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29話 聖都観光

「では行ってきますっ」


気合い十分と言わんばかりに握りこぶしを作る。


2ヶ月後に入団試験が行われるのが大々的に発表されたので、神聖国の聖都には大勢の他国の観光客やら冒険者達がやってきた。


その為、変装して聖都を観光してもバレないのではとユリアさんにおねだりして2時間だけ時間を貰えた。


もちろん条件はある。


それは、聖騎士(パラディン)を最低でも2人は付けること。


もうひとつは、変装及び、複数の防御系の魔法が付与された魔道具を身につけることだ。


オーバーな気がするけど、万が一があってはならない為の処置だ。


スーもついて来たがっていたけど、まだ正式な専属騎士では無いので、実力と実績がある聖騎士(パラディン)が護衛につく。


スーは今の所、既に合格が決まっているが、同僚になる予定の者たちの実力や人柄を見極めるため、試験に参加する予定だ。


僕の騎士団が結成されたら、護衛は騎士団に一任されるようになる為、スーには我慢してもらう。


「お気をつけて。何かあったら直ぐに助けを求めるのですよ? 勝手な真似は控えてくださいね? 興奮して駆け足などしないように……ああ、あと目立つような行動は控えて、それから……」


「わ、わかってますよ。スーニャさん落ち着いて」


目と鼻の先でハイライトが消えた目で注意事項を永遠と言い続けられるのはさすがに怖い。


「神子様に何かあったら私は後を追いますからね?」


ヤンデレ顔負けのヤン顔である。


周りの人からは心配しているようにしか見えないから微笑ましそうに見られています。


彼女の本性を知らないからニヤニヤ出来るんです。


「はい。安全第一にしますよ……だから、もう離れてよスー」


小言でスーを催促する。


さすがにさっきからキス出来そうな距離で話されるのは、いくら7歳児でもドキドキしてしまう。


性欲がない子供で良かった。あと数年経ってたら獣になる可能性大だ。


「分かりました……無事に帰ってくるのを祈っております」


手を重ねて祈りを捧げるポーズだ。


本心がどこに向いているのかを知っている為、空虚な行動に見える。


彼女は神など信仰していない。


仲間を失った時から、何も祈ってなどいないのだ。


「じゃあ、今度こそ行ってきます」


「「「行ってらっしゃいませ」」」


神殿にいた神官さん達に見送られて聖騎士(パラディン)2人を引き連れて神殿の裏口からこっそり出る。


もちろん僕含め、聖騎士(パラディン)の2人も一般市民に見えるように変装している。


僕は銀髪の髪をユリアさんと同じ茶髪にして、目の色をブラウン色に変えている。


幻影による魔法的変装と、カツラとカラーコンタクトによる物理的変装の2重構造の為、僕を一目で神子と見抜くとは至難の業だ。


既に幅広く僕の容姿が知れ渡っているのを逆手にとった術である。


余談だけど、幻影は光魔法の応用。つまりは、ライアの力なんだよね。


『ああ……自分、今ご主人様のお役にやってますぅ〜感謝感激雨あられですぅ〜はぁはぁ』


非常に興奮していて若干心配だけど、光の精霊なだけあって、制御は非常に安定しているんだよね。


『ライアさん、今、人に見せられない顔してるよー』


澪から追加情報ゲット。必要のない情報です。


あれから澪は皆と仲良くなっていった。


元を正せば皆、僕からうまれたわけだし、馬が合わないわけがないんだよね。


偶に毒舌吐くけどそういう所が可愛いんだ。


『ドMはノーセンキュー! きしょい!』


ほらね。可愛いでしょう?


『澪。ドMなご主人様を罵ったら図に乗るのだから放っておくのがいいと言ったでしょう?』


マナが中々ひどい。


『お兄ちゃんの……えぇーっと、えぇーっと……えへへ。お兄ちゃんの悪口思いつかないや。ごめんね?』


雛が天使すぎて辛い。


別にドMでは無いので無理やり罵るのはおやめ下さいませ。


皆も初の観光に浮かれているのだろう。僕もワクワクがドキドキです。


「みこ……若様、何かいいことがありましたか?」


僕がニヤニヤしているのを見られた!


