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18話 神子になりました

枢機卿に認めてもらえたからか、司教の人達からも羨望の眼差しを向けられる。


みんな中年のおじさんとおばさんだからあんまり嬉しくないけどね。


「神子様、あれほどの力を放出して大丈夫ですか?」


ユリアさんが心配そうに話しかけてくる。


「あ、ああ……大丈夫ですよ?」


むしろ心地よかったぐらいだ。


「なら、いいのですが……」


心配してくれる人が居るのは嬉しいものだ。


お母様とお父様も僕のことを心配しているだろうなぁ。


いつか会いに行こう。必ず。


「それでは、神子。こちらへ参れ」


さっきから背景に溶け込んでいた大きな乗り物に誘う枢機卿。


馬車の上半分が取り除かれ、これでもかと多くの装飾品で飾られためちゃくちゃ派手なヤツだ。


「お主はこれから神聖国に住まう信徒達にその姿を晒すことになる。1度その道を歩めば、もう後戻りは出来ん。それでもいいのだな? 今願えば、普通の幼子に戻る事も出来よう」


ここでまさかの選択肢。


この人は僕を神子と認めた上で、僕に生き方を選ばせてくれているのか。


本当に優しい人だ。


普通に子供に戻る。


両親が居て、友人が居て、穏やかな村で過ごす。


そして大きくなったら、冒険者になるべく町へと向かい、そこで仲間を見つけて、多くの冒険をして、酒場でバカ騒ぎして、好きの子が出来て、結婚して、子供が出来て……。


異世界に行けるのなら、多くの人が願うありふれた物語。


でも何よりも尊い一生。


僕はそれを手放すのか?


誰からも束縛されない自由を自ら捨てるのか?


ああ。そういう物語(・・)もあったのだろう。


だけど、今の僕は普通には戻れないし、戻らない。


ここに来るまでは仕方なくだったけど、これからは自らの意思で。


人を癒すことに喜びを覚えた。


人を治すことに生を感じた。


人に感謝されることに生きがいを見つけた。


そして……


人に求められることに存在意義(レゾンデートル)を見い出した。


何も無い僕が、人を救える存在になれるのであれば、一生ぐらい大したことないんじゃない?


何せ僕は転生者だ。


生まれ変わったのだ。


つまりは終わりではない。


半端なことはしたくない。


この一生を神子として生きよう。


そうやって自分の気持ちの整理を完了させた。


胸にあったふわふわとした気持ちも、焦りも不安もない……わけじゃないけど、少なくても後悔はしないだろう。


「はい。僕は神子になります。みんなが求めるような存在になれるかは分かりませんけど、それでも僕が出来ることは精一杯頑張るつもりです。……これが僕の答えです」


じっと瞳を見つめられる。


僕も見つめ返す。


「そうか……うむ」


天を見上げ佇む枢機卿の姿は何処か神秘的だった。


「ユリアよ」


「はい」


「誠によくぞ、神子を連れてきた。この者は正しく神子だ」


「はい……」


ことある事にしんみりするのやめてよ。


「では乗るといい。儂らは先に神殿でお主の到着を心待ちにするとしよう」


促され、背中を押されて神輿に乗り込む。


振り返ればユリアさんも枢機卿サイドに立っている。


つまりはここからは1人で挑まなくてはならない。


ああ震えるね。武者震いだといいな。


「神子様。お待ちしております」


ユリアさんが頭を下げる。


他の司教の人達も暖かい言葉を掛けてくれる。


「最後に、神子よ。さすがにそのままでは、普通の幼子にしか見えん。だからと言って、先程の力を解き放つのはやり過ぎだから、何とか工夫して神子の存在を信徒に認めさせつつ、威厳も保ち、神秘的な演出を忘れずに何とか頑張ってくれ」


サムズアップしてくる枢機卿だけど、その要求はハードすぎて頬が引きずる。


「枢機卿! 神子様はまだ幼い子供なのですよ!? なんという無茶を言っているのですか!!」


常に味方であるユリアさんからのツッコミに安心感すら感じる。


いいぞもっとやって。


「わはは! 今のは冗談だ。と言ってもそのままじゃ、可愛いらしい幼子のお披露目になるぞ?」


「可愛いのならばいいではないですか!」


ユリアさんそれは何か違う。



「ユリアさん。大丈夫ですよ。何とか頑張ってみます」


「神子様……分かりました。ご武運を」


「はい!」


やるって決めたのならば、やりきるしかない。


僕にいい案がある!


