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44話スーニャVSカルス

『第七回戦第二試合を行います。両者……舞台にお上がりください』


ノーコンことカルスさんが先に舞台に上がり、盾を軽く振るう。


「レイン、レイン。 もう、彼の頭には右手の槌ではなく、盾で攻撃することしか考えられてませんよね!?」


満面の笑顔を浮かべてワクワクするように、僕の裾を引っ張るこの美少女は、はて何歳だっけ? 少なくても3桁いっているはずだが。


「メサイア様、カルス君の闘い方を気に入ったのは、分かりましたから、もう少し抑えてください」


教皇様が宥めるように優しい口調でメアを諭す。


公衆の面前だったことを思い出したのか、コホンと咳をして、澄まし顔になる。


だが、頬は少し赤らめている。柔らかそうでつんつんしたくなる。


試合そっちのけになってたけど、それも彼女の登場と同時に発せられる闘気により、会場がビリビリする。


『お待たせしました』


簡潔に言葉をつむぎ、舞台に上がるスーは、周りの人達にすら分かるほど、闘争心剥き出しにしていた。


相手のカルスさんがビビってるじゃないか。


『第七回戦、第二試合……開始っ!』


そんなの知らんと言わんざかりに、ユリアさんが開始の合図をする。


ビビってるカルスさんは、己を奮いたたせるように一歩踏み出す。


『お待ちを』


そんなカルスさんに、スーは手を翳して制止させる。


『このまま闘っては私の気持ちが収まりませんので、ここはシンプルに勝敗を決めませんか?』


スーの提案にカルスさんが怪訝そうにする。


『スーニャ嬢、俺では貴女の相手すら務まらないとてもいうのか?』


その言葉には怒気が含まれていた。


スーはニコッと可愛らしい笑顔を浮かべる。


『滅相もありません。むしろ貴方だからこそ相応しいのですよ……私の全力を出すのに』


笑顔なのに怖い。自然体なのに、闘気が荒ぶっている。柔らかい言葉使いなのに、有無を言わさない。


『全力だと? 一体なにを……』


『一撃』


スーはカルスさんの言葉に被せるように、人差し指を立てる。


『一撃だけ放ちます。それを耐えきり、意識を保てたのなら貴方の勝ち。耐えきれず、場外又は気絶した場合は私の勝ちです』


『一撃だと? 本気で言っているのか? この模擬戦で傷一つ負わなかった俺相手に?』


『ええ、一撃です。それで終わります』


『面白い……なら、やってみろ!』


地面に盾を叩きつけ防御体勢をとる。


まさかの展開に皆、固唾を呑む。


『了承、ありがとうございます』


流麗な動きで細剣を抜く。


スーが僕に視線を向ける。


それだけで彼女が何に心を昂らせたか理解した。


ここまで用意してきて、どんなに危険でも断れるわけが無いじゃないか。


僕は頷き、魔力を薄く伸ばして、会場全体まで広げる。


そして、『魔力解析(マナアナライズ)』を使って、展開されていた結界に魔力の性質を合わせて同調して、『魔力圧縮』を使って、可視化寸前まで魔力を注ぎ込み、結界に『魔気(まき)』を上乗せさせる。


これで、強度は十分だと思う。


これだけのことをしても、不安が拭えない。


何せこれから彼女が繰り出す一撃の規模は予想出来ないからだ。


僕は準備が出来たことを伝える為に、頷く。


彼女はその頷きにニコッと笑みを返して、カルスさんに向き直る。


『準備が出来ました』


僕が準備している間に、彼女も魔力を練り上げたようだ。


『…………参ります』


レイピアをカルスさんに向けて、魔法陣を二つ展開する。


一つ目の魔法陣は、水魔法を表す青色の魔法陣。


二つ目の魔法陣は、風魔法を表す深い緑色の魔法陣。


二つ異なる属性の魔法陣が展開されたことに、会場は驚愕する。


『同時に2属性の魔法を行使するつもりですか!? さすがはエルフということでしょうか』


ハワード魔導国、宮廷魔法使いのリシン様が驚き、納得するように頷く。


違うよ、違うんだよリシン様。


それだけなら、僕もこんなに万全の策を尽くした上で不安を抱かない。


現に僕は、何時でも『範囲回復(エリアヒール)』と、『魔力盾(マジックシールド)』が発動出来るように待機している。


リシン様の言葉を嘲笑うように、更にスーは魔力を高める。


『もし……もしも、彼らが水魔法と風魔法をあのような偶然で、不完全で有りながらあの人が望むような、結果に近しいものでなければ、私もこれほど、心がざわつかなかったでしょう』


