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26話 分岐点

澪が仲間として馴染んで数日、僕は図書館にて魔導書を読み漁っていた。


使えなくても、参考になるし、いざと言う時の対処も出来る。


「やっぱり、あの卵に関する情報はないなぁ」


その片手間で、空から降ってきた卵に関しても、調べてみたけど収穫はない。


その日の事をそれとなく聞いても、みんな特に変わったことは無いと言っていた。


もしかしらあの光は、無垢なる精霊のように、特定の人にしか見えないのかもしれない。


諦めて、魔導書を読むことに戻ろうとすると、ユリアさんが僕に向かって近づいてきた。


久しぶりの姿を見た気がする。


「お久しぶりです、ユリアさん」


「お久しぶりです、神子様」


軽くお辞儀をされたので、僕も返す。


「今日はどうしたのですか?」


わざわざ図書館まで来るのだから、重要な要件なのかもしれない。


「教皇猊下がお呼びです」


「教皇様が? 分かりました」


あんまり関わらないから、何か接しにくいなあ。


でも、優しそうな人だし、おじいちゃんとも信頼し合っていると感じるし、案外魔法を教えてくれるとかかもね。


「案内します」


「はい」


司書さんに手を振って、図書館を後にする。


「どんな要件なんですかね?」


「私も具体的なことは……ですが、恐らくは神子様の『神能(ディア)』についてかと」


「そうなんですか……」


緊張するなぁ。


上手く話せるかな。


でも、なんとかなるだろう。





「やあ、座りたまえ」


「失礼します」


教皇様は執務室で書類仕事をしていた。


言わてた通りに、ソファに座る。


教皇様は書類をおいて、僕の向かいのソファに座る。


ユリアさんは座らずに、教皇様の後ろに立つ。


「さてと、君を呼んだのは他でもない君の『神能(ディア)』についてだ」


やっぱりか。


どんな質問が来ても答えられるように身構える。


「君の『神能(ディア)』である『過大深化(オーバーアップグレード)』は、私の予想の範疇外の能力だよ。当初は、治療に特化した『神能(ディア)』だと思ったからね」


「は、はい」


「おっといけない、忘れてたよ。ユリア、紅茶を入れてくれ」


「畏まりました」


ユリアさんが紅茶を入れに行く。


「少し厳しい話になるけど、落ち着いて欲しい」


「……分かりました」


徐々に心臓の鼓動が高くなる。


嫌な予感しかしない。


「失礼します」


ユリアさんが教皇様、僕の順番に紅茶を入れる。


ユリアさんが元の位置に戻ると、教皇様に進められて紅茶を啜る。


やっぱりユリアさんの入れる紅茶は美味しい。気分が落ち着いてくる。


「さて、遠回しな言い方はしない。はっきり言って君の『神能(ディア)』は危険だ」


「……っ!」


「教皇様!」


「ユリア、君は黙ってなさい」


「っ!」


落ち着いた鼓動がはち切れるぐらい高鳴る。


「正直言って、君の『神能(ディア)』を求めて、大規模な戦争が起きる可能性すらあるんだ」


「な、何故なんですか?」


震える声で尋ねる。


「魔法というのは使い方1つで大きく姿を変える。今でなお、魔法は強力な力を秘めている。天候を操り、大地を揺るがし、海を割くことすら可能だ。そんな強力な魔法を君は何倍にも増幅させることが出来る。君の気まぐれで国1つ滅ぼすことすら出来る」


「ぼ、僕はそんなことしませんっ!」


何故そんな事をする必要があるのか。


そんな必要ない! 断じて。


「君がその気に無くても、君を利用とする者達はいるのだよ。君が起こした大規模な回復魔法は既に大陸中の話題の的だよ。人を癒す回復魔法ですらこの反応だ。もし、君の『神能(ディア)』の本当の効果を知ったらどうなると思う? 間違いなく、君を手に入れる為に手段を問わない連中が動き出すだろう」


