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23話 おじいちゃんと図書館

1ヶ月かぁ。


ユリアさんが多忙になり、ほぼ1日を部屋でお勉強に費やす日々。


やっぱり予想してたけど、偉い立場の人や人の上に立つ立場の人は、日々情報を仕入れて自分の知識にしなちゃいけないんだね。


これでも僕の学んでいるのは一般常識の範疇だと言うんだから凄まじい量だよ。


もはや、お勉強と休憩と、卵に魔力を注ぐぐらいしかやることない。


忙しいのか暇なのか分からなくなってきた。


ソファでぼぉーとしているとコンコンと扉をノックする音が聴こえた。


外には相変わらず聖騎士(パラディン)の人達が交代で24時間立っているから、ノック出来るという事は、聖騎士(パラディン)の人達が許可を出したという事だ。


誰だろう? ユリアさんかな?


「儂だ。アーケルだ」


「おじいちゃん? ど、どうぞ!」


何気に久しぶりだ。


「入るぞ〜おお! 孫よ久しぶりだな!」


「おじいちゃんもお久しぶりです! お元気でしたか?」


「元気元気! 孫に会えて更に元気になったぞ! ほらぁ〜凄いだろう?」


袖を捲り、力こぶしを作る。凄まじい筋肉だ。


「凄い凄い! おじいちゃん凄い!」


「そうだろうそうだろう。わははっ!」


「あ、紅茶いれますねっ! ソファに座ってください」


「うむ」


僕は部屋に取り付けられているミニキッチンのような場所に向かい、そこで紅茶の茶葉をポッドに入れて、お湯を沸騰させる。


全てユリアさんから学びました。


普通に身長が足りないので、お立ち台に立っての作業だ。


「ところで今日はどうしたのですか?」


紅茶が出来るまで時間がかかる為、おじいちゃんに話しかける。


ソファに座り、置いてあったお茶菓子を頬張るおじいちゃん。飲み込んでから僕の質問に答える。


「なに、孫が最近寂しがっていないか様子を見に来たのさ」


「あはは。ありがとうございます。確かに最近は人とまともに話をしてなかったですね……」


「まあ、あんな大事を起こしたんだからしょうがないさ」


大事とは、やはり僕の大規模の治療についてだ。


「もう1ヶ月なのですが、まだ閉じこもらなちゃだめですか?」


「そうだなぁ。儂もお前にこの国の色んな所に案内してやりたいが、やはりあんな奇跡を起こしたんだ。未だにお前に感謝を言いたくて神殿に駆け込む者は多い。中には侵入してこようとする輩もいるからな」


「うぅ……やっぱりやりすぎたのですかね」


「レインよ。儂から言えることは一つだけだ」


おじいちゃんが真剣な目で僕の目を見つめる。


「お前がやったことは、最高だ! ということだけだな! わははっ!」


「最高ですか?」


「ああ! 最高さ! いいか? 人を助ける事にやりすぎなんか無いぞ。むしろやりすぎぐらいが丁度良いのさ! だから自分を責めるな! 誇れ! 胸を張れ!そして、声高らかに俺が神子だ! と言ってやればいいのさ」


