61話 セカの町7
「そもそも『運命改変』は負担は非常に大きいわね……でも、それはスーニャの確定した死を改変したからの代償で、今回のような命に絡まなければ、恐らく魔力だけで済むと思うわ。でも、八人ともなるとかなりの負担になるわね。一人づつと言いたいけど、時間もそんなにないでしょう? だったら今後の為にも、今回はご主人様に無理をしてもらっててもデータを取った方が、今後の指針にもなると思うわ」
「むぅ〜雛もあのお姉ちゃんたちを助けてあげたいよ? でも、お兄ちゃんが無理するのは複雑だよぉー」
回復の精霊故に基本的に、手助けには積極的な雛だけど、僕が絡むことはかなりシビアになる。それぐらい、大事に思われていることが嬉しい。
「大丈夫だよ。それに僕がもし無理をして、少し倒れてもみんなが助けてくれるでしょう?」
「当たり前よ」
「もちろんだよ!」
「添い寝しますねっ!」
「バーカ! 倒れないようにしなさいよ!」
澪のごもっともな意見に苦笑する。
それとライアさん? それは助ける行為に入るのです?
「そういう訳だから、今回は少しの我慢よ、雛」
「うん。分かったっ!」
握りこぶしを作ってメラメラと気合いを入れる雛。
「まあ、一番の問題は別のことなのだけど」
「ん? なんか問題あるの?」
後は、『運命改変』がどれほどの負担を強いるぐらいじゃないの?
「ご主人様……忘れたの? 『運命改変』をスーニャに使った時は、あなたの魂とスーニャの魂を接続して、彼女の記憶から彼女の姿を引っ張り出すことで、完全な再生をさせたのよ? 『運命改変』はあくまでご主人様の望む結果に改変する能力なの。それは言い換えれば、ご主人様がイメージ出来ない結果には改変出来ない」
「へぇ〜そうだったんだ」
僕は素直に感心する。みんなのサポートあっての能力だったから、そこまで詳しくは知らなかった。
「で? 問題は何なの?」
ならシスターの人達が純潔を持った状態にするだけじゃないの?
「ご主人様は、女性器を見た事あるの?」
「えっ……? …………!?」
マナの言葉にパニックになる。じ、女性器って……!
「どういうことなんですかっ?」
パニくる僕の代わりにライアが質問してくれる。
「簡単よ。望む結果に改変するには、確たるイメージを持たなければならないの。そして、ご主人様は見たことがあってもモザイク付きよ? 彼女達の女性器を常時モザイク付きにしたいの?」
「あ〜なるほどです」
「生々しすぎるよ!? それに、も、モザイクって、僕のどんな記憶引き継いてるの!?」
僕は叫びながら問いただす。
「私はモザイクの動画……あ、リアルの」
「雛はね! 絵の女の子達だよ!」
「私は、薄い本や電子書籍ですっ! ……すっごい濃いやつでした」
「わ、私は……妄想? かな」
「わーーっ! もうやめてぇーーっ!? 僕のライフはマイナスのカンストだよぉ!?」
史上最高のダメージを食らう。
「ほらそんな茶番してないの。これはかなり深刻なことよ? ……このまま『運命改変』を使ったら、モザイクは言い過ぎでも、穴すらないマネキンみたいになる可能性があるのよ?」
マナの言葉に背筋が凍る。僕がイメージ出来なかったばかりにシスターの人達が更に最悪なことになると理解する。
「問題はわかったよ……でもどうすればいいの?」
本当にどうしよう。
「ご主人様がイメージだけで、完璧な形を思い描けるのならいいのだけど、確実性は間違いなく失われるわね」
「それは……却下で」
そこまで人間辞めたレベルの妄想は出来ません。
「なら、一番確実で危険もない方法があるわ」
「ど、どんな?」
それを最初に提案しないということは、難易度が高いのだろう。
マナが困ったように言う。
「純潔を……処女膜がある女の子にその形をじっくりと観察させてもらう」
「な……っ!」
一瞬何を言われたのか理解出来ず、そして理解して思わず叫ぶ。
「僕に死ねとっ!?」
「死なないわよ。残念ながらその役割は、あなたから生まれた私たちでは担えないわね。……マネキン仕様だから」
マナが遠い目をする。それに伴い他の三人も悲しそうな表情を浮かべる。
それはつまり彼女達は女性の……大事な部分を僕が見たことが無いことが災いして再現されなかったということだ。
……僕も考える。自分の体の一部が普通の人と違ったらどんな気持ちを抱くのか……チクリと胸が痛む。劣等感のようなものを感じた。お前は普通では無いと突きつけられているような感覚だ。
僕は彼女達を同じ人間のように思っている。……でも、彼女達は自分を人間に思えない、思えきれないのだ。普通の女の子に備わっている部分を備えてないが故に。
あーーっ! クソっ! 結局、一番大切な人達の悩みすら僕は察してあげることが出来なかったじゃないか!!
このバカ! アホ! 自分をいくら罵ってもこの悔しさと後悔と怒りが収まらない。
「みんな……今まで気づいてあげられなくてごめん!! 覚悟を決めたよ……僕はたとえ変態と罵られても、必ず、処女膜を……女性器をみんなに与える! 約束だ!」
僕は決意する。もう、彼女達にこんな顔をしないようにと。
僕の言葉にみんなが驚いた後、吹き出す。
「う、うふふ。うふふふっ。 あはははっ」
いつも上品な笑い方をするマナが口を開けて笑う。
「きゃはははーお兄ちゃんっ! おもしろーいっ!」
雛が無邪気に笑う。面白い?
