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17話 神子になる覚悟を示せ

とりま、行きますか。


豪華絢爛。この前まで乗っていた馬車もかなり豪華だったけど、今から僕が乗ろうとしている馬車はそれを越える。


しかもこれは首都に入る直前までて、首都に入り神聖国のシンボルであり中心でもある神殿まで天井の無い所謂オープンカーみたいなやつに乗って信徒達に僕の姿を見せるのが狙いだとか。


100年ぶりの神子到来に神聖国はめちゃくちゃ盛り上がっているらしい。


町では教会から出れなかったけど、かなり賑やかだった。


馬車の前に立つと、聖騎士(パラディン)の1人が扉を開けてくれる。


そしてもう1人が踏み台を用意して、もう1人が僕に手を差し出して、エスコートしようとしたら、ユリアさんがその聖騎士(パラディン)さんを叱っていた。


「それは私の役目です」


「はっ! 失礼しました」


そうやって渋々下がる。


「では参りましょう。神子様」


そう言って、ユリアさんが手を差し出す。


「はい」


ユリアさんの手を取り、踏み台を使って馬車に乗り込む。


馬車の中は落ち着いたデザインで、心が落ち着いていく。


「では……出発!」


聖騎士(パラディン)の1人が掛け声で馬車が動き出す。


驚くほどに振動は無く、揺りフェチにはおすすめ出来ない馬車だ。


「この馬車には、精神を落ち着かせる技術が施されているのですよ」


ユリアさんが眼鏡を拭きながら話しかけてくる。


そう言うユリアさんもリラックスしているように見える。


残念なのが、眼鏡を拭いている間は目を閉じていることだ。眼鏡の無いユリアさんも見てみたいのに。


魔法付与(エンチャント)ですか」


「確かに魔法付与(エンチャント)は使われていますが、それは振動や空気の循環などですね。精神に作用する魔法は禁忌とされてますので」


「じゃあ、魔法を使わない純粋な技術という訳ですね。すごいですね」


「神聖国でも大司教以上の者しか使えない特別製ですので」


大司教以上の者……僕のことか。


それにしても、精神魔法が禁忌とな。


魅了や精神支配はやっぱり怖いもんね。


僕ならコロッと操り人形になりそう。


対処法はあるのかね。


「精神魔法は対処出来るのですか?」


「可能性です。魔力を体に循環させる『身体強化』にもある程度の抵抗(レジスト)効果はありますし、神子様や私の着ている祭服にも精神魔法に対する防御魔法が付与されているので、心配は無用ですが……『才能(ギフト)』持ちには気を付けた方がいいです」


やっぱり『才能(ギフト)』にもそういう系のがあるんだ。


『身体強化』ねぇ。僕のは欠陥技だけど、効果あるといいなぁ。


「さあ、神子様。もうしばらく時間があるので横になっては如何ですか?」


おっと。そう言えば今日は朝早くから支度してて、寝不足気味だったんだ。


「じゃあ。少しだけ」


僕は靴を脱ぎ、横になる。


柔らかいクッションで覆われた体は躊躇わずに眠りへと誘われた。





自然と目が覚めた。


まるで成すべきことがあるように。


「神子様。おはようございます」


「おはようございます」


ユリアさんは寝る前と何ら変わらない姿勢のままだ。


ずっと同じ姿勢で居たのかと思うと、流石だなと思った。


「もうじき首都へと辿り着きます。ご準備を」


言われた通りに、衣服を整える。


やっぱり肌触りがいい。


いくらでも触れそうだ。


ビシッと決まったとユリアさんに視線を向けると。


「ズレてますよ」


手が頭に乗っけられていた帽子に伸びた。


「ありがとうございます」


なんか照れくさいや。


精神的には僕の方が年上なんだけど、姉が居たらこんな感じなのかな。


「これで……よし。お似合いですよ神子様」


「ことある事に褒めるのやめてください。照れます」


「真実を言ったまでですが。……分かりました。控えます」


控えるだけなんだ。


そうして穏やかな気持ちのまま暫くぼっーとしていると、馬車が止まる。


「首都の近辺まで着いたようです。ここからは神輿に乗っていただきます」


「はい……」


きっと目立つやつだ。いや、目立つ為に乗るんだけどね。


馬車の扉が聖騎士(パラディン)により開かれ、ユリアさんに手を引かれて踏み台を使って馬車から降りる。


そこには、僕の想像を遥かに超える光景が広がっていた。


「よくぞ神聖国へ参られました。神子よ」


そう言って祭服を身にまとった人達が十数人僕に頭を下げた。


中心にはさっき発言をした白髪のおじいちゃん。


この中でも1番祭服が豪華だ。


首からアクセサリーを多くぶら下げ、両手にも腕輪を身に付けている。


「うっ……ひっ……うぅぅ……」


と思ったら泣き出したぞ!? このおじいちゃん。


「いやはや。まさか生きている内に神子に、神子にお会い出来るとは……っ!! このアーケル! もはや一遍の悔いなし!」


そう豪語するおじいちゃんは拳を突き上げて、そのまま倒れ込む。


「え、えぇー」


戸惑う僕に。


「「「アーケル枢機卿!!」」」


追い打ちをかける。


「ユ、ユリアさん? もしかしてあの御方は……」


「はい。教皇と聖女の次に権力を持つ枢機卿になります」


目頭を押さえて、頭が痛そうにする。


回りの祭服を着た人達は倒れ込んだ枢機卿のおじいちゃんに群がる。


「ちなみにこの場に来た方々は、全員司教以上の方になります」


まじで……。





暫くして枢機卿が目を覚ます。


「おお。ここが天界か」


「いえ。生きてますよ枢機卿」


ユリアさんがツッコミ。


「うむ。そうか。儂にはまだ果たすべきことがあったのだな」


何やらしんみりした雰囲気を醸し出す。


「時間も迫っているので、そろそろよろしいですか?」


「うむ。そうだな」


ムクリと立ち上がり、僕に向き直る。


背筋は真っ直ぐに伸び、さっきまでの老いたおじいちゃんではなく、人の上に立つ覇気のようなものを感じた。


自然と背筋がピンと伸びる。


「神子よ」


「は、はい」


この凄まじい眼光に体が萎縮する。


まるで金縛りにあったみたいだ。


「お主……」


見透かされたような……まさか。


本物じゃないことがバレた!?


