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38話 2人の神聖騎士

模擬戦三日目。


序盤から会場は盛り上がっていた。


その理由は、舞台の上で水魔法を纏った両手で相手の大剣を弾き、舞台全体を駆け巡るような格闘家じみた動きをする神聖騎士が居たからだ。


『うりゃうりぁぁー!! あはは! どうしたっすか? もうへばったすか? 自分はまだまだ元気っすよ!』


大剣の一振を何度も避けでは、背後に周り一撃を加えるヒットアンドアウェイを繰り返しているのに、軽く汗をかくだけの神聖騎士と、その場から殆ど動いていないのに、汗がダラダラの巨漢の男はもはやフラフラだ。


巨漢の男が体力が無いんじゃない。


何せ、試合開始から既に30分も経っているのだ。


模擬戦始まってダントツの長期戦だ。


もし、これが普通の相手なら神聖騎士が圧倒して直ぐにも決着していただろう。


だが相手も、手練な上に、頑丈な為か時間が間延びしていたのだ。


「す、凄いタフですね、お互い……」


僕が頬を引き気味に言う。


「そりゃあ、彼は神聖騎士の中でも、ぶっちぎりの体力自慢だからね。以前は有り余る体力を剣術に注ぎ込んでいた筈なんだけどね……いつの間に素手になったんだろう?」


楽しそうに拳をぶち込んでいる姿は、無邪気な子供にしか見えない。


でも、


「楽しそうですね」


こちらも笑顔にするような魅力を感じる。


だけど、さすがの長時間に進行役のユリアさんがキレた。


『試合終了まで、10…9…8…』


『ちょ、待ってほしっすよ、ユリア様ぁ!』


無表情でカウントダウンを始めるユリアさんに、初めて笑顔以外の表情を浮かべる神聖騎士。


『…7…6…5』


現実は非常だった。


『あーもー! 分かっすよ! まだ、練習中だったから控えてたすっけど、もう使うっす!』


そうやって神聖騎士は両手を地面に付けて、クラウチングスタートの姿勢。


『……むっ』


巨漢もそれに対して、大剣を大振りに構える。


間違いなく次の一撃で決まる。


『行くっすよー。自分の必殺技! …………爆速パァーーンチ!!』


「ダサっ!」


思わず声が出てしまった。


明らかに爆速なのはパンチではなく、本人なのだが……。


思っきり爆走し、巨漢の振り下ろした大剣と水に覆われた拳がぶつかり合う。


『…3…2』


鬼か! こんな時でも冷静にカウントダウンしているユリアさんに驚く。


『おらぁーー!! 秘技! スライディング……キーック!!』


「それ、パンチだよ!?」


思わず乗り出してツッコんでしまう。


大剣の下を滑り、巨漢の懐に入り込みもう片方の拳を叩き込む。紛うことなきパンチである。


『ぐっ……おっ……』


巨漢が白目を剥き倒れる。


『ギリギリですが、勝者キント』


『いえーい! みんなありがとうっすー!』


歓声にすら負けない声量で両手を挙げて言葉を返す。


『神子様、見てくれたっすかぁ? 自分、絶対神子様に仕えて見せるっすよ! いえーい!』


ピースをしていい笑顔を向けてくるキント氏に頬を引きずりながら、ピースを返す。


「い、いえーい……」


なんか女神様を思い出したよ。


そうか、テンションがチャラ男だからか、納得。


ある意味1番の大物は盛大な歓声に包まれて控え室に帰っていった。


残るのは、舞台で白目を剥いて倒れる巨漢だけだった。





それに対して、同じ神聖騎士でありながら、寡黙に淡々と盾を巧みに扱い、相手の大斧をいなしている。


片手に持った槌は未だ振られておらず、淡い光を帯びていた。


「彼は盾の扱いに関しては聖騎士(パラディン)にすら一目置かれているんだよ。その代わり攻めることが苦手のようでね」


どうやら、相手を舐めて、攻撃をしないんじゃなくて、攻撃出来るタイミングが掴めなかっただけのようだ。


『オラオラァ! 防いでばっかじゃあ勝てねぇぞ!』


大斧を振り回すタンクトップ姿の髭もじゃが怒涛の攻撃を繰り出す。


胸やら腕やらから毛がもじゃもじゃしてで、会場の女性陣から悲鳴が上がる。


もちろん悪い意味での悲鳴だ。


無所属が参加条件だからか、やたらと厳つい冒険者が多い。若い女性なんかスーやドロシーぐらいだ。


僕の騎士団の行方はどうなるのやら。


『む……女子(おなご)に悲鳴をあげさせるとは、なんと罪深い男か。俺が鉄槌を下してやろう』


寡黙な神聖騎士の初の言葉が濃い! 一人称が拙者とかだったら間違いなく、産まれた時代間違えてたね!


そう言って、ようやく初めて右手に持った槌を髭もじゃに繰り出す。


『くらえ……正義の鉄槌!』


鈍い光を帯びた槌は髭もじゃに振り下ろされるが…………スカッ!


『なっ! 避けるか……なるほど、中々の手練のようだが俺は同じ過ちを繰り返さない! くらえ……正義の鉄槌!』


再度振り下ろされる槌は…………スカッ!


「…………ノーコン」


当たる当たらない以前に、相手を見て槌を振るっていない。ただ目の前に振り下ろしているだけだ。


そんなフェイントもなにもない攻撃が当たるわけがない。しかも大振りで振りも遅いし。


『お前、防御は一丁前なのに、攻撃は三流ところかガキにすら負けてるぜぇーがははっ!』


試合中なのに腹を抱えて笑う髭もじゃに、寡黙な神聖騎士……いな、ノーコンの神聖騎士の無表情だった顔が更に無表情? なに、あのゴゴゴゴゴとか付きそうな雰囲気。どうやって出せるん?


『……黙れ』


『あ? なんだ? 聞こえねぇーぞ? もしかして、会話のキャッチボールすらもまともに投げ返せねぇーのか? そりゃあ傑ぐっぽあっさぁっ!!?』


煽りまくった髭もじゃは、ノーコンのシールドバッシュをまともにくらい、舞台外に吹き飛ばされる。


『次、同じこと言ったらぶっ飛ばす』


もう、ぶっ飛ばしてるけど!?


「うふっ……うふふ、槌は当たらないのに、ふふ……盾は当たるん……ですね!……ふふふ」


メアが口抑えて、必死に笑いを抑えている。


どうやらツボったらしい。


「まあ、盾の面積は槌より広いですからね。ノーコンでも当たりますよ」


「……っ! ……っ!」


僕の言葉に更にツボったのか、僕の背中をガシガシ叩いて俯いてしまった。


痛い!


そのあと、歓声が響き渡る前に、そそくさとノーコン……もとい神聖騎士カルスが控え室に引っ込んでしまった。


うん、どんまい!

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