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19話 聖女候補の少女達

その後、役目を終えて、大きすぎる大浴場で枢機卿のおじいちゃんと一緒に湯船に入っていた。


その際に、枢機卿の体が傷だらけでびびった。


「その傷は治さないのですか?」


「これか? これは儂にとっては生きた証で思い出のようなものだな。忘れたくないのさ……自分の行ってきた事を、歴史をな」


その目には哀愁のようなものを感じた。


「いつか」


「ん?」


「いつか枢機卿様の昔話を聞かせてくださいね」


この人から沢山学ぶことがある予感がするんだ。


「そうだな。いつか儂の武勇伝でも語ろうか! ワハハ」


豪快に笑う姿はかっこよく見えた。


僕もこんな歳の取り方をしたい。


「なあ。神子よ」


「なんですか?」


「枢機卿様なんか他人行儀な呼び方はやめんか。儂の事は親愛なるおじいちゃんと呼ばんか!」


いきなりすぎる!


「わ、分かりました。……おじいちゃん」


「うむ。いいな! その響き。もう一度言ってはくれまいか!? 」


「お、おじいちゃん!」


「もう一度!」


「おじいちゃん!」


「もう一声!」


「おじーちゃーん!!!」


「なんだ! 孫よぉぉ!!!!」


貴方が呼ばせたんでしょうが!


枢機卿もとい、おじいちゃんとは仲良くなれた気がする。


その後は、おじいちゃんとご飯を一緒に食べてから、シスターの人に豪華すぎる寝室に案内され、そのまま眠りについた。





翌日。


「……き……て……」


誰かが呼んでいる。


「お……てく……さい」


今度は体を揺らされる。


「起きてください。神子レイン」


目を開くとそこには


「わぁ! せ、聖女様!? 」


聖女様が眼前に居た。


「おはようございます、神子レイン」


ニコッと花が咲くような笑顔を向けられる。


「お、おはようございます聖女様」


何故聖女様が僕の寝室にいるのだろうか。


後ろを見ても誰も居ない。


神聖国のトップの1人が、1人で彷徨いて大丈夫なのだろうか。


「な、何か御用でも?」


人形みたいな綺麗な顔のせいか直視出来ない。


「うふふ。実は貴方に会ってもらいたい方々が居るのです」


「会ってもらいたい方々ですか?」


わざわざ聖女様自ら紹介するという事は、すごい偉い人達とか?


教皇様だけではなく、聖女様にも僕に対する試練があったのか!


気を引き締める。


聖女様がチラッと僕の腹部に目を向ける。


そして僕の目に視線を戻す。


「扉の先でお待ちしてますね」


「…………」


神子になって2日目で挫折しそうです。





「こちらの彼女達が聖女候補になります」


聖女様に連れられ神殿の応接間に着くやいなや、紹介された。


先程までソファに座っていたのだろうが、聖女様がノックして入った時には既に直立して行儀よくしている3人の少女。


年齢は僕と同じぐらいか少し年上。


一つ言えるのは、全員美少女。


前世で1度も会ったことないレベルの美少女。


だが僕は耐えた。何には分からないけど。


見た目は十歳だけど、精神年齢は三十五歳だから、さすがにロリに興奮するほどロリコンではない。


それに聖女候補(・・・・)だと?


待ってよ。聖女様はまだ10代でしょう?


気が早いと思うけど。


それとも、聖女は20代に差し掛かると、引退する必要があるの? アイドル並の寿命じゃん!


僕は思わず聖女様を見る。


聖女様は首を傾げたが直ぐに僕が何に大して疑問を抱いているのか分かったようだ。


「うふふ。彼女達の誰かが直ぐに私の代わりになる訳じゃないですよ? 備えがあれば私が死ぬようなことがあっても安心でしょう? 聖女という立場である以上、そういう覚悟も必要なのですよ」


怖い言い方だ。


自分が死ぬことを恐れていないように感じる。


どのように生きればそんな考えに行き着くのか。


聖女様にとっては普通の事でも、僕には我慢ならなかった。


「そんな言い方は止めてください」


「え?」


気が付けば僕はそんな事を言っていた。


「聖女様がどのような人生を過ごしてきたかは知りません。もしかしたら僕の想像の出来ない経験をしてきたのかも知れません」


でも1つ言えるのは命は大事だ。


かけがえのないもので代替が効かないものだ。


「僕の目の前にいるのは、今の聖女様なんです! 死ぬとか言わないでください!! 何かあったら必ず僕が何とかします! 救って見せます! 治して見せます! だって……だってその為に僕は神子になったんです!」