「…………」


「君を責めてる訳じゃない。責めるなら人間の強欲さにだ。だが、もし君の『神能(ディア)』を求めて戦争が行われるのなら、私は君を殺すことになる」


「あ、あ……」


感じたこともない殺気を受けて、呼吸ができない。


殺す。その言葉とは全く無縁な人生を送ってきた僕にとっては凄まじい衝撃だった。


ましてや相手は神聖国のトップだ。


その気になれば、この国そのものが僕の敵になると言っているようなものだ。


詰んだ……その言葉が脳裏に浮かぶ。


楽しく生きるなど甘い考えだったのかもしれない。


「お父さん! あんまりです! 神子様はまだ幼いのですよ!? そんな、そんな言い方は、あんまりにも酷です!」


「ユリア。彼は神子になることを選んだ。その時点で年齢は関係ないよ」


そっか……似てると思ったけど、親子だったんだね。


でも、そんなことはどうでも良くて、今の僕はどうすればいいのか頭がこんがらがっていた。


「神子レイン。君には2つの選択肢がある。1つ目は、亡くなったことにして、辺境で余生を送ること。2つ目は回復魔法以外の魔法の行使を今後一切禁じて、治療の神子として生きること」


1つ目はありえない。


そんなの飼い殺しにも程がある。


じゃあ2つ目は?


比較的良さそうに感じるけど、それはつまり精霊の彼女達の存在意義を奪ってしまうのと同じだ。


そんなのダメに決まっている。


どうすれば……どうすればいい?


「君にも考える時間が必要だろう。返事は明日聞こう。ユリア、部屋に案内してあげなさい」


「……はい」





そのままユリアさんに手を引かれて、僕は気が付けば部屋のベッドに座っていた。


ユリアさんが色々励ましてくれたけど、ほとんど覚えてない。


ユリアさんは部屋から居なくなる直前まで心配してくれていた。


食事もお風呂も入らず、卵を抱えて魔力を込め続けてぼぉーっとする。


頭の中が上手く整理できない。


選択肢が少なすぎる。


1つ目なんか生きている以外の自由はない。


2つ目は、せっかくみんな僕の為に、新しい魔法などを覚えようとしているのに、それを無意味にする。


どちらも選びたくない。


明らかに選択肢が少ない。


みんなにどう説明すれば……


『好きすればいいんじゃないかしら?』


「マ、マナ! 聞いてた?」


『ええ。あんなに精神不安定になってたのよ? 気が付かないわけないじゃない。それに、私だけじゃないけど』


まさか。


『お兄ちゃん……』


『ご主人様……』


『あー大変そうだね』


みんな聴いてたんか。


『そういう事で、みんな満場一致で貴方の選択に委ねることにしたわ』


「みんなはそれでいいの?」


僕の選択で、みんなの出番が無くなる。


まだ、始まってすらいないのに。


『元々貴方から生まれたのが私達よ? 貴方が願うのなら私達はそれに従うわ』


『ヒナもね、残念だけど、お兄ちゃんが幸せになって欲しいもん! 死んじゃいやだよぉ』


『自分も先輩方に同意ですっ! メイドの幸せは主人が幸せになることなので!』


『私からはあんまり言いたいことないけどなー。でも一つだけ。選んだら後悔しないでね。……後悔したら口聞いてあげないから』


『こんな感じね。みんな納得済みよ。私も何があっても最優先はご主人様(マスター)だから』


「みんな……」


いいの?それで。


みんな許してくれるなら、この先も一緒に居てくれるのなら、どちらも以外と悪くないのかもしれない。


目を閉じてその光景を思い浮かべると、その光景の中ではみんなと一緒に笑顔の僕が居た。


そうだね……そうするのも良いかも。


………………………………………………。


「って、そんなわけあるかぁーー!!!」


思っきり叫ぶ。恐らく人生でこれ程叫んだことは無いだろう。


「それじゃ、昔と変わらない! ただ与えられた選択肢に縋り、自分から踏み出さない、臆病なままじゃないか! そんなのは、こっちから願い下げた! 僕は……僕は、悔いのない人生をやり直す為にここに居るんだ! 誰かに委ねられた人生を程々に送るために居るんじゃない!!」


