56話 セカの町2
目を覚ました僕は、呼びに来たシスターを見て、一瞬心が描き乱れる。
案内に従い、ネーティ司祭の居る所に移動する。
部屋に入り、ネーティ司祭を見て、激情のあまり、殴り飛ばすのではと思ったけど、思った以上に僕は冷静でいられた。
怒りが無くなった訳では無い。ただ、怒りのあまりに感情が麻痺してるだけだ。
ネーティ司祭に話しかけられ、食事を楽しむ振りをする。上手く笑えているのか分からない。食べ物の味も好きな紅茶の味も何も感じない。
見繕った仮面を顔に貼り付けて、その場をやりきる。
*
「どうしたのですか? 主様」
部屋に戻り、扉の護衛にカルスとキントを残して、他の五人とシリカが部屋に集まる。
「そうだね。取り敢えず話すよ」
みんなが入ってきた時には何事かと思ったけど、どうやら僕の様子に気が付いたらしい。凄いな、かなり上手く隠せてたと思うのに。
ソファに深々と座り込む。普段は、セリア姉さんの教育で人前ではこのように座り込まないようにしている。
僕の様子にあんまり接点の無いロイドさんとミーゼさんが驚く。彼らの前ではある程度構えてたからね。ライオット様も表情には出さないが驚いているのだろう。
「結論から言うとね……僕は、あの司祭を殺してやりたいんだ」
自分でもビックリするぐらいに過激な事を、あっさりと言ってしまう。
でも、撤回などしない。本心からの言葉だからだ。
「いきなり物騒だね!?」
「ちょ! 神子様? 具合悪いんじゃないか!?」
ドワーフの二人は慌てふためく。
スーニャは理由を考え込み、ライオット様は少し固まる。シリカはもはや泣きそう。
その中でドロシーだけが違った。
「分かった。……殺してくる」
「待って! 気が早すぎるよ! もう少し話聞いて!?」
ドロシーが懐の短剣を取り出し、暗殺に乗り出そうとするのを、慌てて止める。
お陰で、気持ちが落ち着いたよ。
元暗殺者だからって、アクティブすぎるよ。気のせいか、今までで一番生き生きしてた気がする。
「……ん? 殺したいんでしょう? なら、殺れる時に殺らないと」
漆黒の短剣を持って、目を細めるドロシーはこうゾクッとくるものがあった。
「君に殺しはさせないよ。殺してやりたいのは事実だけど、僕には立場があるし、君にもある。だから、法によって裁かれてもらうよ」
「法で? 主様。それは一体どういう」
「シスター達を見てみんなどう思った?」
スーニャの質問には答えずに逆に質問を返す。
「美人揃いだったぜ」
「あれって、神子様の為に綺麗どころ集めたんじゃないのかい?」
「私は、特に何も……そう言えば、露出に関して非常に気を使っていましたね。てっきり神子様のお年齢に配慮してのことかと」
「視線が定まってなかっ……た?」
「動きがぎこちなかった……まるで負傷してるみたいだった」
スーニャの言葉を肯定するようにドロシーが追加情報を加える。
長い冒険者生活での洞察力と、暗殺者としての対人スキルが答えを引き当てた。
「スー、ドロシー。正解だよ。彼女達はね、恐らく司祭に性的暴行を行われている。……しかも年単位で」
「「「……なっ!」」」
ライオット様達が言葉を失う。
スーニャは忌々しそうに顔を顰めて、ドロシーは表情を表さない。
「ふぇ? ど、どういうことですか? だ、だって、し、司祭様……ですよ?」
混乱の極みに達したのか、シリカが初めて声を出す。
彼女はまだ八年ぐらいしか生きていないから、本当に意味がわからないのだろう。性知識だってまだ習ってないだろうし。
「シリカ。いずれ分かるよ。今は、そうだね……司祭がすごく悪いことをしていて、シスターさん達が辛いめにあっていると思ってくれれば」
「わ、わかりましたぁ」
「ですが、私から見ても、そのような様子は見受けられず、未熟と言えばそれまでですが、神子様はどのように?」
ライオット様が至極真っ当な疑問を投げかけてくる。
「僕はね、回復魔法に精通してるでしょ?」
