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63話 セカの町9

「主様? ……その頬の腫れは、どうしたのですか?」


部屋から出てきた僕とドロシーをスーニャが迎えてくれる。


僕の頬には立派な紅葉が出来ていた。


「あはは。自業自得だから気にしないで」


頬をさする。少し痛むが頼んだ対価だと思えば軽すぎぐらいだ。プラスに考えれば、あの勘違いのお陰でアダルティな雰囲気がぶち壊れたのだから、まあ結果オーライだね。


「ドロシー? 何があったのですか?」


僕じゃあ、聞き出せないと踏んだのかドロシーに対象を変えて問いかける。


「……内緒」


「な、内緒!? ……ま、まさかっ!? う、嘘……私じゃなくてドロシーがさ、先?」


「……違う」


「違うって……?」


「言えないけど、違うから……」


「そ、そう……ならいいのですが」


ドロシーが最低限の会話で何とか誤解は解けたようだ。僕は安堵する。自分で説明するにはかなりしんどいからね。


「スーニャ。お願いがあるんだ」


「はい! 何なりと! 添い寝ですか?」


何なりと言っておいて、添い寝一択はおかしいでしょや。


「それは……また今度。シスターの人達を大きな部屋に集めてほしんだ」


「……畏まりました。ドロシー、護衛は頼みましたよ」


「……ん。死んでも護る」


「……っ。そう、そうなんですね。受け入れられたのですね……おめでとう」


「……ありがと。スーニャお陰」


「うふふ。なら、良かった」


二人にしか分からないような会話をして、スーニャが去っていく。


「本当に仲良くなったんだね」


僕は嬉しくなってそのような言葉を言う。


ドロシーは頷く。


「……一番の親友」


「そっか……そっかぁ!」


その一言で泣きそうになった。彼女もちゃんと成長してるんだって思ったら。


つい、誤魔化すように茶化す。


「なら僕は二番目以降かぁ〜残念」


「違う。……神子は一番大事な人……だから」


「……」


墓穴掘ったぁーー!!!


なにこれ!? すっごい嬉し恥ずかしい!!


でも、僕も言われたからには何か言わないと。無言なのは失礼だし、彼女を傷付ける行為だ。


「ありがとう、その……僕も、ドロシーはすごく大切な存在だよ」


「……うん。うれしい」


ドロシーがはにかむ。本当に表情豊かになった。そして、可愛いすぎる!!


これ以上は、僕が持たないと察して、急いで大部屋になるところに早歩きで向かう。


大体、女性と付き合ったことも無い童貞野郎が耐えられる雰囲気では無い。





大部屋の中心で精神を落ち着かせる。これからすることはかなりの精神力が必要だ。みんなの負担も大きくなる。


僕のわがままでやるんだから、僕が一番頑張らなければ!