「いひっ! いひひひひっ! いひひひひひひっ!」
ライアが壊れた!? なんか怖い笑い方なんですけど!?
「うっ……うふっ……ぷふふっ……もうっ……ダメっ! ぷふふーっ! なにそれーおかしーっ!」
堪えてた澪がとうとう吹き出してしまう。
「みんな!? 僕は本気だよっ!? 笑い事じゃないよっ!?」
何故笑うの? だってさっき凄い深刻そうな顔を浮かべてたじゃん。
「だっ、だって、ご主人様が……キリッとした顔をして、言葉にするのすら躊躇われるような事を言うんですもの……あはっ! あはははっ!」
「女性器をみんなに与える! ……キリッ!」
「きょっ……! 雛ちゃん!? 笑わせないでよ!」
「みんなの処女膜は僕のものだ……キリッ!」
「ライアさん!? そんなこと一言も言ってないよ!? 」
「それはライアの願望じゃないの……うふふ」
「マナさん!? 笑いすぎでは!?」
カオスだ。カオスになっている。
「みんな!! いい加減に笑いやめぇーーーっ!!!」
*
「さてと、ご主人様が燃え尽きているけど、話を続けましょうか?」
それからしばらく、笑いの種にされて身悶えた。
「マナちゃん。どうするのー?」
「どうするも何もお願いしたら余裕で見せてくれる人が傍にいるじゃない」
その人物……心当たりがあります。
「スーニャさんのことですねっ! 彼女もかなりの……うひひ」
ライアさん? その笑い方気に入ったんです? 女の子としてその笑い方はどうかと……。
「あーでも、見せるだけで済むの? 私からしたら済まなそーうな気がするんだよね〜」
澪の疑問に全面的に肯定します。
「そうですねっ! 私もマスターにまた開け! と命令されたら……はぁはぁ」
「発情メイドは置いといて、確かにあの子に頼んだら間違いなく、求められている建前だと思って、襲い掛かるわね……」
断言するマナに僕は、ゴクリと固唾を飲む。
「でも、そうしたら、他に誰が……あ」
澪が何かに気が付く。
その様子に雛も閃いたように言う。
「ドロシーちゃんっ!」
「正解よ。彼女なら一切他言しないでしょうし、ご主人様の命令は全て疑問も持たずに実行するでしょうね……問題なのは、膜があるかどうかよ、あの子かなり過酷な経験をしてきたもの。その際に……って、可能性もあるわ」
マナは言葉を濁したけど、何となくイメージが出来た。昔見た映画でも、ハニートラップで男性と行為をしてる最中に殺してしまうみたいなシーンはあった。
暗殺者として育てられたドロシーもハニートラップをするような任務、もしくは訓練を受けていたのかもしれない。
……チクリと胸の奥が痛む。
「雛。ドロシーの純潔が無事か分かるかしら?」
「ごめんなさーい。雛ね、見たこと無いと探知出来ないの……」
「そう、そうよね。もし分かるなら、既にこの件は解決してるようなものよね……気にしないでちょうだい」
「うん……でも一度全身じっくり見たら今度から女の子の完全スキャンができるよ! 男の子はお兄ちゃんので把握してるから」
さりげ、僕の全裸を把握済みの幼女。
「なんですかそれっ! 雛ちゃんズルいですっ!」
「えへん! 雛だけの特権だもーん!」
「むむむ〜っ!」
「ほらほら、ご主人様がまた、顔を真っ赤にしてるじゃない……辞めてあげなさい」
「はーい!」
「うっ……分かりましたっ。……雛ちゃん、後で少しお伺いしたことがあります」
ライアが後半ボソリとなんか言ったが聞こえなかった。
そこで僕は、思い出した。
「そ、そうだ! 『運命改変』は僕の魂と相手の魂を接続すれば相手の記憶も使えるんだよねっ! なら、シスターさん達の記憶から女性器を写取れば……っ!」
閃いてる! 僕、閃いてるよ!
だけど、マナが僕を残念そうに見詰める。
「な、なに? 割と完璧だと思う……んだけど」
「ご主人様は、自分の男性器を隅々まで見た事あるのかしら?」
「え? ……無いけど? ……あっ」
そ、そういうことかーっ!
「そういうことよ。前世ならともかく、この世界では鏡は高価なものよ? 自分の性器をしっかり見て把握している人などそうそう居ないわよ……もし居るとしたら純潔を奪った人間ぐらいじゃないかしら」
「純潔を奪った……人……ダメだ」
「ええ。私もご主人様をあのクズに近づいて欲しくないわ」
ネーティ司祭……いや、元司祭だった。
ネーティのクズ虫のシスターさん達の純潔を奪ったシーンなど見たくない。間違いなく、その場でヤツを殺してしまう。
殺せる殺せないじゃない。殺してしまうだ。その力を僕は持っている。
「どの道、ドロシーにお願いして見てもらっうのが一番安全ね。……雛、どの程度で記録出来るかしら?」
「うーんとね〜、隅々まで見ても……10分ぐらい! あ、あと、ちゃんと奥まで確認しないと完璧に把握出来ないよ!」
「だ、そうよご主人様」
「お、奥の隅々まで?」
「ええ。奥の隅々まで」
「……マジ?」
「大マジよ」
「そ、そう……」
決心した以上は、成し遂げなければならない。
たとえ、この一件により、ドロシーに軽蔑されようとも。シスターさん達の幸せの為に、うちの子達の為にも、避けては通れないと僕は確信した。