「ええ。大陸一……いえ、世界一の回復魔法の使い手だと思います」
「ライオット。そこは確信してくださいな」
すかさず、スーニャがキツいあたりを入れる。本当に犬猿の仲だよ。
喧嘩にでも発展したら面倒なので、話を戻す。
「世界一かどうかはともかく、そのお陰かな? 僕には、服の上からでもある程度相手の身体の損傷具合が分かるんだ。あと、魔力の乱れとかもヒントになるかな?」
僕のは違和感ぐらいだけど、雛には本当に一目で人の身体を隅々まで把握出来るらしい。
回復の精霊故の能力なのだろう。
そういう意味では、僕じゃなくて、雛が世界一の回復魔法使いだ。
「そのような……お力を。流石です」
すかさずヨイショしなくてもいいよ……。
「それで、あの時は少し怪訝そうな表情を浮かべてたのですね」
僕の場合は、違和感だったけどね。もし、あの場で雛に事実を知らされていたなら、間違いなく顔に出てただろう。下手したら実力行使していたかも知らない。
そういう意味では、雛はファインプレーだ。時間と場所を置いたからこそ、僕はギリギリ冷静でいられた。
「うん。そこで、みんなには出来る範囲で証拠を集めて欲しい。と、言っても本当に動けるのは数人だと思う」
「なるほど。なら、隠密に長けた者が適任ですね。私は、エルフなので森の中とかなら自信があるのですが……」
「スーは容姿で目立つからね。明日の観光に居なかったらバレるよ」
「なら、私は精霊にお願いしてある程度噂話とかを聴いてもらうようにします」
「お願い」
「……なら、私が適任」
ドロシーが胸を張って主張する。
「だよね。……でも大丈夫?」
ドロシーはまだ12歳なのだ。見た目より若くそして、容姿にも優れている。もし、捕まるような事があったら……。
「ここはザル。問題ない」
とこで覚えてきたのか、ブイサインをする。
一瞬、キントの顔が過ぎった。彼がよくブイサインをするからだ。
「そっか……お願いね。あと、安全第一だから!」
「うん。任せて」
「こういうのは、あんたの出番だよ!」
「痛ってぇ! 背中叩くなよ、姉貴」
「ロイドさんも?」
「こいつの土魔法は探知にも使えるのさ。まあ、本人は地味だからって使いたがらないけど」
「オイラは、最前線で戦うほうが向いてんだよ」
「バカ言ってないで、少しは役に立ちな! アンタただでさえ、大飯ぐらいなんだから」
「それって、姉貴だっていっし……」
「ああ?」
「やる。やるよ! ……はぁ〜」
「分かればいんだよ」
見た目は子供の二人の言い争い? はギャップがあるな〜。
その後、ロイドさんの魔法は所謂レーダーで、地面に魔力の糸を張り巡らせて、生き物の場所を逐一把握する事が出来るものだと判明した。地面に触れていない者を探知出来ない弱点もあるけど。
僕の『魔力領域』の劣化版の魔法だとは言わぬのが花。僕の場合は、誰にもこの技を教えてないからね。
魔法では無い上に、魔力を凄まじい精度で操る必要があるし、魔力消費も凄いと思う。僕の場合はマナのサポートもあるから、拡散した魔力をほぼ回収出来るから、消耗はほとんどないし、マナが探知したものを選別とかして、分かりやすく脳内マップに変換してくれるから、所謂ゲームの立体マップみたいなものになっている。
最近はアイテムアイコンすら作られていて、ますます使いやすくなっている。しかも、延ばす魔力も魔力の扱いに長けている者すら感じ取れないほど、隠密性が高い。
ドロシーには能力をフルに使ってもらい僕達が町に出ている間、神殿の中を探ってもらう。ネーティ司祭は町の案内を他に任せているので、明日は神殿に居るため、何かアクションを起こす可能性がある。
ロイドさんには、シスター達とネーティ司祭が接触するなら、知らせるように伝えてる。
まさかと、思うけど、神子が町に滞在しているのに、行為に及ぶほど……いや、前科があるから可能性は高いか。
話を詰めて、その日は就寝に着いた。




