40話 ドロシーVSロイド
模擬戦四日目第2回戦の前半戦はつつがなく終わりを迎えた。
ドロシーは相変わらず瞬殺だし、騎士様も堅実な戦い方で危なく勝利し、ドワーフの2人組も普通に勝ち進む。
そして模擬戦五日目第2回戦の後半戦。
神聖騎士のチャラ男とノーコンも1回戦ほど苦戦せず、勝利を納める。メアはノーコンが普通に勝ったことに不満そうだった。まあ、相手の胴体がデカくて、ほぼゼロ距離で攻撃してたからね。
模擬戦六日目第3回戦。
さすがに長丁場になり、疲れてくる。
残ったのは64人。
ここでも僕が注目した人達は誰一人落ちずに生き残った。
模擬戦七日目第4回戦。
32人まで人数を減らし、教皇様から見せてもらった対戦の組み合わせで、ようやく僕の注目していた人達の中でぶつかり合う試合が出てくる。
ドロシーと男のドワーフの試合と騎士様と女のドワーフの試合だ。
『それでは第4回戦第三試合を行います』
舞台にドロシーの男ドワーフ……ロイドさんが向き合う。
『お嬢さん、オイラはロイド、よろしくな!』
ドワーフのロイドさんはショタスマイルを浮かべる。
観客の1部で歓声が上がる。
『……ん』
ドロシーは無視するのも悪いと思ったのか、珍しい返事する。
無視するには相手に邪気が無すぎるからね。
『ところでお嬢さんは、もしかしてオイラ達の仲間か?』
『……違う。見た目通り』
『そっかぁ、その歳でここに立つとは、余程苦労したんだなあ』
ロイドさんが腕を組んでうんうん言う。
『だが、試合は別だぁ。オイラが勝つ!』
獰猛な笑みを浮かべて、斧を構える。
『私も……絶対に負けない』
ドロシーは漆黒の短剣を構えて臨戦態勢に移る。
『第三試合……開始っ!』
開始と同時に、ドロシーが仕掛ける。
その俊敏な動きは肉眼でも捉えきれない。
一瞬にて、ロイドさんの間合いに入る。
『いきなりだなっ!』
ロイドさんは楽しそうに斧を振るう。
ドロシーはそれをギリギリで回避するが、更に一歩踏み込む。
『ふっ!』
振るわれた短剣は刃が付いてないほうで、首を狙われる。
早くも決着か? と思われたその一撃は金属音と共にロイドさんに防がれる。
引き戻した腕を土魔法で覆って短剣の攻撃を防いたのだ。
『へへっ、まだ始まったばかりで負けるわけないだろぉ? ふん!』
短剣を弾き体勢を崩したドロシーに土魔法で覆われた拳を振り下ろす。
『オラァ!』
『っ! ……馬鹿力』
咄嗟に空いていた方の手に持っていた短剣で防ぐがその幼い見た目と裏腹で、その怪力で数メートル吹き飛ばされる。
『ドワーフの腕力は最強さ! いくぞぉ!』
ロイドさんは地面に拳を叩きつけると、茶色の魔法陣が展開される。
地面から土の突起物が無数に現れてドロシーの方に向かって伸びる。
ドロシーはそれを俊敏な動きで回避していく。
『まだまだいくぞぉ! オラァ!』
突起物を斧で叩きつけて、無数の破片に変えてドロシーに飛ばす。
さながら土のショットガンだ。
『……厄介……『影移動』』
ボソッとドロシーが呟き、この大会が開始してから初めて魔法を使う。
ドロシーが回避して地面に着地するのを狙っていたのかロイドさんが突撃する。
なぎ払いの一撃は繰り出すが。
『なっ!? 沈んだ!?』
着地後の一瞬の膠着を狙ったのに、ドロシーはまるで下が水だったように、地面の影に沈んでいった。
「闇魔法か、珍しいね」
教皇様も興味深そうに試合を見詰める。
僕も目に魔力を集めて、魔力の流れを追う。
地面の中でドロシーの魔力がロイドさんの背後にある突起物を登っていく。
そして2メートル近い突起物の先からドロシーが現れて、頭上から短剣の二刀流を繰り出す。
『ふっ!』
『だろうなぁ!』
ドロシーの行動を予測してたのか、再度地面に拳を叩きつけて、自分の頭上を守る土の壁を出現させる。
魔法を展開する速度が早い!
短剣は土の壁を深く切り裂くが、貫通まで達しない。
ドロシーは壁に着地するや否や飛び退く。
と、同時に壁が粉砕されて斧が出現する。
『お嬢さん、勘がいいねぇ!』
ドロシーは他の突起物に着地すると、すぐさま他の突起物に向かって飛び出し、そして他の突起物にノータイムで飛び出し、それを繰り返す。
『ちょ……まっ……目が回るっ!』
相手が妨害や行動の制限の為に生み出したフィールドすら利用するとは、何でも使う暗殺者らしい闘い方だ。
ロイドさんは腕力はあるけど、動体視力はそこまでじゃないのか、左右に高速で移動するドロシーに翻弄される。
『ここで、終わったら男が廃るぜっ! オラァァァ!!』
斧を盾のように前に構えてドロシーに突進。
普通の突進かと思いきや、斧に魔法陣が浮かび上がり、斧とロイドさんを覆う土の鎧のようなものが現れる。
見たところ、防御力を大幅にアップさせる魔法なのだろう。それに、踏み込みも若干遅くなったことからかなり重くなっているので、当たればタダでは済まされない。
同然ドロシーはそんな攻撃を躱して背後に回る。
『何となくそう来ると思ったぜぇ!』
何と、突進の威力をそのまま地面に斧の面を向けて叩きつけると全方位に衝撃波と身にまとっていた鎧を土の破片に変えて発射する。
闘い方が、拡張パーツを装備してはパージするロボットみたいだとか思ってしまった。
『こ、これで終いだ』
土煙が晴れると、その舞台にはロイドさん以外いなかった。
あの攻撃でドロシーは場外に出たのだろう。
ーーそう誰もが思った。
だけど、僕だけは違った。
片膝を付けて乱れた呼吸をするロイドさんの背後から、ドロシーが地面から出現して、その漆黒の短剣を首元に当てる。
『うっそ〜ん』
ロイドさんは両手を上げて降参した。
あの一瞬で闇魔法を発動して、そのまま影に沈んでいたのだ。
今まで魔法を温存していたからこそ、ロイドさんも咄嗟にその可能性を考えらなかったのだろう。
ユリアさんにより、ドロシーの勝利が告げられて会場は歓声に沸く。
『お嬢さん強いなぁ……オイラの完敗だ』
そう言って、手を差し出すロイドさんにドロシーも手を差し出し、握手をする。
『ん……楽しかった』
ドロシーの予想外の一言に、ロイドさんはビックリした後、二カッと笑う。
『そっか、ならよかった!』
2人のやり取りに、更に会場は盛り上がる。
僕もぱちぱちと拍手送った。




