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41話 ライオットVSミーゼ

舞台に騎士様とドワーフの女性……ミーゼさんが対峙する。


騎士様は剣を構えて腰を低くする。


対照的にミーゼさんは欠伸をする。


『そんなに構えなくても、アタイの勝ちなんだからさ』


挑発的な態度だけど、騎士様の表情は変わらない。


『御冗談を』


そう、見た目こそだらけているけど、その体内で魔力が絶え間なく動き、いつでも魔法を行使出来る状態なのだ。


実際に、これまでの彼女の対戦相手は、その態度と挑発的な発言に、翻弄されて、速攻でやられている。


それに、騎士様は誰が相手でも、慢心も油断もしないだろうから、元より外見だけで人を判断しない人なんだ。


……そうでなければ、僕を神子として扱ったりしなかっただろう。


『そっかぁー。あ〜あ……いっちょやっか』


だらけている姿から、杖を構えて、真剣な表情を作る。臨戦態勢だ。


お互いが油断なく相手の動きに注視する。


『第七試合……開始っ!』


騎士様が深い踏み込みをして速攻を仕掛ける。


『ははっ! 定石通りってか!』


ミーゼさんは杖を軽く横に振るうと、赤色の魔法陣が5つ現れて、そこからバスケットボール並の大きさの火球が現れる。


『御挨拶代わりだ、受け取りなぁ!』


5つの火球がタイミングをズラして騎士様に殺到する。


騎士様はそれをほんの僅か上半身の傾きだけで避けきる。


『御挨拶だと言ったろう? これがアタイの本当の攻撃さ! 『大火球(ファイアーボール)』っ!』


直径2メートルにも迫る大きさの大火球は、凄まじい速さで騎士様に迫る。


それに対して騎士様は表情を変えずに言葉を紡ぐ。


『…………『風刃』』


剣に二本の指をなぞらせ、回復魔法のような明るい緑色ではなく、深い緑色の魔法陣が指の動きをなぞるように剣をくぐり、剣が緑色に輝き出す。


目には見えないけど、剣に風が纏われている。


俗に言う魔法剣だ。


『はぁっ!』


目前まで迫った大火球を縦一閃。


『はあぁーー!? 魔法を切った!?』


大火球を真っ二つに斬り裂き、その歩を止めない。


既に剣の間合いに入ったミーゼさんは焦ったように杖を振るう。


『奥の手だ! くらいやがれ! 『火蛇(ナージャ)』!』


杖からどぐろをまく火の蛇が2体現れる。


さすがに騎士様でも、これには驚くように飛び退く。


それを追尾するように2体の火の蛇が迫る。


『出来れば、決勝とかまでに温存したかったんだけどなぁ』


ミーゼさんの言葉通り、奥の手なのか、額に汗を垂らしながら、手をブルブルさせて、火の蛇を制御する。


騎士様は、先程、大火球を斬り裂いた魔法を使わない。


『大火球は手元から離れた時点で制御下から離れてたけれど、火の蛇は遠隔操作だから、斬っても追尾は止まらないわね』


僕の疑問にマナが答えてくれる。


攻めあぐねる騎士様と、魔力をごっそり使い、疲労しているミーゼさん。


どっちが勝ってもおかしくない。


だが、先に仕掛けたのは騎士様だった。


2体の火の蛇が騎士様の場所からミーゼさんの場所までの直線までの空間を空けた瞬間に騎士様大きく飛び退き、着地した瞬間に足裏と地面が反発しあうような突風が吹いた。


『『疾風の一歩』』


だった一歩。だが、数メートルの差を一瞬にて縮めるには十分だった。


『んなぁ!?』


驚愕するミーゼさんに、騎士様が剣を振り抜く。


『お覚悟』


『な……っめんなあぁー!!』


何と鋭い一撃を杖で防いたのだ。


凄い迫力だ。どれほどこの一戦に掛けているのか計り知れない。


『アタイがこんな簡単に負けたら、クソ兄貴に煽られるだろうがぁ! 』


そんな理由!? そして、やっぱり兄妹だったのか!