ヤバイ消される!


動悸が早くなる。


「儂の孫にならんか?」


「へ?」


さっきまでの覇気はどこやら。


ニコッと人の良い笑顔を向けて、僕の肩に手を載せる。


「アーケル枢機卿!」


素早くユリアさんがおじいちゃんを叱る。


「なんだなんだ。別にいいじゃないか。減るものでもないし。なんならユリアちゃんも儂の孫になるか?」


「なりません!おふざけも大概にしてください!!」


普段クールなユリアさんがツッコミキャラみたいになっている。


「ふざけておらんよ。考えてみよ。何処の馬の骨とも知らない幼子を連れてきて、いきなり神子です! と言った所でどれほどの者が信じる? 現に此奴らの大半は未だに信じておらんぞ」


そうやって後ろに居る司教以上の方々を指さす。


「そ、それは!」


ユリアさんの言葉が詰まる。


雲行きが怪しい。


ユリアさんの話じゃ、みんな祝っているって話だったけど、事実は嘘か本当か半信半疑な人達ばかりみたいだ。


「儂の孫ということにしとけば、箔が付くだろう?」


「……それでは、神子様が本物ではないと言っているようなものじゃありませんか」


ユリアさんは拳を震わせる。


確かに。


枢機卿の孫が神子! ならみんな信じるだろう。


でもユリアさんからしたら、奇跡を起こす者が本物の神子であり、誰か、偉大な人の子孫だから神子では無いのだろう。


なんか僕も悔しくなってきた。


ユリアさんと聖騎士(パラディン)の人達がどれほど神子という存在を待ち望んできたか、僕には計り知れない。


それでも言えることは。


僕は神子だ。


ユリアさん達が望むのなら僕は神子だ。


誰がなんと言おうと僕は神子なんだ。


たとえ偽物でも、本物に及ばなくても、応えたい。


ユリアさん達の気持ちに。


「どうすれば」


「ん?」


気がつけば言葉が零れていた。


「どうすれば、皆さんに僕を認めさせることが出来ますか?」


認めさせる(・・・・・)か……言うな小僧」


さっきまでの優しい笑顔は無く、そこには冷たく何処までも冷めきった眼光が僕を射抜く。


負けるな。


逃げるな。


僕が僕である限り、誰にも僕を失わさせられない。


容赦はしない。と言っているかのように。


枢機卿本人から魔力が吹き出し僕にぶつけてくる。


「アーケル枢機卿!」


ユリアさんが叫ぶ。


「さ、さすがに不味いですよ!!」


沈黙していた聖騎士(パラディン)の人達も慌てて僕に近寄ろうとする。


「近づくな!」


枢機卿の眼光が近づこうとした聖騎士(パラディン)やユリアさんを止める。


「いいか……これは此奴の意思だ。なら儂はエディシラ神聖国の枢機卿としてその覚悟を確かめねばならん! お前達も何もするなよ」


僕を助けようとした司教の人達も釘を刺される。


そして枢機卿の眼光は僕に戻る。


「さあ。どうする神子を名乗らんとする幼子よ」


手を広げ問うてくる。


遠慮は要らんと現に言っている。


なら遠慮など必要ないだろう。


と言うよりは僕如きが、この人をどうこう出来るビジョンが全く浮かばない。


魔力を瞳に込めて枢機卿を見ても、全くその底が見えない。


正真正銘の化け物だ。


ならば僕の全てをぶつけよう。


「ふぅ……」


目を閉じて、身体の中に渦巻く魔力を解き放つ。


今思えば、僕は魔力を意味なく放出させることなど今まで1度も無かった。


飲む必要のない水を蛇口から捻るように、徐々に抑えを弱くしていく。


例え僕が凄い人じゃなくても、僕を凄い人と言ってくれる人には、凄い人としてありたい。


だから、今一度力を貸してほしい。


「『魔力解放(マナ)』」


途端、周囲に風が吹き荒れる。


身体が軽い。


長い束縛から解き放たれたようだ。


解き放たれた魔力は周囲を覆い尽くす。


目に見えること以外にも色んなことが感じ取れた。


瞳に映る世界には精霊が溢れ、肌には魔力の風が撫でる。


ああ……これが。これこそが……。


異世界(ぼくのせかい)


「これ程なのか! 凄まじい! 素晴らしい!!」


「あ、ああ……本物です。本物の神の子です!」


「神子様……やはり貴方は」


「綺麗だ……神子様にはこんな世界が見えていたのか」


みんな感動している。


認めて貰えたかな?


「もういい。幼子……いや、神子よ」


枢機卿のおじいちゃんが僕の前にやってきて、


「貴方は間違えなく、我らが神子だ」


跪いた。


「「「神子様」」」


その場に居た人達も全員、僕に跪く。


良かった。


分かってくれた。


解き放った魔力を身体に引き戻す。


軽く感じた身体は、僅かに重く、息苦しさすら感じる。


今までは押さえ込んでいたのが普通だったから、解き放つ楽さを知ってしまった今は我慢することが少しきつい。


そして思った。


うん。魔力量半端なく増えてない?

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