魔気(マキ)』を使おうと思う。


これならば色々工夫出来ると思う。


「では聖騎士(パラディン)達よ。神子を頼んだぞ」


「「「はっ! この命に変えても!!」」」


枢機卿達が馬車に乗り込み先に首都に向かっていく。


残ったのは、神輿に乗る僕と、僕を護衛し神殿まで連れていく聖騎士(パラディン)の人達。


「では神子様。もうじき出発しますので、今一度準備を」


「はい」


僕を気を使ってか、時間をくれる。


目を閉じて構想を練る。


魔気(マキ)』は普通に使うと半透明な膜のようなもので、非常に目立たないし、そのままじゃ、魔力を見れる人じゃなければ見えない。


誰にでも見れるようにして、なおかつ神秘的なオーラみたいにするのには、もうあれ(・・)を使うしかない。


そういつも必要の時に必ず役に立つ『過大深化(オーバーアップグレード)』だ。


でもそれは魔法の効果を爆発的にはね上げるものなので、その1歩前の段階の『魔力圧縮』を使うことになる。


こんな形で使うことになるとは。


魔力を身体から放出する。


でもそれはさっきまでみたいに放出するだけじゃなくて、身体に纏わさせるようにする。


これだけじゃただの『魔気(マキ)』だ。


ここから魔力の放出と同時に『魔力圧縮』も行う。


なれない同時作業だけど、魔力で出来た騎士だとかを作っていた僕には、出来ないことも無い。


魔力の膜が膨れては圧縮され、徐々に魔力の膜が色合いを放つ。


「……っ!」


聖騎士(パラディン)の人達も気が付いたようだ。


「何が起きている?」


「分からない。だが魔力を可視化出来るとは……まさか」


「あの奇跡をその身に宿しているのか……?」


「……美しい」


よし、こんなもんかな。


目を身体に向けるとしっかりと光を放っていた。


これならみんなにも認めてもられるかな。


「お願いします」


「は、はっ! 出発だ!」


かなりキツイけど、慣れれば便利そうだ。


神輿が白馬に引かれ、眼前に見える首都へと向かう。


魔力で身体を覆っているからか、精霊なども見えるようになっている。


精霊がふよふよと僕の肩や頭に止まったりして、何だか賑やかで癒される。


円球の精霊は最下級精霊で意思や言葉を発することが出来ないけど、悪意のある人には決して近ずかないんだとか。


つまり、僕は少なくても精霊からは嫌われていない。


運が良ければ意思のある精霊と契約して、精霊魔法を使えるようになるらしい。


いつかそういう精霊に会ってみたいものだ。


首都の門前まで辿り着く。


そこには聖騎士(パラディン)の人達とは違う鎧を身に付けた人達が居て、綺麗に整列していた。


その人たちは放心したように僕を見つめている。


そのまま神輿は首都へと入る。


そこには見渡す限りの人の群れ。


少なくとも僕が姿を表すまでは、賑やかな声が聴こえてたんだけど、今は静寂に包まれている。


やっば……演出が足りなかった!?


と、思ったら。


わーっ! と歓声に辺りは包まれた。


「素敵! 神子様ーっ!」


「おお! ありがたや、ありがたや」


「ママー! みこしゃまきれー!」


「ええ。本当に綺麗ねぇ」


「神子様ーっ! こっち向いてくださーいっ!」


ちらっ。


「きゃー!!! 神子様がこっち見たぁ!! もうあたし目を洗わないぃぃーー!」


「何と凛々しいお姿か!」


「いや神秘的だろう」


「美しいの間違いだろう」


「なんだと!? 」


「あ!? なんだ!?」


「いや。全部だろ」


「「「それだぁ!!」」」


至る所から賞賛やら褒め言葉やらが飛び交う。


照れくさくて顔が真っ赤になりそうだけど、踏ん張る。


威厳、威厳。


でも手を振ったりしても良いのかなぁ〜?


