「……何故です?」
分かりきったことを僕は尋ねた。
「隊長殿達は強い。……そんな隊長殿達が敗したような存在がいる可能性がある場所に貴方を向かわせるわけにはいかない」
「……ロイド。神子として命令です。……退きなさい」
僕の行動はわがままそのものだ。そんな事は僕が一番理解している。
でも、理性で分かっていても、感情はどうにもならない。
「従えません」
「僕は……私は神子ですよ? 命令に従えないというのですか?」
言っていて、胸が痛む。罪悪感に蝕まれる。
「従えません」
「神子様。自分も従えないっす」
「キントもですか」
頭を掻きながら、ロイドの隣りに立ち並ぶ。
「自分は神子様も守る為に、ここに居るっす。……隊長達に託されたっす。たから引けないっすよ」
「……」
ロイドは頑なまでに否定し、キントは諭すように。
二人は今まで一度も僕の命令に従わないことは無かった。というよりも、僕は命令した事など無かったとも言える。
でも、命令すれば、一番に従う二人だと思っていた。
どうやら僕は彼らのことを何も分かっていなかったようだ。
でも、それは彼らも同じ。僕のことを分かっていない。
「ならば力ずくで行かせてもらいます」
彼らも引けない理由がある。僕にも、行く理由がある。
だから……ごめん。
胸の内で謝る。
魔力で構築した両手で二人の動きを封じる。
「……っ!?」
「な、なんすか? これ!?」
二人が魔力を視認出来ないことは知っている。
不可視の魔力の手を見ることは叶わない。
身動き取れない二人の間を抜けていく。
「ごめんなさい。でも、必ずみんなを連れて帰ってくるよ」
「ぐっうぅぅ!! 待ってくれぇ!!」
「ダメっすよ!! 神子様ぁー!!」
二人の実力ならもうすぐ脱出出来るだろう。
急がないと。
扉に向かって歩く僕に予想外の衝撃が背中から襲った。
「……っ! シリカ?」
「行っちゃダメですぅ」
シリカが背後から僕を抱きしめてきた。彼女の顔は涙でグチャグチャになっていた。
「いやですぅ。みこさまぁ。レインさまぁ。行っちゃいやですぅ」
泣き腫らした目元は真っ赤に腫れ上がっていた。
彼女はいつから泣いていた? 僕はいつから泣かせていた?
僕は彼女に一切気を配っていなかった。
僕は見た目相応の精神をしていない。転生者だ。
でも、彼女は見た目通りの小さな女の子でしかない。
僕なんかと比べられないほど、不安で怖くて仕方なかった筈だ。
僕はバカか? いや、バカだ。
目先に居る人にすら気づけないなんて……。
「神子様……」
「頼むっす。考え直して欲しいっす」
拘束が解けた二人にも目を向ける。
……ああ。僕はようやくそこで初めて二人の顔を見た。
カルスは怒りや悲しみを押し殺して無表情を貫こうとしている。でも、拳は震えるほどに握り締められていた。
キントは逆に表情を一切隠していない。すぐにでも泣きましてしまいそうなほどだ。
二人とて探しに行きたいに決まっている。
誰が好き好んで、仲間を大切な人達を見殺しにしたいものか。
僕は本当に大馬鹿者だ。
深呼吸する。
背中から抱きしめたシリカを今度は正面に向いて、胸に抱き留める。
「レインしゃま?」
「なんだ。噛まずに喋れるじゃんか」
若干噛んでるけど、誤差の範囲ないだ。
彼女の頭を撫でる。
「カルス、キント……ごめん。それでも僕は行くよ」
「……っ」
「っすか」
やはりと二人はとこか諦めた表情を浮かべた。
「そこで一つ頼みたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「まさか、シリカ様を連れて逃げろとは言わないっすよね?」
「違うよ。……僕を護って」
「なに?」
「うえ!?」
二人が驚きを示す。
「カルスは僕の盾でしょう? なら、みんなを探す僕の邪魔をする敵から護ってよ。キントはタフなんでしょう? なら、僕と一緒にみんなを探し回るの手伝ってよ」
これが正解なんだとようやく理解した。
二人はすぐに跪く。
「「はっ!」」
その顔には覚悟があった。それで十分。
「シリカ」
「はぃぃ」
「お留守番してくれる」
「かならず……かならずっ! 帰って来てくださいっ!!」
「もちろん」
シリカを離す。泣き腫れた目元を指で払う。
「みんな一緒に必ず戻ってくるよ」
シリカを村長に託し、僕はカルスとキントと共に森に踏み込んだ。




