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64話 働かないエルフ

セカンの町を後にし、サンド町、小さな村、フォードの町と順番に巡り、僕の小さな旅は終盤へと差し掛かっていた。


「次の村で最後ですね」


同じ馬車に乗るスーニャがにこやかな表情を浮かべて話しかけてきた。何だかんだ言っても、護衛として異変が起きないか神経を尖らせていたのだろう。いつもより声が弾んでいた。


「気を抜くのは……はやい」


同じく馬車に乗っていたドロシーが窓の外をじっと見て返答する。

その一言で気を緩めていたスーニャが顔を引き締める。


「そうです、ね……少し弛んでいました。申し訳ありません、主様」


頭を下げて正面に座る僕に謝罪をする。

謝罪する程の事とは思えないけど、彼女のプライドが許さないのだろう。謝罪は受け入れる。


「うん。スーニャがいつも頑張ってくれているのは知っているから、あんまり気負わないでね? いつもありがとうね」

「も、勿体なきお言葉! ……うへへ」


凛々しい表情が直ぐに崩れる。褒めたり感謝するといつも嬉しそうにするから、気恥しいったらありゃしない。


「……」


横に座るドロシーから無言の圧を感じた。

私も護衛頑張ってるけど? と言っているように感じた。

僕は慌てて彼女にも感謝の気持ちを伝える。


「も、もちろん。ドロシーもいつもありがとうねっ!」

「……言葉だけ?」

「え?」


お望み通り感謝したのに、不満そうにしてる。

ど、どうしようと動揺していると頭を僕に向けて差し出した。サラサラした青い髪が揺れる。

撫でろ……と?

恐る恐る頭を撫でてみる。


「ん」


正解らしい。

良かった〜。間違ってたら刺されてたかも……。

セカンの町以来、こうやってドロシーは甘えてくることが増えた。

だけどあんまり言葉にして伝えないから、気付かないこともあり、そういう時はヤンデレぽくなりかなり怖い。


「むぅ〜ドロシーばかりずるいですぅー。私も〜!」


羨ましいのか、スーニャまで僕に頭を差し出した。ドロシーはまだ僕と大して歳が離れてないから、いいけど。

スーニャは高校生、もしくは大学生の年齢に見えるから、頭を撫でるのは流石に躊躇してしまう。


「……な、撫で、られ、ない? そんな……」


固まっていた僕に勘違いしたスーニャが絶望した! と言わんばかりに目のハイライトを消す。


「主様に嫌われた主様に嫌われた主様に嫌われた主様に嫌われた主様に嫌われた主様に嫌われた主様に嫌われた主様に嫌われた主様に嫌われた主様に嫌われた主様に嫌われた」


怖い怖い!

最近、スーニャのヤンデレ具合も凄いことになっている!


「ち、違うよ!? スーニャがあまりにも美人だから撫でていいのかな〜って、戸惑ってただけだから! 嫌ってないから! むしろ……」

「むしろ?」

「す、す……」

「す〜?」


気持ちを言葉にする事に恥じらいを覚える僕に、ニヤニヤしたスーニャが追い討ちをかける。

……? ニヤニヤと?

僕はさっきまでヤンデレになっていたスーニャに視線を向ければ、そこにはニヤニヤして、楽しそうにしているエルフの姿が。


「? どうしましたか? すの次はなんです? 主様〜」

「すみません、嫌いです、の、す」

「へ?」


僕の言葉に素っ頓狂な声を上げる。

人が心配したら直ぐに調子に乗るんだから。


「ちゃんと護衛してくれない、スーニャなんか、嫌いです」

「そんにゃ!?」


君、猫族じゃないでしょうが。


「そ、そんなこと言ったらドロシーだって!」

「500メートル先に、ゴブリン。キントが迎撃に向かった」

「ほら。ドロシーはちゃんと護衛してる」

「いつの間に!?」

「スーニャ」

「な、なんです?」

「働け」

「ぐふっ!」

「ふぁ!? な、なななんでしゅっか!?」


ドロシーの容赦ない一言にスーニャが倒れ込んだ。

倒れ込んだ先で、よだれを垂らして居眠りしていたシリカにぶつかり、シリカが慌てて飛び上がった。

さて、もうすぐ最後の村に着く。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小心者具合がいい感じかな [気になる点] スーニャは騎士にならずに愛人にでもなれば展開がグダグダにならないのにと思う。
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