いやいや。威厳を考えると澄まし顔で居た方がいいのかなぁ?


ヤバイ……ニヤける。


そのまま神殿までの道のりは歓声に包まれていった。


どうやらみんなに認めてもらえたようだ。





神殿が目前までに迫った。


まるでパルテノン神殿のような作りの建造物を何倍にも大きくした感じだ。


もはや白亜のお城。


精霊の数も桁違いに膨れ上がる。


やっぱり神秘的な力を宿してるのだろう。


先程までの緩みが無くなり、自然と身を引き締める。


ここがこれからの僕の住まう場所。


神聖国の中心にて、大陸の中心。


大陸最大国、エディシラ神聖国。


人口約60万人がおり、人間が唯一信仰する神。


世界を作り、生物を創造したとされる、唯一神。


多種族が信仰する神は全て、唯一神の眷族とされる絶対神。


そんな凄まじい神を信仰する者が集まり生まれたのがエディシラ神聖国。


エディシラという初代神子が作ったとされる国。


千年という長い歴史を持つ。


脳内にユリアさんからの歴史解説がフラッシュバックされる。


重たい重圧。のしかかる責任感。不安。恐怖。吐き気。目眩。


自分の弱さに呆れる。


ここまで来て、あと一歩が踏み出せない。


「神子様?」


聖騎士(パラディン)の人が心配そうにしている。


早く進まなきゃ。


震える体を鼓舞し、神輿から降りる。


1番大事な時、誰も助けてはくれない。


自分で乗り切らなければならない。


「すぅーーーふぅーーー」


深呼吸をする。


肺に空気が溜まり僅かに気持ちが落ち着く。


それでも足りない。


この1歩が踏み出せない。


『大丈夫よ』


『ヒナ達がついてるよ!』


不意に背中に温かみを感じた。


気がつけば1歩踏み出していた。


そうだ僕は1人じゃない。


初めは、寂しさや魔法に対する興奮から生み出した存在だけど、彼女達も僕のかけがえのない存在なのだ。


何と心強い。


1度踏み出したら、あとはすんなりと歩が進む。


「行きましょう」


「「「はっ!」」」


神殿に通じる階段を上がっていく。


徐々に不思議な感覚になる。


心が落ち着いていく。


思考がクリアになっていく。


神聖な魔力でも宿っているのだろうか。


心地よい。


階段を上がりきると、神殿の大きさに驚く。


視界いっぱいに広がる石で出来た建造物。


石の柱一つ一つに、細かい彫刻が施されている。


見慣れない文字も多く刻まれている。


「よくぞ参りました神子よ」


とこかで聞いたセリフ。


神殿からアーケル枢機卿と先程の御一行が現れる。


ユリアさんの姿もある。


「奥にて教皇猊下と聖女様がお待ちです」


枢機卿が奥に手を向ける。


行けという事だね。


踏み出す。


僕が通り過ぎると後ろから足音が続いた。


みんな僕の後ろに並んで進んでいるんだ。


RPGでのマップ移動みたいで笑いそうになる。


神殿の中は更に細かな装飾品が飾られており、ステンドグラスからは、色んな絵柄が描かれていた。


ステンドグラスから差し込む光は神秘的で思わず見蕩れそうになり、立ち止まりかける。


進む道の左右からはシスター服の女性と、神官服の男性が綺麗に整列して頭を下げていた。


奥に進むと騎士の格好をした男性と女性も現れる。


そして最奥。


大きなステンドグラスを背に玉座のような

ものが3つ並んだ広間に辿り着く。


左の玉座には眼鏡をかけた中年の男性。


ユリアさんと同じ茶髪をしており、目を閉じていると思うほどに細目。そして優しそうな笑みを浮かべ僕を見つめる。


右の玉座にはシスター服の豪華版みたいな祭服を身にまとった10代後半の女性。


真っ白な長い髪に、透き通るサファイアの瞳。まるで作り物のような綺麗な顔。


そんな女性が微笑みを僕に向ける。


左が教皇様で右が聖女様なのだろう。


対比のように左サイドに聖騎士(パラディン)の人達と、枢機卿などの男性陣が加わる。


右サイドには、恐らくは戦乙女(ワルキューレ)の女性達と、ユリアさんなどの女性陣が加わる。


男女に完全に別れている。


僕はどうすれば……。


普通に考えて主役の神子が配列に並ぶ訳には行かないよね。