コンコンと扉をノックする音が。


「スーニャです。連れて参りました」


「すっ〜……どうぞ」


「失礼します」


スーニャが扉を開けて、中に入った後に、シスターさん達もゾロゾロ入ってくる。


治したあと、療養して貰うために休みを出しただめ会うのは治した時以来になる。


今なら、分かるけど、彼女達はかなり痩せていたんだ。今は、健康的な体つきになってる気がする。顔の血行も良さそうだ。


そんな彼女達は僕に呼ばれた理由が分からず困惑気味。中には不安そうな表情を浮かべる人も居る。


みんなが入ると、スーニャが扉を閉めて、壁際で待機してたドロシーの横に移動する。


部屋の中心の僕と、少し距離を空けて並ぶシスターさん達。


僕は意を決して言葉を発する。


「お集まり頂きありがとうございます」


頭も一つ下げたい所だけど、立場的に簡単に下げるわけにはいかない。


「いえ……神子様のお陰で私たちは救われました。神子様がお望みなら私たちはどんな事でも従います」


全員が深々と頭を下げる。反射的に僕も下げかけるという罠。ぐっと堪える。


「それで……本日はどのような?」


続いて、同じシスター……僕の町案内をした人が尋ねる。多分リーダー格なのだろう。


「はい……実は皆さんを治す過程で、一つ治し忘れたところがあるのです」


「え? わ、忘れたところですか? で、でも、私たちは皆、完治されておりますよ?」


彼女が他のシスターに視線を向けるも、皆、怪我の跡は無いと言うばかり。


「ええ。普通の怪我は完全に治しました……治していないのは……皆さんが不当に奪われた……純潔です」


「「「……っ!」」」


シスターさん達だけでなく、スーニャも驚く。逆にドロシーは事情を知っている貯め、表情を変えない。まあ、例え驚いても表情を変えなかっただろうけど。


「そ、それは……で、ですが、聞いたことかがありません! 純潔を取り戻す魔法など……」


ありえないと首を横に振る。中には、思い出したのか震える人も居る。


やっぱり、終わってなかった。


彼女達を本当に救いたいのなら、全てを取り戻さなければいけない。そうしなければ、彼女達は先には進めない。


「恐らくは私だけが使えるものです……『神能(ディア)』の能力だと思ってください」


「『神能(ディア)』……分かりました」


その一言で理解を示してくれた。やはり、神の力は別格扱いだ。


「ですが、強制はしません……これは皆さんの将来に関することですので」


中には、もう結婚や男性そのものに拒絶反応がある人も居るかもしれない。


「ですので、少し時間を与えます。その間に答えを出していただければ……では、席を外します」


彼女達の横を通り抜け、部屋から出ていこうとすると呼び止められた。


「待って! 待ってください! 私たちは既に答えを出しております! ……受けさせてください! ……どうか……どうか……私たちの大切なものを……純潔を取り戻してください」


縋るように涙を流しながら懇願する。他の人達も同じように涙を流す。


「……分かりました。それでは、円を描くように座ってもらえますか?」


僕の了承に頷き、輪になるように座る。


僕は再度、中心に向かいそこに立ち、彼女達を見渡す。


ああ、そうだ、言っておかないと。


「スー、ドロシー。……これから僕に何があっても近付かないで……大丈夫だから」


「え? ……あ、主様?」


「……聞いてない! 神子、危険なことするの!?」


スーニャが動揺して、ドロシーは怒ったような表情を浮かべる。本当に表情豊かだ。


「ごめん……でも、どうしても救いたいんだ。だから、無茶はする……でも、信じて。僕は大丈夫だから」


二人の目を見詰めて、言う。


「……ああ。ずるいです。私を救ったときと同じ目をしています……終わったら、うんと甘えますからねっ!!」


スーニャが泣きそうになりながらも了承する。


「神子に何かあったら、私も後を追うから」


ドロシーが目のハイライトを消して、ボソリと言う。


「う、うん……死にはしないから……」


せ、背筋が凍るぜぇ〜。


「あ、あの神子様? そんなに危ないのなら……私たちごときの為に無茶は……」


「してないよ。というより、これは僕のわがままだから。……だから、お願い。僕の為に救われて?」


「……っ!?」


何か言う前に、集中状態にうつる。


「すぅ〜はぁ〜……『範囲回復(エリアヒール)』…………『運命改変(モイラ・シフト)』」


触媒となる魔法を発動させる。魔法陣が彼女達を取り込むほどの大きさになって、案内する。


そして、『運命改変(モイラ・シフト)』を発動させる。


僕の魂と彼女達の魂が繋がる。


「……ぐっ」


……激痛が走る。


彼女達の記憶の中から、裸の姿を読み取り、そしてドロシーから得た情報をそれぞれ一人づつに最適化させた状態で上書きする。


当然、マナ達フル動員での作業だ。


『魂を傷付けないようにすると、身体の方の負担が大きくなるのね……っ!』


『お兄ちゃんっ! 無理しないで!』


「まだ……大丈夫……っ!」


一人目……上書き完了。


二人目……上書き……完了!


三人目……上書き……完了……っ!?


「ガハッ……!」


口から抑えきれず血の塊を吐き出す。


「主様ぁ!? ……もう! やめてください!! 死んでしまいますっ!!」


「神子っ!」


僕は辛うじて手を上げて近づこうとする二人を止める。


喉から血の塊が出たばかりだからか、声が出ない。


続いて……四人目……!


五人目…………六人目………………七人目!


「……っ!? …………ぁ……っ!!」


声にもならない痛みが身体を蝕む。


全身を刃物で敷き詰められたアイアン・メイデンの中にぶち込まれて、そのまま握る潰されるようなぐちゃぐちゃな痛み。


でも……あと、一人なんだ……もう、一人なんだ……っ!


地面に伏して、視界も霞、周りの声も全く聴こえない。


瀕死ってやつなのだろうなぁ。妙に落ち着いた思考で現状を把握する。


最後の一人……案内役のシスターさんの上書きを完了させる。


同時に身体中から血が吹き出した。


頭の奥からすっーと、血が抜けた感覚を感じつつ意識が遠のいた。





目が覚めた後、めちゃくちゃ怒られてめちゃくちゃ心配されて、めちゃくちゃ抱き締められた。


因みに身体には傷一つない。


気を失った直後に、黄金の光に包まれて傷一つ残らず治ったそうな。


そう、雛が治してくれたおかげだ。


みんなには、気を失う前に、『神の秘跡(サクラメント)』を発動させてたんだと言い訳してた。


シスターさん達にも会ったが、無事に大切なものが取り戻せたようだ。良かった。流石に見て確認出来ないからね!


数日ほど療養する間にネーティは聖都にれんこうされて、惜しまれつつもセカの町とお別れをした。

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