死ななければ救える。


諦めなければ、運命は変わる。


僕が変えてやる。


僕の啖呵に聖女様がちょとんとする。


後ろの聖女候補の子達も同じだ。


分からない。分からないよね。


1度、死を体験した僕にしか分からない。


死ぬということは、生きている間にどれほど覚悟を決めていても、無意味と思えるほどの恐怖なのだ。


体の感覚が無くなる。目が見えなくなる。何も感じなくなる。気が狂いそうな永遠の静寂。自分が自分じゃなくなる。消えて無くなる。無になる。


「あははっ」


聖女様が不意に笑った。


上品な笑い方ではなく、なんか年相応な笑い方だ。


不思議とこれが彼女の素だと思えた。


聖女候補の子達も驚いている。


「ご、ごめんなさい。だって貴方、それではまるで告白のようではないですか」


「あ……」


気が付かなかった!


確かに、これでは聖女様を助かる為に神子になったように捉えられる。


は、恥ずかしい〜っ!!


「ち、違います! 聖女様も含めて助けられる人は助けたいという意味です!」


「あらっ! 残念」


そう言いながら楽しそうだ。


聖女様が僕の耳に口を近付ける。


「私、生まれて初めての告白だったんですけどねー」


「ご、ご冗談を!」


「うふふ。ではでは彼女達を放置するのも可哀想なので紹介しますね」


はぐらかされた。


「……でも、ありがとうございます」


小さくボソッと呟き、聖女様は僕から離れ、聖女候補の子達の後ろにまわる。


僕から見て左端の子の肩に両手を乗せた。


「自己紹介してみましょうか」


「はい! 聖女様」


手を胸に当てて僕に向き直る茶髪美少女。


ポニーテールがよく似合っている。


「初めまして神子様。聖女候補のマミリアと申します。『才能(ギフト)』は触れた相手を癒す力『接触治癒』です」


そう言って、僕の前まで近づき、


「失礼します」


手を握ってきた。


柔らかい手だ。


その次の瞬間、僕の体の中からぽかぽかと暖かくなり、疲れが癒えていく。


「失礼しました」


手を離されると、その暖かさが消えた。


「凄いでしょう?」


「は、はい。魔法を介さない治癒ですか……すごいですね」


むしろ彼女が神子やれば良くない?


触れるだけで治せるとかチートじゃん。


「彼女、マミリアさんの能力は『神能(ディア)』にはなりえないのですか?」


「へ?」


僕の発言にマミリアさんが驚く。


「め、滅相もございません。私めが神子など!」


マミリアさんががばっと土下座し始める。


え?……え?


「今のは神子レイン、貴方が悪いのですよ。既に貴方は神子なのです。そんな貴方が自分以外を神子に推薦するような発言はいけません。それでは貴方を神子と認めたエディシラ神聖国が間違っていると言っているようなものですよ?」


聖女様の発言にようやく自分の失言に気づく。


「も、申し訳ありません!」


「聡明な貴方とは思えない発言なのですが、理由を聞いても?」


「僕は小さな村で生まれました。そこには魔法を使える人はほとんど居ませんでした。ですので基準が分からないのです」


僕の発言に今度は真ん中の赤毛のおさげの子が反応する。


「なるほど。つまり『神能(ディア)』と『才能(ギフト)』の違いが分からないのですね?」


「は、はい……。正直に言って、魔法を使わずに魔法に匹敵する治癒能力を持つマミリアさんが神子なりえないのがわからないのです。僕の力は魔法を介さないと使えないものなので」


「神子レイン。貴方は自分の『神能(ディア)』を何と呼んでいるのですか?」


「え? ああ、その……『過大深化(オーバーアップグレード)』と呼んでいます」


何これ恥ずかしい。


厨二病が自作の呪文を人前で唱えるぐらい恥ずかしい。


「聞き慣れないですね。効果を聞かせて貰えませんか?」


来た。


この質問は必ず来ると思っていた。


神子の証である『神能(ディア)』の能力を確かめないわけが無い。


何と言おう。普通に魔力を圧縮させたものです。など口が裂けでも言えない。


上手く誤魔化さないと。


「簡単に言えば、魔法の効果を何倍にも膨れ上がらせる力です……かね」


こうとしか言えない!


