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54話 野営

村の人達と別れを告げてから、北の町に向かって馬車を進めた。手元には、魔石でいっぱいの袋。


当然、氷の魔石も一番上に乗っている。薄い水色で、水の魔石に酷似している。素人から見たら、違いが分からないだろうレベルだけど。


手に取り、魔力を込めると、氷のように冷気が漏れてる。


「それが神子様の適正である氷の魔石ですか」


馬車に一緒に座るライオット様が質問を投げかける。


座っているのは、僕とライオット様とシリカの三人で、他の人は、馬に乗っている。交代制で、護衛が一人乗るのだ。


ライオット様は僕の正面。シリカは僕の隣に座っている。シリカは背景に溶け込もうとしている。


「そうですよ。昔は禁忌の魔法とか言われていて、現在はほとんど失伝している魔法です。本当は、嫉妬からきた難癖みたいですけどね」


「なるほど……故に、現在の4元素や光と闇に比べると、知名度が全くないのですね」


「はい。氷魔法は凄いんですよ? 何せ、形のあるものならある程度模倣出来るんですから。それは土も同じことも出来るのですが、氷の場合は、透き通っていて、芸術的なんです。それにそれに、物を冷やす事にも特化していて、飲み物や痛みやすい生物を長く保管する役割も果たせる万能魔法なんです! あ、すみません。熱くなってしまいました」


照れくさくなってしまう。ライオット様は笑顔を浮かべる。


「神子様は、本当に魔法がお好きなのですね」


その言葉に、僕は自分の根源を思い出した。


そうだ、僕は魔法に魅入られて、一生懸命打ち込んでいたら、多くの人と知り合って、マナ達とも出会ったんだ。そして、神子にもなった。


全てが、魔法を使いたいという思いから。


だから、僕は心の底から頷く。


「はい。魔法は僕の全てです」


ライオット様が頷く。


また、恥ずかしいことを言ったなぁ。


そうだ、せっかくだから、ライオット様に氷魔法の適正があるか調べてみよう。ついでにシリカも。


「ライオット様。良かったら適正があるか調べてみませんか? シリカも」


「是非に」


「わ、やたしでしゅか!?」


他に誰がいるんだよ……。


二人に魔石を渡して、魔力を流してもらったけど、何も起こらなかった。残念。


『氷魔法を扱うには、かなり運が必要ということだねー』


とこか寂しそうに澪が言葉を零した。






人生初の野宿に胸が踊る。


焚き火を中心に、みんなが円になるように囲う。


満点の星空の下で、食するシチューは格別だった。


月と無数の星々が美しくて、食後は卵に魔力を流しつつ空を見上げて、のんびりする。


「アタイ達の由来になった星空なんだねぇ〜」


ドワーフの女性。ミーゼさんがボソリと呟く。


「姉貴。なに、キャラに合わないこと言ってるんだよ」


すかさず、双子の弟のロイドが茶化す。


「いやさぁ〜。星って遠いし、あんまり実感湧かないじゃん? それなのに、アタイ達は星騎士だもんだからさ」


「遠いのと、オイラ達が星騎士なのはあんまり関係ないんじゃないか? 星は星で、オイラ達はオイラ達なんだし」


「ん〜そういうもんか。というより、発案者居るんだから聞けばいいじゃないか! そうだろう? 神子様」


いきなり話題を振られたけど、まあ、説明しておこうかな。


僕は、自分が月の役割を担っていることを仮定して、みんなは月の周りを囲み、そして支える役割を担っていると話す。


「へ〜。じゃあ、神子様は月騎士になるのか?」


「あんた馬鹿だねぇ。神子様は、月神子様になるだろうに」


ロイドさんの例えに、マジレスで答えるミーゼさん。相変わらず容赦ないなぁ。それなのに、別に仲が悪いわけじゃないんだから双子というのは不思議なものだ。


「うふふ。月神子ですか……なんだから、素敵な響きですね」


スーニャが語呂が良いと微笑む。


「月には何があるんでしょうね」


ライオット様は至極真っ当な疑問を抱いたようだ。その一言に、周りから根拠の無い憶測が飛び交う。


「そりゃあ、何も無いんじゃないか?」


「そんな訳ないだろ! 光ってるんだ。光る種族が暮らしてるに違いないよ」


「ドラゴンの住処なのかもしれませんね」


「私としては、神が住まう星なのではと、考えております」


「……死者の星、かも?」


「いやいや。カッコイイやつがいるかもっす」


「きっと、美しい女性の園だ……!」


「うさぎが餅をついてるかも!」


便乗して、冗談を言ってみるも、元ネタを知らないみんなからは、根拠は? と迫られてしまった。


案外、本当に何も無いのかもしれない。


そうして、初めての野宿は穏やかにながれた。

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