まさかいきなり目の前の空席の玉座に座るなどあるはずが無い。


「君が神子なのかい」


教皇様が穏やかな口調で話しかけてきた。


なんだろう。枢機卿の威圧感とも違う迫力がある。


飲み込まれるな。


もう神子として生きると決めたんだ。


なら自分の気持ちを素直に告げたらいい。


「分かりません」


僕の発言に場がざわつく。


教皇様が軽く手を上げると場が静まりかえる。


「驚いたね。てっきり神子と名乗ると思ったのだけれど」


また試練が残っていたようだ。


明らかに試されている。


枢機卿の威圧を受けてなかったら、今頃僕は何も言えずにいただろう。


まさか枢機卿はそれを狙って……?


枢機卿に目を向けると、ニヤッと笑みを浮かべた。


感謝するよおじいちゃん!


「僕は、自分を神子などと呼ばれるほど凄い人だとは思えません」


「ならば何故ここに来たんだい?」


ミスればおしまいだ。


「僕を神子だと信じてくれた人達が居たから」


ユリアさんや聖騎士(パラディン)の人達を見る。


「僕を神子だと認めてくれた人達が居たから」


枢機卿や司教の人達を見る。


「そして、僕がみんなの望む神子でありたいから」


偽物でもいい。


本物じゃなくていい。


信じてくれるのなら。


認めてくれるのなら。


許してもらえるのなら。


「僕は神子になってみんなに応えたい! 例えこの一生を捧げても! 僕は神子でありたい!」


まだ何も知らない未熟者だけど、歴代の神子の偉大さに落潰れるそうになるけど。


それでも、ユリアさんが求めた。聖騎士(パラディン)の人達が涙を流し、感謝した。


神子(あなた)に出会えて良かった。


僕は何も無い人間だ。


何も無い僕が求められた。


理由としては弱いだろう。


大層な目標もなければ、壮絶な過去があるわけじゃない。


生まれは村。育ちも村。


魔法が大好きでそれ以外特に特徴のない村の少年。


それが僕だ。


普通なら神子など大層な役割が務まるわけが無い。


恥さらしだ。やめた方がいい。


でも。それでも応えたい。


誰かに求められたい。


全くもって個人的な感情だ。


誰にも求められず、まだ自分から誰かに関わろうとしなかった孤独な第1の人生。


せめてこの第2の人生は人の為に使いたい。


「それが僕の来た理由です」


場は相変わらず静かだ。


教皇様は僕を見つめたまま。


「その道は、君が想像するよりも遥かに険しいよ? それでも神子になりたいのかい?」


「はい!」


「そっか。ならば私は、教皇として君を神子として認めよう」


「教皇様のお出しになった答えならば、私にも依存はありません。聖女として貴方を神子と認めます」


場がわぁ! と盛り上がる。


「よかった! 本当に良かった!」


ユリアさんが安堵する。


「神子様ぁ!! 信じておりましたぁ!!」


聖騎士(パラディン)の人達が僕に手を振る。


「おめでとうございます!」


「新たな神子の誕生になるのですね」


「ええ。100年以来の神子誕生です!」


よかった。本当によかった。


その場にへたり込む。


今更酸素を求めるかのように、息を吸う。


心臓がパクパクなっている。


「しかし教皇よ。あまりにも意地悪ではないか?」


教皇様にタメ口を聞くのは枢機卿。


「あはは。彼には悪いことをしました。ですがこういう儀式は必要ですので」


やっぱり試されてたか。


「さあ、神子。貴方が座るべき場所に座りましょう」


気がつけば傍に聖女様が近づいていた。


聖女様が僕の手をひっぱり立ち上がらせる。


そのまま手を引かれて、真ん中の玉座を上がっていく。


上がりきると聖女様が僕に向き直る。


「始まりはこの場所から。神子が生まれたのは小さな村。小さな奇跡を使い村人達を救った。やがて噂を聞きつけた人々が救いを求め、神子は人々の願いを叶えた。日々笑い合えるそんな場所を神子が願い、救われた人々が神子の願いを叶えようとし、町が出来た。そこには幸せがあった。やがて神子は亡くなり、人々は神子に感謝し、彼女の名前を付けた国を作り、神子を遣わせた神に感謝を捧げた……それがエディシラ神聖国の始まりとされる話です」


