27話 再開のエルフ
怒涛の1日の翌日。
僕は、微睡みから目覚めようとした。
重たい瞼を開くと、目が合った。
「……ぅ?」
なんだ? と思い、手を伸ばして触れると。
「ひゃん!主様、朝から大胆」
「え?」
目をしっかり開くと、そこには裸のエルフ(・・・)。
触れてた手を動かすとむにゅと柔らかな弾力。
視線を手に向けると、僕の手がエルフの胸に触れていた。
「うわっ! 君、誰!?」
慌てて手を離す。
「ずっと、ずっぅーっと! お会いしとうございました」
そう言って体を起こすエルフ。
銀髪の長い髪がサラサラと揺れる。
紫の瞳には涙が溜まっていた。
エルフで会ったことのある人は、1人しかいない。
「もしかして、スーニャさん?」
「はいっ! 貴方様のスーニャです!」
スーニャさんから、眩しい笑顔を向けられる。
「あ! 主様、私のことはスーとお呼びください! 親しい方は皆そう呼びます」
そう言って、僕に這い寄る裸のエルフ。
「スーさん! ま、前、前隠してください! というか、なんで裸で僕のベッドに居るんですか!」
ようやく頭が回り出したことで、この異常事態を理解する。
「そんなことは決まっているじゃないですか。主様が寂しい思いをしていると考え、昨日の夜に潜り込んたのです!」
「不法侵入だよ! てか、聖騎士の人達の許可はどうしたのですか!?」
あの真面目な聖騎士の人達が、僕になんの断りもなく人を部屋に入れるわけがない。
「主様の眠りを妨げるようなことではないので、窓からお邪魔しました」
「なに、その気遣いましたみたいな言い方……扉から入ってこいよ!!」
「えへへ。それほどでも〜」
「褒めてないよ!?」
なんか話が通じないんですけど。
「まだ朝には早いですよ? ほら! 2度寝しましょう!」
両手を開いて、胸に飛び込んでこいみたいなポーズで待機する。
「と、取り敢えず……服着ろー!!」
「着衣の方がいいのですね! 直ぐに着ますので少々お待ちを」
目の前で服を着る。
良かった、子供で。お陰でなんも感じない。
*
「着ました! さあ、ドンと来てください! 全て受け止めます! はぁ、はぁ」
何故か興奮してらっしゃる。流石の僕もドン引きである。
「スーさん」
「呼び捨てでお願いします!」
「スー」
「はい!」
「どうしてこのタイミングで、僕に会いに来たの?」
もはや侵入してきたことを追求しても意味がなさそうだ。
「私は、主様のペット……じゃなくて、専属の騎士になるべく、神聖国に一足早く辿り着きました。そして、この国の騎士になる為の勉強をして、ようやく試験をクリアして、この国の騎士に認められました」
「おめでとう」
「ありがとうございます! 全ては主様のペットになる為なので全く辛くありませんでした」
せっかくスルーしたのに、再度ぶち込むんじゃない。
「そうして、意気揚々と主様にお会いしようとしたら、教皇猊下に止められました。主様は神子として大事な時期だから少し待って欲しいと」
教皇様ナイス! あんなシリアスな展開にこんなギャグキャラぶち込んだら、台無しになるところだよ。
「私は、日々増す主様に対する思いをおさえて、お会い出来る日をお待ちしておりました。そして、昨日の夜、次の日に主様にお会い出来る許可を貰ったのです!」
「なるほど。つまりはどの道、スーには今日会う予定だったんだね」
「そうなりますね。ですが、そんなに待てません! ですので、日付が変わった瞬間に主様に会いに来た訳です。次の日とは言われましたけど、深夜はダメとは一言も言われてませんから!」
常識的に考えて、深夜に会いにこないよ!
「じゃあ、なんで裸だったの?」
「え? 性のはけ口になる為ですけど?」
「は?」
本気で言ってます? 性力のせの文字すら無縁の子供に、何を考えているの?
というか、僕をオークとかそういう種族の子供と勘違いしてない?
