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39話 スーニャ

そんな個性豊かな2人の神聖騎士の試合を終えて、どんどん試合は消化されていき、遂に1回戦最終戦にて本日最終試合。


『模擬戦1回戦最終試合です』


舞台には、槍使いの片目に傷がある男が上がる。


『おいおい、まさか『槍の猛獣』が参加してたのか? これは相手側が可哀想だぜ』


『アイツ、各地の大会に出ては、暴れ回っているからなぁ……アイツ多分闘いたいだけで参加したんだろうよ』


『女子供も遠慮なく叩きのめすらしいぜ?』


『盗賊の首を槍に突き刺して焼いて食べたらしいぜ?』


モブ達の解説ご苦労。酷い言われようだ。最後なのはデマだと信じたい。


そんな声すら気にせず、目を瞑り物静かにしていた猛獣さんが、目を開く。


『来たか』


猛獣さんの言葉と視線に、観客達も入場口に視線を向ける。


コツ……コツ……と静寂に包まれた会場に足音が響き渡る。


姿を表すのは、スーだ。


『キレイ』


『美しい』


『エルフだ……初めて見たぜ』


開会式の時、普通にいたんだけどね! 丁度、左右前後をマッスル達により姿を隠されてたけど。


会場がスーの美貌と希少なエルフということに視線が集まる。


見慣れた僕ですら、その凛々しい姿に思わず見とれてしまうけど、朝のヨダレを垂らして僕に抱き着いて寝てた姿を思い出して、勘違いだったことに気付く。


『ようやく見つけたぞ、スーニャ』


『お久しぶりですね、ブルフさん』


舞台に上がったスーに言葉をかける猛獣さん。


それに返すスーの言葉は何処かよそよそしく、冷たい。


お互い知り合いだけど、あんまり親しい仲じゃないようだ。


『そもそも、ここまで私を追っかけて来たんですか? 気持ち悪いし、ウザイですよ? ブルフさん』


そのニコッた笑顔からは想像つかない毒を吐く。


僕に向けられたわけじゃないのに、思わずブルっちまったぜ。澪といい勝負が出来るぜ。


凍えた瞳で見つめられた猛獣さんは何を思ったのか可愛くもない頬を赤らめる。


『ふん……そうやってデレるな。本当は嬉しいあまり俺の懐に飛び込みたいのだろう? さあ、抱き締めてやろう』


ガバッと両手を広げた猛獣さんに、スーが腕を擦りながらボソッも言う。


『……気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い』


どうやら鳥肌が立ったようだ。


それを見兼ねたユリアさんが助け舟を出す。


『それでは試合をおこないますけど、構いませんね?』


ユリアさんナイス! もしこのまま猛獣野郎に言わせ続けたら、スーが試合前に攻撃を仕掛けるところだったよ。


『そこに少し条件を加えさせてくれ』


「は?」


『は?』


僕とユリアさんの声がシンクロする。


なんだよ条件って。勝手に何ほざいてんの? 何様よ? 貴様。


あまりの態度に普段温厚な僕ですら怒りを覚える。


『なりません。これは神子様の騎士団に入団する基準を図る為の試合であって、一参加者の貴方にそんな権利は与えられておりません』


ユリアさんすら苛立ち気味に言う。


「あの状態のユリアは、僕も相手にしたくないなぁ」


ユリアさんぞっこんラブな教皇様ですら、冷や汗をかいている。


思った以上にユリアさんは怒っているようだ。


そのお陰か僕が冷静になれた。


思えば、ユリアさんとスーは長い付き合いだし、友人のような関係なのだろう。


怒るのも同然だ。


『いや、この大会に文句ある訳でも、試合にイチャモンをつける訳では無い。個人的なことだ』


『個人的なことですか?』


ユリアさんが首を傾げる。


一方僕のほうは、嫌な予感を感じていた。


『スーニャ!』


『……なんですか、ブルフさん』


嫌そうに返事するのが丸分かりだ。


『俺が勝ったら、俺の妻になれ!』


『は?』


スーが殺気すら感じさせる眼を猛獣に向ける。


だけど、僕はそれところじゃなかった。


謎の焦燥感に駆られた僕は思わず叫ぶ。


「そんなの駄目ーーっ!!」


手すり乗り出し、叫んでしまった。


やってしまったことにパニックになる。


『神子様?』


『む? 神子か、どうしたんだ?』


『……主様』


会場の視線を独り占めした僕はパニック。


「あ……えっと……その……」


しどろもどろになりながら何とか言葉を引き出そうとする。


落ち着けー。そうだ、みんなポテチだと思えばいい。


……よし! ポテチにしか見えん!


