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43話 ライオットVSキント

『第七回戦第一試合を行います。両者……舞台にお上がりください』


騎士様とキントさんが対峙する。


キントさんがガンドレットを打ち付ける。


『へへっ、あんたを一目見た時からやり合ってみたかったんすよ』


『それは光栄なことですね』


『キャァーヤリあってみたかったですって!』


『しかも、光栄ですって! これって受け入れているということですよね!?』


『ライオット様が受けと見せかけて、実はドSな攻めだと私は見た!』


『そして、全てを見られ、蹂躙されたキント様が赤面になりつつ……満足そうに微笑むって何処でしょうか!?』


『ライ×キン……これは滾りますねぇ!』


おい観客席に紛れ込んだ腐敗を司る女子(おなご)共! 自重しろ!!


ちょっと想像しちゃったじゃん!


そんな声すらも聞こえないのか、お互いに見つめ合う2人……まるでもうその世界にはだった2人しかいないかのような……ゲフンゲフン、他愛はない!


『ライ×キン……それでは第七回戦第一試合……開始っ!』


ユリアさんが若干興味持っちゃったよ!


ここはキントさんお得意のヒットアンドアウェイで序盤は様子を伺うのだろうと思っていたらキントさんが騎士様に突っ込んでいく。


『あんた相手に様子見なんかしないっす! 最初から全速全開っすよ!』


水魔法を纏った両手を騎士様に突き出す。


『オラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーッ!!!』


『っ!』


呼吸もせずに拳を繰り返し放つ。


それを剣で逸らしていくが、次第に加速していく拳に剣では防ぎきれず、身体を逸らして拳をギリギリ交わす。


それが1分……2分……3分、嘘だろう? あんな全力の攻撃を休まず放っているのに、全く疲れた気配がない。


騎士様も少し表情を驚愕させる。


さすがに異常だ。あんなに体力が持つはずがない。


そこで僕は思い出した。


「もしかして……『才能(ギフト)』!」


産まれた時から、持っている特殊能力のようなもので非常に希少な能力。


「正解だよ」


教皇様が僕の言葉を肯定する。


「彼は『疲れ知らず』の『才能(ギフト)』を持っているんだよ。効果は単純で文字通り、疲れたりしなくなるのさ。お腹も空けば、眠くもなるみたいだけどね」


ようやくあの体力の正体が分かり納得した。


「それにしても『疲れ知らず』ですか……もっと、マシな名前とか無かったんですか?」


「あはは、彼本人が付けたものだからね」


あ、納得。


「それにしても……うむむ。どちらも受け攻めの素質がありますね」


「何の話ですか!?」


隣のメアは目をこらすように2人の闘いを見てたと思った、そっちの見方をしてたんかい!


