32話 女神様
あれ? ここ何処だ?
聖典を開いたのは覚えている。
でも、見渡す限り聖典どころか、聖室ですらない。
真っ白な空間にポツンと置かれた椅子2つとテーブル。
「ようこそ、レインちゃん」
「わっ!」
背後から耳元で囁かれた。
後ろに振り向くと、見たことない次元の美人さんが! 髪色は虹色とか次元がちがうし、服装もなんか神話とかで描かれる神々の格好そのものだ。残念ながら翼や輪っかはない。
「も、もしかして神様?」
「皆大好きぞっこんラブでラブリーな女神様よ」
いえーい!とダブルピースとウィンクをかます女神様。
威厳あるお姿なのにギャルっぽいことするなー。
「最近神界でギャルブームなのよ。その流行に乗っかってみましたーいえーい!」
「い、いえーい!」
催促されたので一緒にダブルピースとウィンクをする。
物凄い恥ずかしい!
「さてと、椅子に腰かけてくれるかしら?」
「あ、はい」
いきなりシラフに戻らないでくださいよ。
女神様が座った後に、僕も正面の椅子に座る。
「さあ、好きな物を食べなさい」
女神様がバチンと手を叩くと、テーブルの上に色鮮やかな
「ポテチ!」
「最近サワークリーム味がお気に入りなのよねー」
そう言って有名お菓子メーカーのギザギザポテチサワークリーム味の袋をパーティー開けして、僕とシェアしようとする。
「い、いただきます。……う、うまい〜懐い〜」
久々に食べたポテチは口の中で暴れる。
「しょっぱいもの食べたらやっぱりこれよね!」
再度手を叩くと、今度は有名飲料メーカーの炭酸飲料がズラリと現れる。
「さあ、久々の炭酸よ! お好きなのどうぞー」
「コーラー!……ごくごく……ぷはぁ〜うめぇ〜」
「炭酸飲んだら、甘〜いお菓子も欲しくなるわよね!」
パチン! チョコやクッキー、マシュマロとマカロンなどが現れて、傍に蜂蜜やシロップなどのドッピングが着いてくる。
「ホットケーキだぁー! いたっだきまーす!」
「たあーんと召し上がれー」
その後は、めいいっぱい美味しい物をいっぱいご馳走になりました!
あれ? 僕何しに来てんだっけ?
*
「まあ、腹ごしらえは済ませたから本題に入りましょうか?」
「あ、はい」
本題ちゃんとあったんだ。
てっきりこのままバイバイするんかと思ったよ。
「本題は簡単! 貴方が自分を偽りの神子だと思っていたようだから訂正する為にここに呼んだのよ!」
な、なんだってー!?
「偽りじゃなかったんですか!?」
「そうよ! でも本物でもないわね」
「どっちなんですか!!」
偽りじゃないけど本物でもない? わけがわからないよ。
女神様が少し困った顔をする。
「うぅーん。そうねー簡単に言えば神子という存在は人間達が勝手に作ったもので、元々神の権能……『神能』は1つも与えた記憶がないのよー」
な、なんだってー!!
今度こそ驚愕の事実に驚きが隠せません。
「じゃあ、神子になる条件とか、世界を揺るがす力とかは全て偽りですか?」
「そうよ。どんなに強大な力でもそれは『才能』の範囲内なのよー。私たち神々が使う力はその枠に当てはまらないほど絶大なのよ? 下手したら世界すら滅ぼしかねないような力を個人に与えると思う?」
「……思いませんね」
「でしょう?」
言われて初めて納得する。
異世界物を読みすぎたせいで、神様から凄い力を貰えることはよくあることと勝手に勘違いしていたようだ。
「それに君たちが初代神子と呼ぶ子はね、確かに私から色々上げたわよ? でもそれは知識であったり、ちょっとしたきっかけ程度のもので、奇跡と呼ばれることはその子の努力の賜物なの。あの子の努力を神様パワーのお陰だと勘違いして欲しくないわねー。いつも一生懸命だったあの子が可哀想だもの」
「すみません」
「君は悪くないわよ。凄い力や奇跡は神が起こしたものと割り切ったほうが、幸せなのは理解してるから」
「はい。肝に銘じておきます」
「レインちゃんはいい子ねーよしよし」
頭を撫でられた。
「そんなレインちゃんに、なんと! 『神能』をプレゼント! 」
「……へ?」
ナニイッテイルノカナ?
『神能』をプレゼント?
「な、何故ですか!?」
「だってー、初代ちゃん以降は、誰も私と話せる素質の子が居なかったんだもーん」
だもーんって、暇だったのよ? と頬ずえをつきながら言ってくる。
「それとこれとは別問題なのでは?」
「そうなんだけどねーとある事情により、君には『神能』を与える必要があるのよー別に依怙贔屓どかじゃなくて、偶然このタイミングで私と話せる素質の君が現れたからこの結末を委ねようかなってねー」
何言っているのかわからなかった。
「それにしても君はツイているのかツイいていないのか分からないわねーせっかく転生してセカンドライフを送れると思った矢先に、2つも最悪に挑まなちゃならないわけだしー」
遠くを見つめながらボソボソ言っている為よく聞こえなかった。
「まあいいわ。ほら『神能』を授けるから来なさい」
パッチこい! と言わんばかりに両手を広げる女神様。
どうしろと?
「さあ、どうしたの? 柔らかくて暖かい女神様のあちゅーい抱擁を受けれるのよ? 一生の思い出よ?」
その胸に飛び込めと?
勇気がいるな。
いつの間にかテーブルも椅子も無くなっているし、もう飛び込むしかないんだろうけど、女性の胸の中に飛び込んだことの無い僕にはハードルが高すぎる。
お母様は例外です。
「もう、焦れったい! 私も恥ずかしいんだからね! 」
そう言って女神様から僕を抱き締めに来た。
「ほらぎゅーっと!」
「うっ……く、くるしい」
思っきり抱き締められて息が詰まる。
「ここに酸素なんでないんだから、苦しいわけないでしょう?」
諏訪まじか!
確かに苦しくないや。
「貴方に女神--の権能が1つ『雷霆』を授けます」
女神様の名前の所だけ聞こえなかった。ノイズが走ったと言うよりは、元から僕では認識出来ないような感じだ。
「目を閉じてもらえるかしら?」
「え? ……あ、はい」
言われたとおりに目を閉じる。
次の瞬間、唇に柔らかい感触。
驚いて目を開くと女神と目が合った。
頬を赤らめた女神様が僕とせ、接吻をしているでは無いですか!!
だけど、僕は頬を赤らめるより先に、身体に異変が起こった。
「……っ! 〜〜っ!」
言葉にならない。
魂そのものが書き換えられているかのような感覚に襲われる。
自分という意識すらも蹂躙される。
「意識をしっかりもって! 貴方なら出来るは筈よ! 私の眷属になった貴方なら私の権能を身体に宿せる筈よ!」
女神様が倒れそうになる僕を支える。
「酷なことをしたと思っているわ。でも、…………しか無かった…………は、貴方…………ほんの少し…………生まれたの! ……お願い………………救って!」
意識が遠のいていく。
その中で、泣きたしそうな女神様の頬を撫でる。
言葉は出ないけど、僕の意思を伝える。
「やってみます」
僕の意思が伝わったのか、女神様が柔らかい笑みを浮かべる。
「頼んだわよレインちゃん」
そう言った気がしたんだ。
そうして僕は意識を失った。
何故だか女神様にはもう会えない気がしたんだ。