聴いている者の中で彼女の言葉を理解出来るのは僕だけだ。


スー、気にしていたのか。


確かに彼女に求めた結果とはかけ離れたものだったけど、僕はそれでも実行に移してくれただけでも満足だったんだ。


『ですから、これは半分八つ当たりです。あの人の期待に応えられなかった……私の歪んた魔法です』


異なった二つの魔法陣がぶつかり合う。


二つの魔法を一つの魔法にするのではなく、無理やり一つに纏める魔法。本来の姿ではなく歪んた形に魔法陣が展開される。


今にも暴走しそうな魔法を前にスーは呟く。


『…………『海王の咆哮(メイルシュトローム・ロア)』』


まるで咆哮のような衝撃波が放たれて、スーにより無理やり指向性を与えられた風魔法と水魔法の歪な魔法陣から水の竜巻が一直線にカルスさんに向かって放たれる。


本来なら、神聖魔法のような二つの属性を融合させて融合魔法のように新しい属性魔法を生み出そうとしたけど、失敗したスーは、それとは全く別の合成魔法とも言えるものを生み出してしまった。


合成魔法は二つの属性を無理やり一つにねじ込むことで、爆発的な出力とデタラメな効果を発動させる、魔力爆発を起こす直前の危険な状態の魔法だ。


効果も凄まじいが、膨大な魔力も必要な為、元から人離れした魔力を持つエルフであるスーでもギリギリ足りるぐらいだ。


スーを責めるつもりはないけど、本来なら氷魔法になる筈だったんだ。


騎士様とキントさんの闘いで、風魔法と水魔法が半分融合して、氷魔法に近いものが出来ていた。


スーは、自分が出来なかったことを、偶然とはいえ、目の当たりにして……きっと悔しかったんだと思う。


スーはなんだかんだ言っても、僕の役に立つのが生き甲斐みたいになっているから。


迫りくる水の竜巻に、カルスさんは慌てて魔法を展開させる。


『『光の障壁』、『光の防壁』、『光の城壁』……『光の守護』!!!!』


障壁と防壁がカルスさんの全面に光の壁を展開され、守護が光のベールのように、身体を覆い、城壁が背後に大きな壁として展開される。


それでも、足りないと言わんばかりに、両足を地面に踏みつけて、くるぶしまで埋めて、槌を投げ捨てて、盾を両手持ちにして、来たる全てを破壊し呑み込まんとする水の竜巻に備える。


『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』


水の竜巻が、障壁と防壁の二層の壁をまるで紙切れを突き破るようにカルスさんの盾に衝突して、後ろに吹き飛ばされそうになるが、背後の城壁がカルスさんの後退を防ぐ。


そのあまりにもデタラメな威力に、悲鳴なのか雄叫びなのか分からない声を張り上げて、必死に耐える。


『ぐっ……う……っ!』


歯を食いしばり、腰を思っきり下ろしても、じわりと徐々に押されてしまう。


そしてついに、城壁が木っ端微塵に消し飛ぶ。


『ぐああああーーーー!!!!!』


後ろの支えを失ったカルスさんは、そのまま水の竜巻に呑まれてしまう。


その勢いそのままに、水の竜巻が観客席を守る結界に衝突する。


観客席から悲鳴が上がる。


だけど、大丈夫だ……防ぎきった。


ようやく効力を失った水の竜巻が消えていく。


結界に『魔気(まき)』を重ねがけして、ギリギリ持った。


ヒビだらけになった結界が消えていく。それに乗じて僕も魔力を身体の中に引っ込める。


レイピアを鞘に納めてスーが満たされたように言う。


『スッキリしました〜』


晴れやかに言うんじゃねぇよ! 危うく、大災害になるところだったじゃねぇーかよ!


ツッコミたい! あの晴れやかな表情を浮かべるエロフの頭を叩きたい!


僕のうらめしい睨みに、スーがやりすぎましたと言わんばかりにウインクしながら小さく舌を出す。


まっっっっったくもーう! かわいいから許す!


視線で許して、カルスのフォローをしろと顎をくいとカルスさんの方に向ける。


何と、あの一撃を受けて、彼は舞台の淵にギリギリの位置に居た。


あと半歩でもズレていたら場外だった。


ナイスガッツだ。


『貴方なら、神子様の盾になる資格は十分にあるでしょう』


それフォローのつもり? 上目線なんですけど?


そうして、スーは振り向き、舞台を後にしようとする。


返事のないカルスさんは、大破した盾を構えたまま気絶していた。


『……し、勝者スーニャ!』


さすがの展開にユリアさんも驚きが隠せないようだ。


勝利宣言されたにも関わらず、歓声ところか、声一つ上がらなかった。


みんな放心状態なのだろう。


「いやぁー凄いものを見せてもらったよ」


「あれは融合魔法の失敗例? いえ、そう言うには、あまりにもデタラメすぎますね……指図め合成魔法と言ったところでしょうか?」


いつも通り朗らかな笑みを浮かばる教皇様と、1発で見抜いたメアの洞察力に、二重の意味で苦笑する。


『がははー! 凄いなぁ、おい! がははー!』


遠くておじいちゃんの爆笑の声が聴こえる。


うちのトップ達、のほほんとしすぎでしょ。


なお、せっかく修繕したのに、前回以上にズタボロになった舞台に、涙目の職人さんたちの姿があった。


残るは決勝戦のみ。


騎士様ことライオット様と、エロフことスーニャの試合は如何に!

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