変に嘘言って、出来ませんでしたとかじゃアウトだ。


それに嘘を言っている訳じゃない。


今の所、回復魔法にしか使ってないけど、他の魔法にも使えると思うんだ。


「さすが『神能(ディア)』ですね。桁が違います」


え? マジで?


「魔法の効果を上げるには、本来更に上位の魔法を使うしか方法はありません。それに私が聞いていたよりも恐ろしい力です。私が聞いていたのは、回復魔法の効果を何倍にも増幅させるものでしたから。まさか、無制限とは……」


聖女様が考え込む。


「貴女達、今回聞いた神子の能力を公言する事を禁じます」


「「「はい!」」」


「神子レイン」


「は、はい」


「貴方も、『神能(ディア)』の効果を教皇猊下とアーケル枢機卿以外には言わないように」


「わ、分かりました」


やっちまったよ。回復魔法しか増幅出来ませんで良かったんだ。


無駄にハードル上げちゃった。


まあ、怪しまれるよりはずっといいか。


「さて! では貴方の疑問にお答えしましょう」


聖女様が切り替えるように手を叩き、笑顔を僕に向ける。


「簡単に言えば、上限が違います」


「上限ですか?」


「ええ。マミの『接触治癒』では人体の欠損は治せません。それに魔力も回復魔法より若干低めなだけです」


「そうなんですね」


「確かに魔法を介さないのは『才能(ギフト)』の強みですけど、魔法ほど多才ではないのが弱点とも言えます」


「よく理解出来ました。ありがとうございます」


「どういたしまして。では次に行きましょうか」


次に真ん中の薄緑色のおさげ美少女の肩に手を乗せる。


「は、はじめまちゅて神子しゃま!」


噛み噛みである。微笑ましい。


「そんなに緊張しなくても彼は何もしませんよ。ほら深呼吸」


「は、はひ! すーっ! ふーっ! すーぅ! ふーっ!」


こんな力強い深呼吸初めて見た。


「ほらもう一度」


「は、初めまして神子様! シリカと言います! え、えーっと、あ、おのぉ……あ! 『才能(ギフト)』は『聖水作成』です!」


やり切った顔をしてる。


「シリカ。効果をまだ言ってませんよ」


顔に汗がダラダラと流れる。


「こ、効果は……私のお汁で元気になります……」


「ん?…………ん!?」


どういうこと!?


「それでは彼が勘違いしますよ。私から説明しますね」


「よろしくお願いします」


助かった。危うく18禁な妄想するところだぞ。


「彼女の体液は全て漏れなく、聖水になります」


「はぁ……聖水ですか?」


「そうです。聖水とは聖職者が何日もかけてお祈りして作られるものです」


「お祈りで聖水が出来るのですか?」


「出来ません」


え、えぇ……。


「正確には回復魔法を使える者が何日も水に回復魔法をかけ続けることで出来る回復薬です。傷の治癒なら回復薬(ポーション)などが有名ですが、聖水は傷の回復だけでなく、病気にも効果があるのが特徴ですね。作り手間が非常にかかるので数は少ないです」