「おじいちゃん……あははっ。お陰で元気出ましたよ。あっ、紅茶が出来ますね」


嬉しさで涙が出る。


見られたくなくて、ミニキッチンの方に逃げる。


しばらく流れた涙を拭い、紅茶のポッドとティーセットを持っておじいちゃんの元へ戻る。


おじいちゃんは僕の顔を見たけど、特に言うことは無かった。


紅茶を入れておじいちゃんに差し出す。


「どうぞ!」


「うむ、頂こう。ずぅ……うまい! どうしたんだ? こんなにうまいとは思わなかったぞ!」


「ありがとうございます! 実は、勉強の合間にユリアさんに教えて貰ったんです。こういう時、自分で美味しい紅茶を入れられるようにしたくて」


「偉い! その向上心は儂譲りだな! わははっ! 気分がいいわ! ゴクゴク……ぷはぁ! お代わり!」


「はい!」


なんでも褒めるおじいちゃんとのひと時は最高に満たされた。





「まあ、頑張っている孫をな、連れていきたい場所があるんだ」


「どこですか?」


わざわざ枢機卿であるおじいちゃんが自ら連れていくんだから、凄い所なのかもしれない。


「着いてからのお楽しみだな。ほら、行こうか孫よ!」


「了解です! おじいちゃん!」


おじいちゃんと一緒に部屋を出ると、無言で聖騎士(パラディン)の人達も後ろを着いてくる。


前もって知らされてたのかもしれない。


相変わらず、みんなに頭を下げられ、道を譲られる。


それを軽い調子で手をかざすおじいちゃん。非常に渋くてカッコイイ。


僕には出来ない芸当だ。むしろ条件反射で頭を下げちゃう。


「そうやって、立場関係なく礼儀を尽くせるのはいい事だ」


「あ、ありがとうございます」


「だが、神子としては減点だな。少しは自信を持て」


「はい……気を付けます」


おじいちゃんの言葉は身に染みるものばかりだ。


的を射ているとも言える。


僕が反射的に頭を下げるのは、自分が偉いとは思ってないからだ。


人の上に立ったことがない。むしろ下の立場で頭を下げ続けた日々を送っていたからこそ、染み付いた習慣だ。


自信を持て。その一言は僕に足りないものを表している。


気を引き締める思いだ。


「うむ。いい面構えだ。流石は儂の孫だな! わははっ!」


おじいちゃんの大声にも動じない神殿に務める人達には驚きを隠せない。


これがプロか。





通った事の無い道を辿り、着いたのは大きな扉。


魔法陣が印されているので、魔法によるロックなどが掛かっているのだろう。


「さてと、着いたぞ。開けてみろ」


おじいちゃんに背中を押され、恐る恐る扉を開ける。


思った以上に軽い。


開けた先に待ち受けた光景は凄まじいものだった。


「わぁ……凄い数の本ですね」


「ああ。ここは世界有数の図書館だからな。入れるのは一定の資格を持つものか、司教以上の立場の者が許可した者だけが入れる場所だな」


「もっと早く来てみたかったです……」


流石に1ヶ月は退屈だった。


「お? ユリアからはお前は、最初読み書きすら出来ないと聞いたぞ? その時に来ても意味はなかろう?」


「……そうでした。僕は最近ようやくまともな読み書きが出来るようになったばかりでした」


「いや。逆に早すぎるぐらいだがな。1ヶ月で基本的な読み書きは習得したと聞いたぞ? 流石は儂の孫だな! わははっ!」


「えへへ。照れますね」


「さあ。ここにある本なら好きなだけ読んでいいぞ」


「本当ですか! い、いつでも?」


「そうだな。勉強も十分しただろうし、ユリアからはこれからはここで過ごしてもいいように言っとくぞ」


「ありがとうございます! おじいちゃん大好き!」


「だ、大好きだとぉ!? これぐらいならお安い御用だ! これからもじゃんじゃん頼ってもいいんだぞ?」


「はい!」


「うむ。名残惜しいが儂も忙しいからな。後のことはここの司書に聞くといい」


「分かりました。お仕事頑張ってください!」


「おうよ! ……って、そうだ。あの奥の扉には入ってはいかんぞ。あそこには世界各地から集められた禁書があるからな。中には中身を見ただけで即死魔法が掛けられている魔導書もある。気を付けるようにな。では、また会おう孫よ! わははっ!」


そのまま、立ち去っていく姿を見送る。


さりげなくヤバい情報を置いてかないでよ。


即死とか怖すぎるんですけど。


とりあえず、あそこには近寄らずに、僕は本の物色を始めた。


「何かお探しですか? 神子様」


眼鏡を掛けた男性の司書の人に話しかけられた。


「ええっと、魔法にまつわる本はありませんかっ!」


何となく探し回ろうとしたけど、予想以上に広いから、丁度いい助け舟だ。


「なら、こちらになりますね。ご案内します」


「ありがとうございます」


「いいえ。当然の事をしたまでですので」


物腰が柔らかく、接しやすい。


案内されて向かったのは少し奥側の本棚。


「ここが魔導書の本棚になります。ごゆっくりとどうぞ」


そう言って離れていく。


出来る男という感じだ。


他の人みたいに僕に深い感情も抱いていない感じだから話しやすいや。


「ワクワク止まらない!」


『同じくよ!』


『どんな回復魔法があるかなっ!』


『よ、ようやく自分の手番がありそうですねっ! ……わくわく』


みんなもテンションが高い。


ようやく、新しい魔法を習得出来るのだから無理もない。


いざ参らん! 魔導の深淵に!





「読めん!」


古くて過ごそうなやつを手に取っては開いてみるけど、一切読めない。


どうやらここにあるのは古い魔導書ばかりで、専門知識がないと読めないようだ。


マナ達も、僕の知識を元に生まれている為に、僕が読めないと彼女達も読めない。


「どんな本でも読める『才能(ギフト)』があればなぁ」


無いものねだりをしてしまう。


「比較的新しい魔導書も、100年ぐらい前のやつっぽいし」


どれが回復魔法でどれが光魔法の魔導書か分からん。


それに、恐らく魔法を覚えるには、僕の場合は魔法陣を記憶する、魔法の効果を理解する、そして魔法の名前を知るという3つの条件が最低ラインらしい。


これは、マナ達が教えてくれた新情報だ。


「困った時は司書さんだね」


「呼びました?」


「わっ! お、驚きました……」


「申し訳ございません。昔から私は存在感が薄いもので」


「そ、そうなんですね」


「それでご要件は?」


「あのですね。魔導書が読めなくて……」


何か恥ずかしいな。


じゃあなんでここ来たんだよとあきられそう。


「そうですか……なら、いい魔道具があります。少々お待ちを」


そう言って、すぅ……と居なくなる。


まじで消えていくの見えなかったぞ。


『あれは『才能(ギフト)』か『技能(スキル)』だと思うわ。どちらにせよ、只者じゃないみたいね』


「そうだね。でも、おじいちゃんが頼れと言った人だからきっといい人だよ」


『そうね。あの孫馬鹿なおじいさんが貴方を傷つける存在を傍には置くとは思えないもの』


「あはは。血は通ってないのにね」


本物の孫じゃないけど、本物の孫のように接してくれてそれだけで僕は嬉しい。


「お待たせしました」


「うわっ! って、なんで背後から話しかけるんですか!!」


「失礼。()なもので」


「そ、そうなんですか。なら、しょうがないですね。それでそれは?」


「はい。『なんでも読める君』です」


「……それがその魔道具の名前ですか?」


「はい。そうなります。変ですか?」


「あ、いや。独特なネーミングセンスですね」


「ええ。私もそう思います。ですが効果は凄いですよ。ささ、お掛けになってみてください」


そうやって手渡されたのは、眼鏡である。


レンズと金属部分が細かい文字で埋め尽くされている。


「全てとはいきませんが、おおよその文字は読めるようになる筈です。では、まだ何か御用があればお呼びください」


すぅ……と消えていく。


これからここに通うという事は、あれに慣れなちゃいけないんだね。


『そんな事より、早く読みましょう!』


『お兄ちゃんはやくはやく!』


『ご主人様! 自分にも存在意義をっ!』


「はいはい。さて、リトライだ!」

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