お付の聖騎士(パラディン)さんから話しかけられた。


今の僕の設定は護衛を連れた商人の息子というようになっている為に、"若様"という呼び方になっている。


「その、観光は初めてなもので……つい嬉しくて」


ごまかしてはいるけど、嘘は言っていない。


「なら俺たちに任せてください! 美味しいお店を知っているんですよ」


「食べたいものがあったら遠慮なく言ってくださいね」


「はい!」


2人から歩きながらオススメを聞きながら、人通りの多い道にでる。今から楽しみだ。





「これは魔道具ですか?」


店に並べられた物から微小な魔力を感じ取った。


「坊ちゃん。これは掘り出し物だよ。新人気鋭な若手魔道具作りの斬新なアイデアから産まれた魔道具なのさ!」


ヨイショするわりには、名前は出てこないんだね。


「どんな魔道具なんですか?」


良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに語り出す店長さん。


置かれた魔道具の中から卵のようなものを持ち上げる。


「なんでも、魔力を流すと上下が別れてその中に貴重品を入れてくっつけ直すと、最初に魔力を流した者以外の魔力では絶対に開けられないようになっているんだとさ! すごいだろう!?」


ここぞとばかり実演する店長さん。


店長さんは僅かながら魔力を操作出来るみたいで、卵が上下に別れる。


その中にポケットから取り出した銅色の硬貨……銅貨を1枚入れて卵を戻に戻す。


「坊ちゃん、魔力を込めてみ」


そう言って卵を渡してくる。


手に受け取ると以外と軽い。


「もし開けられたら、その魔道具をあげるぜ?」


ニヤニヤする。絶対に開けられないと思っているようだ。


『うふふ。面白いわね? さっさと開けちゃいましょう♪』


マナがご機嫌に『魔力分析(マナアナライズ)』を発動する。


手に取った卵形魔道具の魔力のパターンを分析して勝手に僕の魔力をそれに合わせる。


あ、こら。


制止するまでもなく、卵が上下にパカッと別れる。


「なっ! ……う、嘘だろう?」


店長さんが驚愕な表情を浮かべる。


なんか申し訳ない。


目立つような真似を控えるように言われているのに、少し目立ってしまったよ。


『ご、ごめんなさい。つい、楽しくって……』


珍しくマナがしょぼんとしてある。可愛い。


『可愛い……じゃないでしょう! 人が反省しているのに貴方って人は! 』


やってしまったものはしょうがない。


それに僕も少しスカッとしたから、お互い様だよ。


あのニヤニヤ顔は少しイラッとしたからね。


『レイン君も良くニヤニヤしてるけど、私がどう思っているか教えてあげよーか?』


やめてください。死んでしまいます。


澪さんは相変わらず毒舌がキツ……サイコーだぜ。


さすがにフォローしないのはまずいと思い、店長さんを励ます。


「もしかしたら初期不良なのかもしれないですね」


「そ、そうだな! そうだよな! 銀貨3枚もするのに欠陥品なわけないよなぁ!?」


かなりお高いようだ。


そのあとは、卵形の魔道具を店長さんに返してその場を立ち去った。


帰り際に、製作者に問い詰めると言ってたので、名も知らない製作者様にご冥福をお祈りします。


さあ、時間もないしキビキビいこう!





進められた屋台の焼き鳥は非常に美味し! どろりとタップリ塗られたタレは特製故の個性を引き立たせ、若干硬めのお肉は噛めば噛むほどにタレが染み込み味わい深くなる。


聖騎士(パラディン)様のオススメのお店と聞いた時は高級レストランとかイメージしたけど、以外に庶民な食べ物が好きなんだね。


僕もこっちの方が口にあっているからいいけど。


神殿で出る食べ物は基本的に薄味だ。


まずいわけじゃない。むしろ美味すぎるぐらいだ。


でも、食べ盛りな子供からしたら、美味しさよりガツンと食べた! と感じさせる味が濃い食べ物の方が好きなのだ。


ファーストフードどか子供は毎日食べても飽きないもんね。


「お口にあったようで良かったです」


勧めてくれた聖騎士(パラディン)さんがほっとしたように胸を撫で下ろす。


「はい! 元々村人だったのでこういうのは大好物ですっ!」


「あはは。俺たちも庶民上がりですから、気が合うのかもしれませんね」


ガツガツ食べてた方の聖騎士(パラディン)さんが、口元をタレまみれにして話しかけてくる。


普段凛々しい分そのギャップに驚く。


「口元いっぱいにタレ付けて何偉そうなこと言ってんだよ。早く口を拭け」


同僚にジト目で睨まれて、でへへとハンカチを取り出そうとして、困った顔をする。


「……忘れたわ」


「たっく……ほらよ」


「わりぃ……助かる」


なんだろう。腐女子の気持ちが少しだけ、1ミリだけわかった気がする。


ガサツと几帳面の2人のイケメンの掛け合いは意外と見てて気持ち悪さを感じない。


現に遠目から女性達がちりちらとこちらを見ては口元を抑えている。


間違いない。ニヤニヤしてやがる。


異世界でも腐女子は逞しく生き延びているらしい。


そんな感想を抱きながら、今度は塩味の焼き鳥を口に運ぶ。


ウマウマ。

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