45話 ライオットVSスーニャ
予想以上の舞台の破損具合に、予定より長く休憩がなされて、ようやく最終試合が行われようとしていた。
『長らくお待たせしました。模擬戦最終試合です。ライオットさん、スーニャさん舞台にお上がりください』
このアナウンスもこの試合で最後かぁー。
長いようであっという間だったなぁ。
舞台に騎士様とスーが並び立つ。
2人とも十分の休息を取って、闘志も十分だ。
お互い魔力を1度使い果たしているからか、魔力は回復しきれていない。
魔力を使い果たすか……長らく僕が得られていないものだな。
昔は呼吸するように、使い果たして気絶出来てたのに、懐かしい。
『そんな気持ちを抱くのは貴方だけよ。普通の魔法使いは気絶するまで魔力を使わないわ』
マナにツッコまれてしまった。
1番長い付き合いだから、理解してくれると思ったのに……残念。
『お兄ちゃん……さすがにそれはないよー』
『そんな頭おかしーいことにマナさんが頷く訳ないでしょーが』
常に味方ですらの雛に呆れられるとは……これが兄離れというやつか。
うん、澪は平常運転だね。
懐かしむのも程々にして、視線を舞台に立つ2人に向ける。
騎士様は僕を神子として選んでくれた人だ。人柄、実力共に信頼出来る。シュガーの性を返上し、騎士を辞めてまで僕を護ろうとするその精神に頭が下がる思いだ。めっちゃイケメンだし。
対して、スーは僕限定で、エロフになるけど、それ以外ならそつなくこなすし、男なら誰でも見惚れる美貌の持ち主だ。ガーターベルトを着用してくれるしね。
2人とも僕にとってかけがえのない存在だ。
そんな2人が今から闘おうとしてある。
くっ……僕はどっちを応援すればいいのだ!
『ヒント、両方』
澪おぉぉぉ! 早い! 早すぎるよぉ! もう少しこの感覚を楽しませてよ!
私の為に争わないで! が出来る機会なんだからさぁ〜。
……まあ、いいか。
僕は2人が大きな怪我を負わなければそれで構わない。
『君って、いきなりシラフになるよね』
……。
『うふふ、こうして貴方と対峙出来ることを、神子様に感謝……そして、そんな貴方を叩き伏せる機会を与えてくれた神子様に感謝を』
うおい! スーさん!? いきなり喧嘩腰です!?
『貴女の神子様に対する思いは分かりました……ですが、神子様の教育上、貴女は害悪になる可能性がありますので、神子様に触れられない距離まで離れて頂けませんか?』
なぬぅ!? 騎士様も臨戦態勢だとぉ!?
2人の間に、火花が散り、背後にゴゴゴゴゴと見えもしない幻影が見える。
なんでこんなに仲悪いの!?
『うふふ。御冗談を♪ 私が神子様から離れるこは未来永劫……ありません♪ 貴方こそ、神子様の邪魔にならないように、端っこに寄ってくれます?? あ、もちろん未来永劫です♪』
怖い! 怖い怖い!
『あはは。面白いことを言う方ですね。貴女こそ、神子様を見る目に邪気が宿ってますよ? そのような邪な気持ちで神子様に近付いて、純粋無垢な神子様が穢れたらどうしてくれるんですか?』
目が! 目がまっっったく笑ってないよ!?
あと、既に邪に近付かれてるし、僕はもう穢れているから!! 前世的な意味で!
『うふふふふ』
『あはははは』
お互い笑い合いながら、武器を構える。
やんのか? ああん?
お? やっか? おお?
みたいな、ヤンキーの絡みを上品にしただけじゃんか!
ユリアさんも2人の態度に若干引いているし。
『『合図を』』
2人揃ってユリアさんに向き直り催促する。
声がタブってるし、さては仲良しかな?