聖水のイメージは万能薬かな。


「シリカはこの『才能(ギフト)』の効果で自由に体液を出せます」


体液を出せるか……なんかいやらしい。


「体液とは血なども含まれるのですか?」


「はい。また血液や汗などで効力も変わりますね。一番効力があるのが血液で、一番低いのが汗になります。他の体液は考えないで下さいね」


「は、はい!」


釘を刺された。そりゃ美少女の体液と言ったら……いかんこれ以上は彼女が可哀想だ。


「疑問が1つ」


「なんでしょう」


「体液を聖水に変えるんですよね。ならシリカさんは大丈夫なのですか? 汗などのかきすぎで体調とかが崩れたりしませんか?」


さすがに倒れるまで搾り取る訳じゃないだろうけどやっぱり無理してると心配する。


「どうなのですか? シリカ」


「ふぇ?」


明らかに自分の役割を終えたと言わんばかりにぼけぇとしてたシリカさんに不意打ちを仕掛ける聖女様。容赦ねぇ。


「神子レインは貴女の心配をしているのですよ?」


「そ、そそそそんな! わ、わわわたしゅなんら! しんふぁいされるなどおおお! おしょれおおでしゅうぅぅー!!」


落ち着け。汗が湯水のように床に零れてるぞ。


それを慣れたように、左右の子達がどこから取り出したか分からない壺に収める。手慣れすぎだろ。


「ごめんなさい。この子はこの体質のせいで人見知りになってしまったのです」


「いえ! 気にしてませんよ」


「代わりに答えますと、ある程度は大丈夫です。半分以上が魔力で出来ていますので、無理に出そうと思わなければ体調を崩したりしませんし、聖水は必要な時に少し力を貸してもらうぐらいですので」


「そうですか……なら、良かったです」


無理をしてないのならいいや。


それにしても、自分の体液に癒しの効果が備わっているのか。


半分以上魔力。僕も自分の汗や血に魔力を込めたらなんか効果あるかな?


いつか試してみよう。


「さあ。次に行きましょう」


最後に右端の縦ドリルの赤髪ツインテールというもはやお察しの美少女の肩に手を乗せた。


自信満々に裾をツマミ、優雅なお辞儀。


「初めまして神子様。(わたくし)は、ルノワール王国、シャーテル公爵家令嬢……シュシュ・シン・シャーテルと申しますわ。(わたくし)の『才能(ギフト)』は『浄化の乙女』。無知な神子様に説明致しますと、かつて聖女になられた方と同じ『才能(ギフト)』ですの。効果は聞いての通り(わたくし)がその場に居るだけでありとあらゆる病は治り、邪悪な存在はたちまち浄化されてしまいますの」


お、おお。予想通りの高飛車っぶりだ。


無知って言われちゃったよ……その通りだけどね!


それに、かつての聖女が持っていた『才能(ギフト)』なら彼女が選ばれたのも納得だ。


「それはすごいですね」


「うふふ! 同然ですわ!」


上機嫌で何よりです。


「確かに強力な力ですが、使えこなせればの話です」


「聖女様! (わたくし)は十分に使えこなせますわ!」


「かつて『浄化の乙女』を持つ聖女は、普段から半径100メートルを、そして意識すれば10キロもの広さを浄化出来たとされています。シュシュ貴女は?」


「……1メートルですわ」


「そうですね、普段は1メートル。意識しても100メートルに及ぶかどうか。貴女の気高さは素晴らしいのですが、少し傲慢な態度は短所です。分かりますね」


「はい。以後気をつけますわ」


「それに、貴女はもう貴族ではありません。今の貴女は神聖国の聖女候補です、シュシュ」


「うぅ……はい」


なんか悪いことをした子供を叱る先生みたいだ。


なんか可哀想だけど、聖女様は正論しか言ってないからなー。


「最後に」


まだあるの?


「彼は神子です。無知呼ばりはあまりにも失礼に値します。謝罪をしてください」


僕は気にしてないよ!?


「あ、大丈夫ですよ? 無知なのは本当の事なので」


「そうは行きません。神子はエディシラ神聖国において象徴であり始まりなのです。ですので神子を侮辱するような発言は決して許してはなりません」


「は、はい。分かりました」


反論の余地もありません。


シュシュさんが僕に向き直る。


さっきまでの自信満々な姿はどこやら、ちっさくなっている。


「神子様。この度は、無知などと失礼な発言をした事を謝罪致しますわ。……申し訳ありません」


深々と下げられた頭と、地面に触れてしまったツインテール。


ケジメといえ、なんか可哀想だ。


「はい。謝罪を受けました」


しゃがみ彼女のツインテールを持ち上げる。


「綺麗な髪が汚れちゃいますよ」


「あ……あ、ありがとうございますわ」


少し頬を赤らめるシュシュさんは可愛い。


「さて自己紹介はこれぐらいにして、お昼にしましょうか」


そう言えば起きてから何も食べてないや。


あと、もうお昼なんだね。寝すぎた。

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