「はぁーはぁー」


気が付けば魔力が漏れたしていた。


『それこそ私のご主人様(マスター)ね』


『お兄ちゃんカッコイイ!!』


『ご主人様素敵ですっ! 一生ついて行きますぅ!……ドキドキ』


『漢気あるじゃん。惚れ直したよー』


みんなも楽しそうだ。


そうだ。これは僕の人生だ。


嫌ならやらなければいい。


選びたくないのなら、選ばなければいい。


もうイエスしか言えない日本人じゃない。


ノーと言える僕になるんだ!


扉が蹴破られ、聖騎士(パラディン)の人達が入ってくる。


「どうしました、神子様!?」


「敵ですか! お下がりください……っ!」


「なんという魔力だ!」


漏れ出した魔力により、無垢なる精霊が可視化する。


「教皇様に合わせてください」


僕の有無も言わさぬ雰囲気に圧倒されたように、聖騎士(パラディン)の人達は立ち尽くす。


「お願いします」


「は、はっ!」


我に返った聖騎士(パラディン)の人達に案内されて、教皇様の元へ向かう。





魔力を抑えない。今の僕には勢いが必要だ。


自分の意志を押し通す為の勢いが。


それにはこの開放感は必要不可欠。


魔力垂れ流しの僕に、みんなが跪く。


「こちらに教皇猊下はおります」


「ありがとうございます」


扉をノックする。


「神子レインです」


「どうぞ」


「失礼します」


扉を開き、中に入る。


そこにはユリアさんの姿も。


僕を見て、驚いていた。


そりゃ、さっきまでの僕とは別人のような変わりようだからね。


「早い決断だね。もう決まったのかい?」


さすが教皇様だ。今の僕を見ても、表情一つ変えない。


「はい。決めました」


「そうか、まあ座りたまえ。ユリア、紅茶の用意を」


「は、はい」


「必要ありません」


僕の一言に場が凍りつく。


「ほう。私の言うことを聞けないと?」


凄まじい殺気に気弱になりそうになる。


だがそこであえて、1歩踏み出す。


「はい。僕は決断しました。ですので、その一言を言いに来ただけです」


「聞こうか」


殺気はそのままに、聞く姿勢に入る。


「すぅーはぁー」


深呼吸する。大丈夫。どうせ失敗しても、逃げればいいし。その時は神子じゃなくて、普通の冒険者として生きよう。


責任? 義務? んなもん、知らないよ。


元から神子なんで存在してもしなくても関係なく世界は回っていた。


僕はそもそも本物の神子じゃないし。


それに、人を助けるのに肩書きも地位も神子の称号も必要ない。


救いたいなら救いに行けばいい。


自由な方が身軽に助けに行けるし。


「僕は神子を辞めませんし、使う魔法も制限しません!」


断言する。わがままな選択だ。


提示されていない第三の選択肢を僕は選んだ。


「言った筈だよ。君の『神能(ディア)』を求めて、多くの者達が君を求めて動き出すだろう」


「そんな奴ら、跳ね除けます!」


「なら戦争は? 多くの国が君を求めて神聖国に戦争を仕掛けようとするだろう」


「僕1人で、誰一人殺さずにねじ伏せます!」


「君にはそんな力あるのかい?」


「今はありません! ですが、必ず強くなって、僕を欲する人達全員を説得(・・)してみせます!」


「ほう……説得(・・)出来るのかい?」


ニヤリと教皇様が笑う。


「します。理解出来ないのなら、見せるまでです。僕はそんな国1つに収まるような存在じゃない事を」


「面白い事を言うね。なら手始めにこの国を乗っとるかい?」


「いいえ」


僕は頭を深々と下げる。


「無知で無礼だと分かっています。わがままだと言うことも。独りよがりだということも。神子として生きるのなら我慢しなければならないのも分かります。でも、それでも、僕は、後悔したくない。全力で生きたい! 死ぬその時に、胸を張って生き抜いた! と声を高らかに宣言したいのです! ですから、お力をお貸しください。僕1人では無理なのです。ですから、もし……もしも、この愚か者を信じてくれるのであれば、僕は必ず歴代最高史上最強の神子になってみせます!」


