62話 セカの町8
「その、ドロシー。いいかな? 少し二人きりで頼みたいことがあるんだ」
お昼のご飯時にドロシーに話しかける。
「……分かった」
「主様? 他に問題でも発生したのですか?」
スーニャが眉をひそめて尋ねてくる。恐らく、ネーティの一件みたいのを考えているのだろう。
「違うよ。少し個別に頼みたいこと。そんなに時間もかからないから安心して」
「……? かしこまりました」
僕の様子がおかしいことに気が付いたのだろう。それでも、了承してくれる。ありがたいけど、マナ達の会話での、スーニャに頼んだ時のことを思い出すと直視出来ない。
……押し倒されるって……そんなこと。
僕からしたら、スーニャは僕に依存に近い感情を持っていても、そんな恋愛感情は無いと思う。だから、押し倒されるようなことは無いと思うんだけどなぁ。
まあ、今回の件は、スーニャよりドロシーの方が比較的頼みやすいのは確かだ。
スーニャに押し倒されるようなことが無くても、からかわれるネタにされそうだし。
食事の味が少し分からなくなるほどの緊張が押し寄せてくるけど、何とか完食する。
*
食後、早速ドロシーと二人きりで寝室に入る。
……やばい。心臓の高鳴りがやばい。
今から言う一言で改善されてきたドロシーとの関係が崩壊するかもしれない。そんな恐怖に足がすくみ、喉がカラカラになる。
「……神子? 具合悪い? 寝る?」
さっと、僕の傍に寄り添い、腰に手を回す。
「……っ。だ、大丈夫だよっ!」
数センチ先に居るドロシーにドキマギすしてします。
……ドロシーって、こんなに可愛いかったっけ?
つい、マジマジとドロシーの顔を見てしまう。
整った顔立ちに、深い青色のセミロングの髪に、真っ白でビックリするぐらい傷のない肌に、柔らかそうなほっぺた。
気が付いたら、僕はドロシーに見蕩れていた。
「……? どうして見てくるの?」
首を傾げる仕草すら可愛い。
だから、だからこそ。
……言い出しずらい……っ!
「私に頼み事? あるんでしょう? 私、神子の為なら……何でもする……よ?」
目を正面から見詰めてくる。吸い込まれそうだ。
でも、そうだよね……ここでしりぼみしてたら、誰も救えない!
僕はドロシーの両肩を掴む。
「ドロシー! お願いがありますっ!!」
「うん……分かった」
ドロシーが頷く。
僕も意を決して口を開く。
「き、キミの処女を僕にください!」
言った! 言ってしまった! ……あれ? なんか言い間違えた?
確か、僕はちゃんと処女膜を見せてくださいって言った……よね?
「……私でいいの? スーニャじゃなくて?」
「へ? あ、うん! ドロシーがいい! ドロシーじゃなかったら嫌なんだ!」
もう、よく分からない! テンパリ過ぎて、自分が何を言ったら分からない。
「……分かった。神子が望むなら……」
そう言って、ドロシーが服を脱ぐ。
するすると星騎士の制服が脱がれていく。
あっという間に下着姿になる。
見蕩れるほどに、綺麗だった。
「私、そういう方面の教育は受けてない。そういうのは、第二席の『悪女』の担当だったから……」
「そ、そうなんだ」
見蕩れて、ほとんど聞いてなかったから、空返事だ。
「上手く出来る自信はない……でも、嬉しい……と思う。あなたに求められて」
その時、普段、表情一つ変えなかったら、ドロシーが頬を少し赤く染めた微笑んだ気がした。
あまりにも可愛い笑顔だった。
「ドロシー。すごく可愛いよ」
「……あぅ……」
僕の言葉に顔を横に逸らす。耳が真っ赤になっていた。
今まで一度も見たことの無いドロシーに心がときめく。
でも、おかしいな? 何故上まで脱いたんだろう?
ドロシーはガーターベルト着用のスカートだから上を脱ぐ必要は無いのに……。
「……神子の好きにして」
そう言って、目を瞑るドロシーに対して違和感。
「ド、ドロシーさん?」
「……な、なに?」
恥ずかしいのか、珍しく声が震えている。可愛い。
「えーっと、僕。君になんて言ったっけ?」
「……ん? ……処女をくださいって言った……よ?」
ああああああああぁぁぁーーーー!!!
やっちまった! 言い間違えたぁーー!!
「で、ドロシーさんはOKをくれたの?」
ついさん付けしてしまう。
「……うん。でも、もっと先の話になるって、スーニャが言ってた。神子はまだ幼いから求められるのはあと数年後になるって」
スーニャさん!? 何でそんなことドロシーさんと話し合っていらっしゃるのかなー?
そんな生々しいことを話し合っていたのか。
「でも、それでもドロシーは応えてくれるってことだよね?」
「……うん。私は、スーニャと同じく神子に全てを捧げているから」
「全てって、でも僕は言ったよ? ドロシーが自分の生き方を見つけられたなら、好きに生きても良いって」
ドロシーとの面接の時に言ったことだ。彼女は自分で決めて行動出来ないと言ったから、世間のことを知り、自分で考えて行動出来るようになったなら、好きに生きてもいい。星騎士を辞めてもいいって伝えてあったのに。
「……だから決めた」
ドロシーが深く頷く。そして顔を上げた彼女は僕をじっと見詰める。
「私はあなたの為に生きたい。あなたの影で在りたい……だめ、かな?」
不安そうに揺れる瞳に彼女の決意がどれほど本気か察する。
……本気で、僕に。
すごく嬉しかった。こんな僕でも、誰かにこんなふうに思われることが堪らず嬉しいかった。
「ありがとう……すごく嬉しいよ! これからも僕の傍に居てね、ドロシー」
僕は握手を求めて手を差し出す。
「うん。……ずっと傍にいる」
僕の手を両手で包み込む。
その時のドロシーの表情を僕は生涯忘れないだろう。
それほどまでに、魅力的で最高な笑顔だった。
……
…………
………………あれぇ? 何か忘れてない?
あっ……本題忘れてるし、誤解されたままだ。
「ドロシー!」
「うん。いいよ……きて」
両手を広げて微笑むドロシーに一瞬誘惑に負けそうになりつつも、踏みとどまり、その場で土下座に移行する。
「ま、誠に申し訳ございませんでしたーーーっ!!!」
「……へ?」
固まるドロシーに懇切丁寧に誤解だということと、目的を告げる。
ははは……マジギレしたドロシーさんマジ怖かった。顔を真っ赤にしてたのは可愛いけどね!
封印してた暗殺技をフルに使うのやめて? 死んきゃうから!