ミーゼさんは火の蛇を消し去り、『身体強化』を行う。


身体全身に魔力が循環する。


そしてその魔力は杖も覆う。


『アタイが近接戦出来ねぇとは言ってねぇーぞ!』


その言葉通り、杖術を交えた格闘術は非常に滑らかだった。


騎士様と対等に渡り合う。


その時、僕はミーゼさんの右手に魔力が集中するのを確認した。


……何か仕掛けてくる。


漠然と嫌な予感が襲う。


「騎士様……」


僕の予測通り、ミーゼさんが仕掛ける。


『これが本当の本当の奥の手だぁ!! 『爆裂(バースト)』!』


手のひらから騎士様に向かって爆発が襲う。


『くっ!』


「騎士様!」


思わず声を出してしまう。


爆煙が晴れて、姿を表した騎士様はガードに使った左腕が焼き爛れており、上半身もボロボロになっていた。


明らかに試合続行不可能だ。


「教皇様!」


僕は教皇様に振り返り、試合を中断してもらおうとする。


「大丈夫だよ。彼はまだ諦めていない」


教皇様は舞台を見据えて言う。


僕も従って再度騎士様を見る。


『降参すっか? 出来れば降参して欲しいんだけどねぇ』


『……しません』


ミーゼさんの言葉に、騎士様が答える。


『そこまで頑張らなくても、あんたの奮闘具合なら面接は確定だろうし』


その通りだ。騎士様は既に僕の推薦で面接確定だ。


ここで、負けでも問題ない。


『関係ありません』


『どうしてそこまで頑張る』


意地でも降参しない騎士様に、怪訝そうにミーゼさんが聞く。


『私は、約束したんです。必ずあの方を護ると……だから、護る盾である私が降参など絶対にしてはいけない! この命に変えても!』


「騎士様……約束を守るために」


僕は気が付いたら涙を流していた。


生真面目で優しくて、頼りがいのある人だった。


でも、ここまで僕の為に闘ってくれたことに、胸が暖かくなる。


だから、僕はマナー違反だと分かっても叫ばずにはいられなかった。


「ライオット様ぁーー! 負けないでぇーー!!」


僕の声援に応えるように右腕だけで剣を構える。


『ありゃりゃ、あんた神子様のお気に入りだったか』


『あの方は、まだ私のことを失望なさらないでいてくださるようですね……なら、申し訳ありませんがもう少しお付き合い願います』


『あー! もう面倒臭いけど、いいぜ? 付き合ってやる』


頭をボリボリかき、獰猛な笑みを浮かべる。


『ありがとうございます』


感謝を述べて、目を瞑る。


騎士様の行動に怪訝そうな表情を浮かべたけど、次の瞬間、驚愕に変わる。


騎士様の体内にある魔力を全てを込めた魔法陣を己の足元に展開する。


『じ、冗談きついぜ……『火の壁(ファイアーウォール)』! ……5枚だぁ!!』


騎士様とミーゼさんとの間に3メートルの火の壁が5枚並べられる。


その数から彼女が騎士様の魔法の危険性に気付いたのだろう。


僕も騎士様がやろうとしていることが生半可なことでないと直感で感じた。


『貴女のお兄さんから、着想を得まして』


『あんたは大バカ野郎だよ! 物体としてある土魔法ならまだしも、形が不安定な上に、己すら傷付ける可能性がある風魔法を身に纏うなんて!』


『無茶は承知の上です。ですが、無茶でもしなければあの方の盾にすらなれない!』


『ああ、もう! 来るなら来いやぁ!!』


地面の魔法陣が上方向に浮上する。


それは、騎士様の身体全身をくぐらせることになる。


「……風の鎧」


深い緑色の風が騎士様の全身を覆う。


やはり無茶なのか、至る所が切り裂かれる。


『一瞬でも不完全でもいい……この一撃に全てを掛ける…………未完成『風纏(かぜまとい)疾風(はやて)』!』


突風と化した騎士様が火の壁に突撃……いや、横向きの台風のようにいとも容易く壁を蹴散らす。


そんな光景にミーゼさんが頬を引き攣りながら、僕の方に顔だけ向ける。


『なあ、神子様。勝敗関係なく面接受けさせてくれや』


僕はコクコクと頷くことしか出来なかった。


もう、彼女の結末が決まっていたからだ。


僕の返事に満足したのか表面に向き直る。


『でなちゃ、割に合わねぇー』


目の前に迫った爆風に吹き飛ばされミーゼさんは場外で気絶する。


舞台には片膝をつき、砕けた剣を地面に突き刺す騎士様の姿だけだった。


『勝者、ライオット!』


『『『わああぁーーー!!!』』』


かつてないほどの歓声が沸く。


気を取り直した僕は慌てて騎士様の元に駆け寄るべく、階段を駆け下りる。


「レイン!?」


「騎士様を治してきます!」


メアに返事を返してそのまま舞台へ。


「騎士様ー!」


「はぁ……はぁ……神子様」


「喋らないで!」


全身傷だらけで、左腕が焼き爛れて、魔力も底を尽きかけて、もはや意識を保つのも辛いはずだ。


そんな状態なのに、僕に向き直り、膝をつこうというのだから、本当にもう! バカ真面目だよ!


「今すぐ治します!」


騎士様の返事を聞かずに、両手に魔力を集める。


「偉大なる我が神よ、汝の下僕たる神子レインが懇願する。欠けたる肉体を原初(はじまり)の姿に戻さんとせし神の奇跡を起こし給え…………『神の秘跡(サクラメント)』!」


両手を絡めて、祈祷を捧げると、普段の回復魔法と違い、黄金色の魔法陣が騎士様を包み込む。


その余波で周囲すらにも癒しの力を与える……マナ曰く魔法の上位に位置する神の魔法。


騎士様の傷は巻き戻しのテープみたいに、癒えて、数秒後には無傷にまで回復する。


騎士様は自分の姿を確認した後に、僕に片膝をつく。


「こうやって治していただくのは2度目ですね」


感慨深そうに言う騎士様に僕も懐かしくなる。


あの時も、いきなり片膝をつかれたから、驚いたものだ。


「出来ればこのような機会は無いことに越したことはないんですがね?」


若干責めるように言ってしまうけど、僕なりに心配だったのだから、反省してほしい。


「はい。努力致します」


相変わらず堅いなぁ。


「では、健闘を祈ります」


色々言いたいことはある。


だけど、それは彼が僕の騎士になる時に取っておこう。


騎士様に背を向けて僕は静寂に包まれた会場を後にした。


静寂に包まれた理由は、もちろん僕が起こした回復魔法最上位に位置する『神の秘跡(サクラメント)』を使ったからだ。


一般的に見る機会などある筈がない為、みんな見蕩れていたらしい。


後から同じようにこの魔法を使える教皇様とメアに聞いたのだけど、僕の『神の秘跡(サクラメント)』は規模が違かったらしい。


もっと、こじんまりと、欠損部分だけ治す、淡い黄色い光を発するだけとの事。


ましてや、周囲すら余波で癒すなんで規格外なことも無いらしい。


女神様が関係しているのだろうか?

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