「歴代最高で史上最強かい?」


「はい!」


言い切った。沈黙が場を支配する。


「なるほど、なるほど……あははっ! それはいい! それは最高だ! 」


教皇様が高笑いをする。


「お父さんが笑うところ初めてみました……」


娘のユリアさんも驚いている。


「いやいや、すまないね。流石はメサイア様に認められて、アーケルじいさんに溺愛されているね。計り知れないよ。()には」


「教皇様?」


もしかしてこれが教皇様の素?


「ごめんね。長く偉くふんぞり返っていると、肩が凝るね! ユリアたん、パパの肩揉んでくれない?」


「いやです」


「つれないなぁー。小さい頃は、よくパパのお嫁さんになる! って言ってくれてたのに」


「一体いつの話をしているのですか!!」


「えー。16年と8ヶ月と13日8時間前の、太陽が気持ちよくて一緒に日向ぼっこしてた時に言ってくれたじゃないかー」


「なぜそこまで具体的に覚えているのですか!」


「僕は娘の事を1秒たりとも忘れたことは無い!」


「人前で恥ずかしい事を言わないでください!!」


教皇様も人間なんだなー。現実逃避。


「まあ、ユリアの事をからかうのもこれくらいにしよう。……ゴホン。君の言いたいことは分かったよ。つまりは文句言う奴いたら力の差を教えるということだよね?」


「えぇーっと。そうなりますね?」


言い方よ。もっとオブラートにお願いします。


「そっか。それが君の選択なのだろう? なら好きにするといいよ。私は、このエディシラ神聖国は君を全力でサポートしよう」


「えっ? 良いんですか?」


こんなにあっさりと。しかも全面サポートだなんて。


「レイン君。この国はなぜ生まれたか知っているかい?」


「確か、初代の神子の願いを叶える為に……」


「そう。それが答えだよ。この国は強大な力を持つが故に、多くの者に狙われる神子を支える為に誕生したんだ」


「そうだったんですね」


「つまりこの国は君の為にある。私は君が自分の行く末を決めて欲しかったんだ。早すぎると娘には叱られてしまったけどね」


「同然です」


「確かに早かったかもしれない。1歩間違えれば君を失っていたのかもしれない。だが、聖女が、枢機卿が、なにより私の娘が君を信じていた。ならば、答えは早い方が効率がいいだろう? 人間の時間は短いのだからね」


朗らかに笑う教皇様は、まさに人の上に立つに相応しいと感じた。


それにみんな僕を信じてくれたことが嬉しい。


「はい……はいっ」


僕は胸を抑える。


鼓動の高鳴りを抑えようと。


嬉しさと感謝の気持ちでどうにかなりそうだ。


『良かったわね』


うん。


「さてと、君の方針が決まった以上は、そろそろ動き出す時間だね。と、言っても暫くは人前で回復魔法以外を控えて貰えると嬉しいかな」


「あ、そのつもりでした。今の僕は弱いですから。強くなるまでは、魔法のお披露目は我慢です」


「それがいい。さてと、今日はもう休みなさい。もうじき彼女が君に会いに来るだろうからね……癖は凄いけどいい子だよ」


誰のこと?


「分かりました。お騒がせしてすみません。お休みなさい」


頭を下げて、執務室を出る。


そこに待機していた聖騎士(パラディン)の人達に護衛されて、部屋に戻る。


ベッドに倒れ込むとウトウトしてくる。


「怒涛の1日だったなぁ」


明日からは、一気に展開が動き出しそうだ。

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