36話 開会式
そんな各国のそうそうたるメンバーが見守る中、闘技場に200人近い候補者達が中心に設置された長方形の舞台に上がっていく。
僕はその中から知り合いを見つけるべく目をこらす。
あ、スーだ。澄まし顔で神聖騎士の鎧を身に付けている。周囲の男性の視線を独り占めだ。
僕の視線に気付いたのか僕の方を見てニコって微笑む。
スーから視線を外して、居るだろう人を探す。
……分かりずらいけど、やっぱり来てるかぁ。
小柄で外套で体を覆い隠す少女、ドロシー。
彼女もフードから覗く2つの瞳を僕に固定している。
なんか怖いよー。
そんな彼女の視線から逃れるように他の参加者を眺めていると、ドロシーに近しい背丈の人達が2人居た。
子供? 同じ茶髪に同じような顔立ち、性別は違うようで、女の子の方は杖を持っており、男の子の方は斧を背中に背負っている。
2人とも周囲の屈強な男達に一切怯んでいないし、自信満々な様子。かなり腕に自信があるみたい。子供なのに凄い。
少し視線をスライドさせると今度は、スーと同じような鎧……神聖騎士の鎧を身に付けた男性2人の姿も見受けられる。
今回は神聖騎士の中でも、厳しい条件をクリアした者しか参加出来なかった筈だから、余程の実力者なのだろう。
見ているだけでも怯みそうな面子揃いだけど、そんな中で僕は本来なら居ないはずの人を見つけてしまった。
「なんで……? 騎士様」
「レイン? お知り合いでも居ましたか?」
隣に座るメアが僕に話し掛けてくる。
僕は左右に教皇様と聖女のメアに挟まれている状態だ。
「はい。僕を初めて神子と呼んだ人で、僕をルノワール王国の王都まで護衛してくれた騎士様です」
「ああ、ライオット・シュガー君だね? 彼はどうやらルノワールの騎士を2ヶ月前に辞めたようだよ」
話を聞いてた教皇様が手元の参加者リストをめくり確認する。
「え? 辞めたんですか!? ……確か平民が騎士になるには凄まじい努力が必要だったのに……」
「そうだね。特にルノワール王国は貴族が強い権力を持っているから、騎士の大半は貴族の出の者が多いから、あの若さで騎士になるには、それこそ寝る間も惜しんで鍛錬に費やしたんだろうね」
「騎士様……」
何故? 何故貴方は僕の為にそこまでしてくれるんですか?
一緒に過ごした時間は短かったのに。
僕の心の中から罪悪感が浮上する。
申し訳なさから謝罪してしまいたくなる。
そんな僕の左右の肩に手がのせられる。
「教皇様、聖女様……」
「レイン。自分を責める必要は無いのですよ? 彼はきっと全てを理解してあの場所に自分の意思でだっているのですから」
騎士様自身の意思で。そう言われて騎士様の顔を見ると、何処にも憂いは無く、何処までも遠くを見据えていた。
「君はまだ幼い。責任や重荷はいつでも1人で背負えるけど、今はその負担を少しは他者に分けてあげなさい。メサイア様風に言うのなら、もっと甘えなさいかな?」
少し冗談ぽく言う教皇様に少し心が軽くなる。
「甘いですね。私なら胸に飛び込んできなさいと言いますよ?」
「おっと、これはいつになく大胆ですね。貴女にしては珍しい。祝福したいのですけど、さすがに年齢的に」
「ロー君ぅ? 今、なんで?」
あれ、ここ北極だっけ? なんか、肌寒いぞお?
「あ、いえ、言葉のあやです。よくお似合いですよ」
「うふふ。分かればよろしい」
あの教皇様がメアに対して冷や汗をかいている……!
僕もメア相手に年齢ネタを使うのはやめよう……命がいくらあっても足りなさそうだ。
2人は僕を元気づける為に一芝居打ったのだろう。本当にありがたい。
「教皇様、聖女様……お気遣い……ううん。ありがとう!」
変に言葉を選ぶんじゃなくて、僕本心からの感謝の言葉を言うことにした。
2人はキョトンとした後に、慈愛に満ちた笑みを受けべてくれた。
「僕はいつでも君の味方だよ」
教皇様が僕の頭を軽く撫でてくれる。少しデレ臭い。
「あー! ロー君、それは私の務めですよ? 」
「あはは、僕は前から息子も欲しかったんですよね」
「微秒に私の質問を回避してません? いいから、次は私になでなでさせなさい」
そう言って教皇様の手をべしべし叩いて迎撃したメアが僕の頭を教皇様以上になでなでしだす。
うぅーん。なんだろう、羞恥プレイかな?
なすがされるままの僕の耳に観客席から声が聴こえてくる。
『キャー! 神子様かわいいぃーっ!』
『あんなに可愛らしいのに、凄い魔法を使えるなんてステキー』
『俺、神子様に治してもらったんだぁー』
『うわぁ、羨ましいなぁー。俺も神子様に治してもらえてぇー!』
『なんと羨ましい! ……オホン』
なんか知り合いの眼鏡美人さんの声が聴こえた気がする。
周囲の声で更に羞恥心で顔を真っ赤にしてしまった僕は俯いてしまう。
は、恥ずかしすぎて死ねる!
未だになでなでをやめる気配がないメアを睨む。
「もう堪忍して」
「うふふ。ごめんなさぁい」
僕にしか見えない角度で小さく舌を出したメアに毒気が抜ける。
『今から模擬戦に関する解説を行う!』
舞台の置かれたお立ち台に登ったおじいちゃんが、一切の魔法的補助なしの、大声で会場は静まりかえり、参加者達の表情も引き締まる。
『ここまで歩を進めた君たちは間違いなく優秀と言えるだろう。だが、勘違いしてはいないか? 君たちに求められたのは、我が神聖国の100年ぶりに誕生した『救済の神子』の護衛であることを!』
『救済の神子』とは、メアが他国に流布した僕の二つ名だ。
救うことを信条とする僕としては間違ってないだめ、否定もしづらい。
『君たちに求められるのは個人の武勲ではない。……ハッキリ言おう。君たちは歴史にすら残らないだろう。全ては『救済の神子』を影から護るだけの存在だ。もしも、この場に、神子の騎士からなる上がる為に来たのなら退場を進める』
ぶっちゃけすぎない!? いくらなんでも言い過ぎなんじゃ、そんなこと言ったら、ああ、何人か闘技場から去っていく。
「枢機卿も人が悪い」
くつくつと笑う教皇様はなんか楽しそう。
「そうですね。この言葉で立ち去る人達はそせん勝ち上がることも出来ないでしょうし、結果オーライという所でしょうか」
「え? どういうことですか?」
なんか2人だけ理解し合っている。
「簡単に言うとね、枢機卿は嘘は言ってないけど、本当の事も言ってないんだよ」
「……?」
意味がわからないよ。
「アーケル君はですね、まるで神子の騎士団は踏み台になる程度の地位で、そこでは一切の武勲すら挙げられないと存外に言っているんですよ。神子の騎士団は聖騎士や戦乙女と同格の存在なのに」
「ああ! そういうことなんですね」
なんということだ。僕自身が神子だから、自分を低く見てたけど、他国や一般人からしたら、大陸最大国で最高権力者である教皇様や聖女と同じ地位にいる神子の専属の騎士団だ。その地位は他国からしたらかなり高いものになる。
「他国からしたら、下手したら伯爵と同じぐらいの扱いで迎えられる可能性すらあるからね」
教皇様の言葉に、この場を立ち去った人達にどんまい! と言葉を送らずにはいられなかった。