「ほ、本人の意思を無視して、勝手に勝敗でスー……スーニャさんをお、お嫁さんにしようなど、最低です! 不潔です! 不純です! 貴方には、人の意思を尊重する気持ちは無いのですか!?」


何とか調子を取り戻した僕は、思いついたことをデタラメに吐く。


『そうだ! 神子様の言う通りだー!』


『そうよ! この変態! 女の敵っ!』


『引っ込めぇー! お前の出る幕じゃねーぞ!!』


『『『引っ込ーめ! 引っ込ーめ!』』』


引っ込めのコールが会場を包み込む。


当の本人は顔を茹でダコのように真っ赤にしている。


『うるせぇーーーー!!!!! お前らを八つ裂きにしてやろうかぁ!!? ああっ!?』


その怒気に会場が静まり返る。


『ふーっ、ふーっ……さあ、受けてくれるな!? スーニャ!』


「スー……スーニャさん、受けじゃ駄目です!」


『神子! お前は黙っていろ!!』


「ひっ!」


その眼力に思わず後ずさってしまう。


それを見て、ユリアさんが凄い形相で、手を上げる。


その直後、神聖騎士達が現れる。


『あはは……あはははっ』


だけど、そんな会場に場違いな笑い声が響き渡る。


発信元はスーだった。


『あはは。ブルフさん、その条件受けます』


「なっ!?」


気でもふれたか!? と、僕が再度声を出そうとするも、スーが僕の方に顔を向ける。


その頬は少し赤らめている。


僕に向かって色っぽいウインクをする。


その後、猛獣野郎に向き直る。


『私は絶対に負けませんので。そこで、私からも条件を出させて貰います』


『ああ、構わん! どんな条件でも構わないぞ? 式場は何処でも好きに選んでいい!』


既に勝ったつもりかよ。


待てよ? 魔力は普通の人には見えない。


つまり、僕がサクッとヤッちまってもバレないんじゃあ?


などと不穏なことを考えていると、スーがスパッと言う。


『私が勝ったら、今後一切私の視界内及び、大陸(・・)に居ないでください。負けたら直ぐにその条件を実行してもらいます』


『は? ふ、ふざけてんのか!? このアマァ!! 下手にしてりゃあ図に乗りやがってぇ!! 俺が勝ったらその体をめちゃくちゃにしてやるぅ!!!』


血管から血が吹きてるんじゃないかってぐらい頭に血が上ってある。


それを涼しげに受け流すスー。まじ半端ねぇ。


『では、ユリア様、合図を』


『……分かりました。スーニャ、負けないでください』


『ふふ……はい』


本来なら公平である進行役のユリアさんがスーに肩入れするけど、誰も文句を言わない、言うわけがない。


みんな考えていることは1つ。


ーーそのクソ野郎をぶちのめして!!


両者が構えをとる。


腰を屈めて、槍を下向きに構える猛獣野郎。


それに対して、スーは背筋をピンと伸ばし、細剣もといレイピアを構えず軽く持つ。


『おい、そんな構えでいいのかよ? 同じAランク冒険者でも、俺の方が強いのは知っているだろ』


『ご心配なく』


表情を歪ませる猛獣野郎と対照的に、微笑みすら浮かべる余裕を持つスー。


『それでは……開始っ!』


ユリアさんの合図に猛獣野郎はスーに向かって飛び出す。


『一瞬で方をつけてやる! 覚悟しろぉ! スーニャ!!』


早い踏み込みであっという間にスーの傍まで接近する。


『貴方は自分の死を確信したことがありますか?』


静かに、だが透き通る声。


お構い無しに、猛獣野郎は槍をスーに突き出す。


『終わりだあ! スーニャアアァァ!!』


槍がスーの胴体に突き刺さろうとした瞬間。


『私はあります』


その場に一陣の風が吹く。


『がはっ!』


次の瞬間には、猛獣野郎の後ろで細剣を鞘に納めるスーと、白目を向き倒れ込む猛獣野郎。


『ごめんなさい。そんな私を救ってくれた人に、私は全てを捧げていますので』


そう言って僕に、優しく微笑みかけるスーに見とれた。


会場ははち切れんばかりの歓声に包まれた。


歓声に包まれて模擬戦三日目は終了した。

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