ごめんなさい。微塵も仲良しに見えません。
むしろこれから殺し合いをしますみたいな雰囲気だよぉ。
『最終試合……開始っ!』
武器を構えた2人の姿がブレる。
次の瞬間には、走り回りながら剣とレイピアが交差する度に金属音と火花が散る。
『魔力が足りなくて、『海王の咆哮』を撃てなくて残念です……ですが、貴方相手に、使うまでもありませんよね?』
息もつかない高速の剣戟を繰り広げながら軽口を叩く。
訳:お前程度に使うのは勿体ないから笑
『ご心配なく……どうぞお使いください。使ったところで斬り裂いて差し上げますよ。それに随分と仰々しい名前まで付けて、はぁ……慢心してますね』
訳:使えるもんなら使ってみな〜まあ、使ったところで真っ二つにしてやんよ! あと、名前が仰々しすぎ! 調子に乗ってんじゃねーぞ?
騎士様の言葉に何故か僕も少し傷付く。
だって……
『あの……名前は、神子様が付けてくれたものなのですが……』
軽口を叩いていたスーが素に戻り言いずらそうに言う。
『えっ……!?』
2人の剣戟が止み、騎士様がやらかしたと言わんばかりに僕の方に顔を向ける。
僕は軽く目を押さえて涙を流さないように上を向いていた。
仰々しかったかぁ〜、カッコイイと思ってノリノリで付けたんだけどね……ごめんね、騎士様。
調子に乗ってたのはスーではなくて、僕だったんだよ。
『神子様! ち、違います! 言葉のあやです! いえ、今思えば、あれほど相応しい名前はないでしょう! さすがは神子様が名付けただけのことがある!』
騎士様が手のひら返しに褒めたてる。
『あらあら、神子様を泣かせましたね〜はて? 神子様を護ると宣言していた人が護る対象を泣かせるとは……本末転倒なのでは?』
頭を軽く傾げ、イタズラっぽい笑みを浮かべて……いや、悪魔のような笑みを浮かべて騎士様を追い詰める。
『くっ……! 私は! 騎士失格ですっ!』
膝から崩れ落ちる騎士様。それを見下ろして、素敵な笑顔を浮かべるスー。
誰が予想だにした光景だろうか。
決勝戦であり最終戦……この模擬戦の集大成がこのような結果になるなど。
さすがにこのまま終わったら他国の貴賓の皆様に申し訳ない。
僕は、2人に喝を入れるべく声を張り上げる。
「スーニャさん! ライオット様! 茶番もそこまでにして、真剣に闘ってください! ……僕を失望させるつもりですか?」
若干の脅しを混じえて。
効果てきめん。2人は青ざめて、再度武器を構える。
『貴方のせいで、神子様に失望されたらどうするつもりですか!!』
『貴女に言われたくありません!』
スーの言い掛かりと同時に刺突が繰り出されて、それを剣で逸らして、正論を言う騎士様。
ようやくまともな試合になりそうだ。
そこからは、軽口も無くなり、2人の剣戟の速度が増していく。
『くっ……流石はエルフですね。魔法行使にムラがないっ!』
刺突に風魔法を織り交ぜて、高速で連続突きを繰り出すスーの一連の動作に無駄はない。
『そういうっ! 貴方こそっ! 全て防いでいるっ! じゃないですかっ! どんな目と反射神経をしているんですかっ?』
だが、防ぐ騎士様も普通じゃない。
もはや僕の視認できるレベルを超えている速さのレイピアを、全て風を纏わせた剣で防いでしまう。
『鍛錬、日々鍛錬! 努力に終わりはない! 凡人の私には停滞は許されないのです! 弛まぬ努力が私の強み!』
レイピアを弾き、スーの懐に入り込み、拳を振り抜く。
風を纏わせた拳がスーの腹にぶつかる。
『うっ……! なるほど、短命な人間だからこその強みですね。……主様と同じ人間と言うだけで羨ましいのに』
軽く吹き飛ばされたスーは、どうやら寸前のところで手を割り込ませることが出来たようで、ダメージは少ない。
後半の言葉は声を出しているのか分からないぐらい小さく、聞こえなかった。
なんかゾッとしそうなこと言わなかった?