「ふ、腐敗の聖女」


「何か言いましたかぁ? レイン?」


「な、なんでもないっす」


ニコッと笑顔を向けられたけど、明らかに目が笑ってなかったぜ。思わずキントさんの口調が移っちゃった。


教皇様は、僕とメアのやり取りに苦笑いを浮かべるだけで試合観戦に戻ってしまった。


そして、猛攻を繰り広げてから5分が経った。


騎士様も躱し逸らすのに疲れたのか、汗を大量にかく。


『はぁ……はぁ……っ!』


反撃する隙すら与えられず追い込まれていく。


騎士様は距離を取るべく、足元に風の魔法陣を発動させて、それを踏み、突風により後方に飛ぶ。


よしっ! 立て直せる。


『させないっすよぉ! 新必殺技! 飛ぶパーンチ!!』


キントさんの振り抜かれた拳では飛び退いた騎士様には届かない筈だった。


だが、キントさんの拳に纏われていた水魔法が個体として、拳から離れて騎士様に向かって飛んでいく。


不意をつかれた騎士様はそれをモロに顔に受ける。


『ぐっ……っ!』


衝撃で倒れそうなところを踏ん張ると、再度接近したキントさんが猛攻を仕掛ける。


『最後まで押し通るっすよ!!』


振るわれる無数の拳。


迫る敗北。


だが、騎士様はその瞳を鋭くする。


『……未完成『風纏(かぜまとい)絶風(たちかぜ)』』


距離を取ったのは、何も体勢を立て直すだけでは無い。


飛び退いた地面に展開された風の魔法陣に身体をくぐらせて、騎士様が風の鎧を身に纏う。


『うおぅ!? い、痛ァっ!』


そのまま拳を風の鎧に叩き込んだことで、手が思っきり弾かれる。


『と、とうするっすか!? 攻撃が通らないっす!』


『既に貴方の間合いは読み切りました』


剣をキントさんに向けて静かに言う。


『ここからは貴方の攻撃は受けません』


未完成故なのか、既に騎士様には風が纏われていない。


それなのに、騎士様は勝利宣言と変わらないことを言う。


『じ、上等っすよ! 自分もまだまだ本気出してなかったっすよ!!』


張り合うように拳を打ち鳴らし、水魔法を再度纏わせる。


『では……参ります』


騎士様は足元に突風を起こし、加速する。


それを向かい打つキントさん。


すぐさま出の早い拳をキントさんが騎士様にぶつけるが、騎士様は読んでいたのか、腕に風魔法を一瞬だけ纏わせて、弾く。


『んなぁ!?』


『貴方のように常時発動させることは出来ませんが、一瞬なら使えるようになりましたので』


それを示すかのように、キントさんの繰り出す拳を全て、一瞬だけ風を纏わせた腕で弾く。


焦るキントさんと、涼しい顔の騎士様。


先程の猛攻とは逆の状況だ。


だけど、キントさんは間違いなく闘いの天才だ。


どんな技も、試すし自分の物にしていく才能と器を持っている。


今も、その表情に、一筋の閃きがあったのか、身体の中心に魔力を集める。


それは、騎士様がミーゼさんとの闘いで使っていたものであり、二戦前にキントさんが使おうとして、失敗していたものだ。


この土壇場で使うか!


『真似させてもらうっすよ! ……『水纏(みずまとい)(ボディ)』!』


ダサい! 騎士様の技名をパクろうとして、オリジリティを入れようとして結果か!


だが、結果は劇的に、キントさんの胸を中心に水が湧き出し、身体全身を覆う。


騎士様は一瞬にて、飛び退き地面に魔法陣を展開してくぐる。


『……未完成『風纏(かぜまとい)疾風(はやて)』』


水を纏うキントさんと風を纏う騎士様。


それぞれが水と風の化身になったような光景だ。


『ワクワクするっすね! 行くっすよ!』


『参ります』


水と風が衝突する。


突風の中に水滴が散り、辺りの気温を下げていく。


肌寒くなってきた。


『なんか私の性質に似てる気がするなー』


澪がボヤく。


確かに氷こそ出来てないが、更に気温を下げていったら、氷の礫ぐらいは出来そうだ。


『2人の属性が半融合したからかしら?』


現在2属性を組み合わせて、より強力な魔法を生み出そうとしているマナには、興味深い光景だろう。


今現在、決まった組み合わせがあるのは、光属性と回復属性の組み合わせによる神聖属性ぐらいだからね。


2つの属性を組み合わせるには、2属性以上の適正がないと出来ないし、難易度はずば抜けて高い為、過去に挑戦して失敗した結果ばかりが魔導書に記載されていた。


神聖魔法も、聖典記載されていたからこそ、記録が多く残っていたし、神聖国でも使い手が何人もいるからね。


まあ、実は水属性と風属性が交わるのを見るのは2回目だ。


その時はこんなことになってなかった。


使い手や条件が違うからかな?


そして、次第に威力も規模も減らしていき、騎士様達の姿があらわになる。


舞台に剣を地面に突き刺し片膝ついた騎士様と、大の字になって倒れるキントさん。


『負けたーーーーっ!』


疲れを感じさせない元気な声を張り上げて叫ぶキントさん。


大勢の人が元気そうなのに……と疑問を抱くけど、僕は魔力を集めた瞳で理由を理解する。


『魔力が底ついて指一本動かないっす』


体内に循環する最低限の魔力を除き、任意で操れる魔力が完全に無くなっていたのだ。


本来なら魔力が尽きたら気絶するのに、『才能(ギフト)』の効果なのか、気絶せずに済んでいる。


羨ましいやら羨ましくないのやら分からないね。


騎士様が立ち上がる。当然、彼も魔力が底をつきかけている。常人なら、疲労感に立ち上がることも困難だろう。


『勝者……ライオット!』


歓声が湧き、2人の健闘を祈る腐敗の女性陣は、非常にいい笑顔だった。


僕の方に向き直り一礼して、会場を後にしようとする騎士様に倒れ込んたまま、キントさんが声をかける。


『あんた……やるっすね』


振り向きはしないが立ち止まる。


『貴方も。非常に良い試合でした』


一言、言ってそのまま立ち去っていく。


『次はぁ、次こそはぁ……負けないっすよおおおおーーーっ!!』


舞台には、涙を流すも笑顔のキントさんだけが残った。

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