クスリと笑う聖女様。


「貴方に似てませんか? 村に生まれた小さな神子様」


確かにそうだ。


「きっと貴方は、初代の神子とは無関係なのかも知れません。ですが貴方はきっと初代の神子にも負けない素敵な神子になる……と私は何となく思うんです」


根拠ないんかい。でも何か嬉しい。


「さあ。おかけになってください。ここから貴方の神子としての人生が始まるんです」


促され玉座に座る。


小さな体には大きいけれど、不思議と誇らしく感じる。


玉座から見る景色は何となく、儚く感じた。


「と言っても、直ぐに式典をやる為に外に出るのでお立ちになってくださいね」


僕の玉座に座っていた時間僅か数秒。


聖女様に引っ張られ立ち上がらされる。


聖女様は以外とお茶目なのかもしれない。


「さあ、行きましょう。信徒の皆さんがお待ちです」


教皇様の一言で賑やかだった広間は直ぐに静かになり、聖騎士(パラディン)の人達と戦乙女(ワルキューレ)の人達が編成を組み、移動を開始する。


僕も聖女様に促され、神殿の外へと向かった。





祭典は僕を神子だと紹介するものだ。


外と言っても神殿の上層にある教皇様や聖女様が集まった信徒の人達に話をするベランダのような場所だ。


高くから下に視線を向ける教皇様と隣に立つ聖女様。左右から聖騎士(パラディン)戦乙女(ワルキューレ)が守護する。


僕はまだ控えている。


教皇様と聖女様のありがたいお言葉が続く。


失礼だけど気分は校長の長話を聞いているようだ。


「では、長話もここら辺にして、皆が望む本日の主役をお呼びしましょう」


教皇様が僕を手招きする。


予め枢機卿から、演出を大事にと小言を言われているので、オーラ全開だ。


光に包まれた僕はそのまま教皇様と聖女様の所は歩む。


僕の姿を見た途端本日何回目の歓声が上がる。


「見ての通り、100年もの間、神子は誕生しませんでした」


教皇様は短く区切り、聞き取りやすいように声に魔力を乗せて、声を拡大させているんだ。


繊細な魔力操作技術がなければ出来ない芸当だ。


「ですが今日ここに、新たな神子が誕生しました」


わーっ!! と更に場が盛り上がる。


「彼は見ての通りまだ幼い。ですので知らないことや、分からないことが多くありましょう」


歓声の中でも一切存在を失わない声に人々も静かになっていく。


「歴代の神子は誰しもが強大な力を身に宿しました。ですが彼らに頼りすぎていいのでしょうか?」


皆聞き入っている。


「確かに彼らは神から選ばれた者達でしょう。ですが彼らも我々と同じように母から生まれた人間なのです」


「皆さんも知っているでしょう。エディシラ神聖国の始まりを。この国は神子に救われた人々が神子の願いを叶えようとし建国した国なのです」


「互いに支え合い助け合うことこそ本来の姿だと私は思います」


「ですので、神子が可愛すぎるからといって可愛がり過ぎないように」


なんでそうなるの!?


僕のツッコミを他所に、場に笑い声が溢れる。


「これが教皇様が支持される理由の1つなんですよ」


聖女様が耳打ちしてくれる。


確かにお堅いイメージがあったけど、実際は場の空気を大切にして、みんなを笑顔に出来る素敵な人だ。


教皇様はいい人なんだなあ。


その後は信徒の人達に手を振り笑顔を振りまく難しいお仕事がまっていました。


これで僕は晴れて神子だ。


未熟者だけど、大勢の人達の役に立つように頑張ろう。


そしていつかお母様とお父様に胸を張って会いに行くんだ。

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