『神子様は種族が別だからと差別する人ではありませんよ』
追撃しながら騎士様も聴こえないボリュームで口を開く。
『貴方に言われなくてもっ! 私が1番わかっていますっ!』
何を言われたのか、少し怒気をはらませた声を出す。
本当、何の話してんの?
攻守逆転して、今度は騎士様が流麗な連撃を繰り出し、スーがステップを屈指して、避ける。レイピアでは剣を防ぐには強度が足りないからだ。
『ならば、もう分かっている筈です』
『……ええ』
2人だけ通じ合っている。なに、もうそんな仲良しになったの?
『私は貴女に勝ち、神子様に仕える資格を手に入れてみせます!』
『ならば、私は貴方に勝ち……主様に頭をなでなでしてもらいます』
『え……?』
騎士様がカッコよくキメたのに、スーが何か素っ頓狂なことを言って騎士様を困惑させる。
『やはり、貴女はここで消えるべきだっ!』
『それは私のセリフです!』
仲良くなったように見えたのは幻だったようで、お互い睨み合う。
『次で決めます』
『言われなくとも終わらせてさし上げますよ』
2人が魔力を練り上げて、それぞれ武器に込める。
『『風纏・風剣』っ!』
凄まじい風が剣に宿る。
『『風水合成・海王剣』っ!』
スーが剣に風と水の合成魔法をレイピアに宿す。
荒れ狂う水の竜巻がレイピアを覆う。
なに、あの技、明らかに即興で作ったよね……?
そんなに騎士様と張り合いたいの!?
『海王の咆哮』は上級魔法の合成なら、これは初級魔法の合成だ。
範囲も出力も『海王の咆哮』に遠く及ばないだろうが、それでもかなりの魔力を感じさせる。
『……参る!』
『……行きます!』
2人の踏み込みはほぼ同時。
次の瞬間には、舞台の中心で爆風と、水の竜巻がぶつかり合い。
拮抗は一瞬。
次の瞬間には、2人が飛び退く。
『引き分け……ですね』
『そうなりますね』
2人共無傷だ。
だが、その対価にお互いの武器が粉々になる。
魔法の出力に耐えきれなかったのだろう。
『武器は失いましたけど、闘うことは可能性です』
騎士様が軽く拳を握る。
それに対して、スーも手をかざす。
『ええ、ですがそれは無粋でしょう』
スーの言葉で、お互い構えを解く。
『やはり急造の魔法では、貴方を貫けませんでした』
スーがニコッと微笑み怖い事を言う。
『私も、不完全な魔法では、貴女を斬れませんでした』
騎士様は、表情を変えずに返す。
2人とも物騒だわ。
2人がユリアさんに視線を向ける。
ユリアさんもそれを察して頷く。
『模擬戦最終試合……引き分けです!』
わわわあああああああーーーーーーっ!!!
これまでで1番の歓声が沸く。
僕も拍手を送る。
『本日の夜に面接を受ける者を発表しますので、選ばれた方は明日、案内に従って面接を受けてください。なお、面接を受けなかった場合は、失格になりますので。それでは、最後にアーケル枢機卿の方からお言葉があります』
舞台に上がったおじいちゃんがニコニコとしながら、声を張り上げる。
『誠にあっぱれな試合であった! 他の者たちの試合も見応えのあるものばかりで年甲斐もなく飛び込み参加しそうになったわい! わはは! まあ、ユリアに止められたが』
観客席は笑いに溢れ、おじいちゃんの実力を知っている各国の貴賓達は頬を引きつっていた。
「枢機卿が参加したら、死屍累々としてただろうね」
あの、教皇様、本日1番怖い事言っているんですが……。
「レイン。アーケル君は、ああ見えて昔は土魔法を使って、小島一つひっくり返したり、山を更地にしたりしてたんですよ? ……懐かしいですね〜」
そして、メサイア様? 冗談だよね? 小島をひっくり返す? なにそれ、想像できない。
そのあとつつがなく終わりを迎えたけど、僕はおじいちゃんの規格外さに頭がいっぱいになった。
それを世間話みたいに言える教皇様やメアも同格なんだよね……?
僕、神子として本当に並び立てるのか、不安になってきました。




