33話 加護習得
意識が一瞬にて覚醒する。
視界に入るのは、1ページ目が捲られた聖典だ。
「あれ……夢?」
まるで全てが泡沫の夢かのような感覚だ。
先程まで感じていた、苦しみがまるでない。
でも、確かに唇には感触は残ってあるし、女神様の声も覚えてある。
ついでに食べたスナック菓子類も。
『どうしたの? ご主人様』
『お兄ちゃん?』
「え? あっ、あーいやなんでもないよ」
一瞬話そうかと思ったけど、今のところ、身体には異常どころか、女神様から与えられた『神能』の気配すらない。
もしかして失敗したかもしれない。
何か身体に変化が起きた時にでも話そう。
そう考えて、気持ちを切り替える。
「さーて、聖典の中身を確認していきましょうけねー」
ワクワクと聖典を捲る。
軽く捲るけど、1ページ1ページにぎっしりと書かれた魔法陣とその効果、説明に目眩がおきる。
「お、おう。舐めてたぜ」
そりゃあ、最高峰の魔法ばかりだもの。
流し読みで覚えられるわけないよねー。
『す、凄いわ! ……なるほど、そこはそういう魔力の流れにすればいいわけね。 あ、ご主人様、1ページ前に戻ってくれるかしら?』
「あ、はい」
ページ捲る機再び。
どうやら、魔法だけではなく、効率や応用なども書かれているようで、精霊娘たちは釘付けだ。
『具現化系の魔法が多いのは嬉しいーねー氷魔法でも代用出来そうだよー』
『お兄ちゃんお兄ちゃん! 若返りの魔法だって! 凄いね! お兄ちゃんがおじいちゃんにならなくて済むね!』
『ご主人様っ! こ、この『殲滅光』を試射してみませんかっ!?』
皆興奮気味に話しかけてくる。
それだけでお腹いっぱいです。
あと、ライアさん? 明らかにやばそうな魔法を試しに打ってみるとか言わないようにね。
『凄い魔法の宝庫ね。でも、さすがに一朝一夕で習得出来るものじゃないわね。少なくても、基本四属性が必要の魔法は、何かしらの代用を考えないといけないわ……ふふ、久しぶりに忙しくなりそうね』
マナが嬉しそうで何よりです。
その後も、暇な度に図書館と、聖室に訪れては、ページを捲る機械になる日々だ。
もちろん頼りきる訳じゃなくて、僕も自力で習得を試みるつもりだ。
*
「じゃあ、いくよー……『祝福』!」
無機物に魔法効果を付与させる『技能』、『魔法付与』を習得して、早速試し打ち。
手に持った木の杖に光が降り注ぐ。
「成功かな? ほんの僅かだけど、魔力を感じる」
『自分の属性が感じますぅー!』
ライアが嬉しそうに言う。
『魔法付与』は、属性付与タイプと、光属性専用の『祝福』がある。
同じ属性付与なのに、なぜ光属性だけ贔屓されるのか?
それは、光属性には、アンデッド属性の魔物や魔族と呼ばれる存在に対して大きなダメージを与えることが出来るからだ。
因みに、属性付与以外にも、ステータスを微小上昇させるタイプの○○付与系もある。
筋力付与とかね。
そういうタイプは、属性を問わないだめ、こちらの付与がメインな付与師が多いらしい。
属性付与は魔力の消費も多いらしいから、魔力量が少ないと使えないという弱点もある。
聖騎士や戦乙女の装備は、『加護』が施されている最高峰の物。
『加護』や『祝福』が施されているものは『神聖具』と呼ばれたりする。
効果は、身体能力上昇系の付与全種類がかなりの上昇量になり、神聖属性という、対魔族特攻になっている。
『加護』に関しては、聖典にのみ記載されている上に、光と回復魔法の適正を持った上、あの目が痛くなる詠唱文と細かすぎで目が疲れる魔法陣を暗記しなければいけないという効果も習得難易度も最高レベルだ。
今、僕が真っ先に覚えなければいけないのは、『加護』だ。
聖騎士は教皇様が、戦乙女はメアが『加護』を施している。
だから、僕も騎士団が出来たら、僕自身がスー達が身に付ける装備に『加護』を施さなければいけない。
迫る期日に焦りながら、『加護』を習得しようと奮起する。
一つ前の『祝福』は出来るようになったから、ここからが本番だ。
そうして、ギリギリのタイミングで『加護』を習得した僕は、聖女メアと聖女候補3人組と久々の再会を祝った。
*
「すんすん…………レインから女性の匂いがします」
久々の再会にメアが匂いをかいてくる。
「き、気のせいだよ」
ほぼ毎日、僕のベットに潜り込むエルフさんが脳裏にチラつく。
そんなエルフさんは、慢心せず入団試験に向けて訓練中だ。
「お久しぶりです、神子様」
「お久しぶりです、マミリアさん」
凛と綺麗なお辞儀をするマミリアさん。さすが聖女スキーなだけあって、本当によく仕草が似ている。
「お、お、おおおおひひさささぶりりりでしゅうううううう」
「お、お久しぶりです、シリカさん。そんなに緊張しなくても、僕は何もしませんよ?」
相変わらず滝のような汗を流しては、足元にバケツを用意される。これでよく他国に赴けたよね。
「お久しぶりですわ! レイン様」
「お久しぶりです、シュシュさん」
ちょっと音程の外れた挨拶をされる。視線が泳いでるし、頬も少し赤い。もしかして、お疲れ気味なのだろうか。
それはいけない。大事なお身体だ。
早急に休んだほうがいいだろう。
「シュシュさん体調が優れないのなら部屋で休んでいた方が」
「し、心配してくれますの?」
上目遣いで尋ねられる。
ふわりの揺れる赤毛のツインテールは今日も美しいね。
「それは同然ですよ! 僕達友達じゃないですか!」
言って失敗したと思った。
今日含めて会って2回目だよ。
それで、もう友達とか何様だよ。
「あ、いえ、そういう関係になれたらなぁーって思ってまして、ダメですか?」
「そんな訳ありませんわ! 今日から私はレイン様のお友達ですわ! お二人もそうですわよね!?」
僕の手を両手で包み込んで興奮気味に言うシュシュさんの優しさに僕は感涙をじさないよ。
「はい、神子様が宜しければお友達になりたい所存です」
硬いよマミリアさん。
「わ、わ、わだすですがぁ!? み、み、みみみこしゃまあぁがふ、不快にならなければあぁぁあ」
シリカさん、少し落ち着こうや。
顔から水がドバドバ流れているよ?
水分補給したほうがいいよ。
「うふふ。私はレインのなんですかね?」
メアさんや。耳元で囁かないでください。ドキッとします。