普通のプリティな人間の子供だからね。
僕が渋い顔をしていると、何を察したのか聞いてもいない事を喋り出す。
「男性経験ですよね! ご安心を! 確かに人間に比べると長生きはしていますが、添い遂げるつもりもない殿方に身体を許したりはしません! 正真正銘、私は処女です! 確かめます?」
そう言って、おもむろに脱ごうとする。
「いいよ! 分かったから! 脱がなくていいから!」
「そうですか……」
なんで残念そうなんだよ。
「そもそも矛盾してない? 添い遂げる為に貞操を守ってきたのに、性のはけ口になろうとしたよね?」
「え? だって、私は身も心も魂までも、主様のものですから。矛盾してませんよ?」
スーの目が濁る。
深く吸い込まれるような底なし沼に感じる。
「で、でも、僕はそこまでしてもらうために助けた訳じゃないよ。スーが生きてくれるのならそれで良いから……」
助けた人がこの先、幸せになってくれるのなら僕は、それで満足だ。
「……かっ……こと……く……さい」
「え?」
「勝手な事を言わないで! 貴方が勝手に助けたのでしょう!? 私は頼んてない!」
肩を掴まれて、至近距離から怒声を受ける。
いきなりの豹変に僕は言葉を失う。
「私だけが生き残っても意味はなかった! どうせ生き残ったって何も無い……みんなあのクソドラゴンに弄ばれて殺された。私だけがエルフだから生き残った! 本当なら少し長生き出来ただけ……もうすぐみんなに会いに行けるところだったのに、貴方が、貴方が私を助けたから……」
彼女の頬に伝わる涙はどこまでも流れ落ちる。
僕と胸に額を押し付ける。
「分かっています……貴方は悪くない。苦しんでいた私を助けたいから助けた。そこには悪意なんかない。それでも、私は苦しいのです。悔しいのです。何も出来なかった自分が、生き残って生き恥を晒す自分が、何よりも許せないのです。……夜聴こえるのです。みんなのうめき声が、責める声が、どうしてお前だけ生き残った? 俺達、私達は苦しんで死んだのに……どうしてお前だけが生き残って新しい人生をのうのうと過ごそうとしているのかって……許さない。許さない。許さない。許さない。お前を呪ってやる。呪い殺してやる。……耳から声が離れないんです」
彼女の身体は震えていた。
恐怖のせいだけではないのだろ。
死者の幻聴が聞こえている程に彼女は余裕が無い。
この先も彼女は自分を責め続けるだろう。
だから、償いたい、生きる理由が欲しいと、僕に全てを捧げようとしたのかもしれない。
誰でも良かったのだろう。たまたま僕が彼女を助けたから、選ばれたのだ。
彼女の目には僕は写っていない。
全てを失った人の気持ちを分かったとは口が裂けでも言えない。
僕には彼女の救い方が分からない。
でも、だけど、それでも僕が必要なら、求められたのなら出来るだけのことはしてあげたい。
僕は彼女の頭を抱き抱える。
「いいよ。君が僕を必要と言うのなら、好きなだけ傍に居ても」
「……っ。いいのですか? こんな私情で近づいてきた私を傍に置いても」
「うん。苦しいなら話ぐらいは聞いてあげられる。泣きたいならいくらでも泣いていいよ。傍に居て欲しいならいくらでも一緒にいるよ。……それで、もしもいつか君が自分を許せる時が来たら、僕の為じゃなくて、自分の為に生きてね。約束だよ?」
頭を撫でるとサラサラした髪が彼女の俯く顔にかかる。
「約束を守れる日が来ないかもしれませんよ? 私は一生、このままかも知れませんよ?」
「んー。その時はその時の僕達で考えよう」
「ふふ。丸投げですね」
「だって、きっとその時の僕は、今の僕より何倍も頼れる人間になっていると思うからね!」
「自分で言います? それ」
「だね! あはは」
「ふふふ」
少しは彼女の重荷を軽くしてやれたかな?
「主様……お願いがあります」
「ん? なにかな」
「もう暫く、頭を撫でてはくれませんか? 久々に眠れそうな気がするんです」
「そっか……じゃあ、お休みなさい、スー」
日が少し登る前の時間。
長い間、眠れなかった少女は眠りに着いた。
気が付けば、僕も眠っていた。
*
「うぅーふぁ〜はふぅー」
気だるげな身体を伸ばす。
いつの間にか寝たか。
横を見るとそこにはスーの姿はない。
「夢……じゃないよね」
紙が1枚置いてあった。
『お恥ずかしい姿を晒しました。久々にぐっすり眠れました。このまま一緒に出たら、ユリアさんに何を言われるか分からないのでお先に出ます。後でお会いしましょう。…………ありがとうございました』
「現実なんだね。ふぁ〜、僕も着替える支度をしないと」
寝巻きから、祭服に着替えて、日課の卵に魔力を注ぎ込む。
「だんだん、吸い込む魔力量が増えてきたなぁー。いつ孵のかなー。楽しみだなー。どんな生き物なんだろう? 可愛いのかな? カッコイイのかな? ……虫とかだったらどうしよう」
妄想が膨れる。どんな姿をしてても、大事にしようと思う。
卵を撫でると、プワァと光るから、意思があるのかもしれない。
「ねえ。もしも、どんなに生きるのが辛くても、生きれたら生きるよね? 死を選ばないよね? もし、死を選ぶ人がいたら、僕はね、助けを求めていると思うんだ。だって、死にたくて生きている人なんでいないもん。死にたい原因があって、その人が望んでその原因を作ったわけじゃない。……だから、救えるだけ救いたいなぁ。ありがとうとか、どうでもいいんだよ。嬉しいけど、感謝されたくて助けるんじゃないんだ。僕の自己満足なんだ。だって、そうだろう? 赤の他人でも、死んだと知ったら辛い。苦しんでいる人がいると知ったら辛い。家族を失った人が居たら助けてあげたい。全部、僕が辛くて見てられないから自己満足で助けるんだ。前世、何もしてあげられなかった分、今度は見て見ぬ振りをしたくない……って、まだ産まれていない君に何を言っているんだろうね」
卵に熱弁してしまったよ。
こんな話、恥ずかしくて、あの子達にも聞かせられないからかな?
「それじゃそろそろ行くね。帰ったらたっぷり魔力を上げるからいい子にして待っているんだよ? ……末期かなぁ」
卵を毛布に大事にしまってから、僕は部屋を後にした。




